ATTRACTION

□fake!fake!@
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 ある日、プリマジスタ・***の元に、一件の仕事が舞い込む。
 それは、マジスタのダイレクトメッセージに届いた。あくまで一般的な学生の延長線上にいる***にとって、仕事の連絡にはマジスタが使いやすかった。
 送り主は、有名なプリマジ雑誌の公式アカウント。無論***も購読しており、そのアカウントをフォローしている。信頼していい相手と言えるだろう。
 依頼内容は、『今まで接点のなかったプリマジスタ二人でのインタビュー及びデュオプリマジ』であった。
 その内容で***は、どのコーナーかピンときた。その雑誌では最後の方に毎回、今注目のプリマジスタ二人を特集するページがある。その組み合わせがいつも独特で、プリマジスタは新たな人脈を作れ、ファンは新たな一面を見られる、ということで人気のコーナーだ。
 プリマジスタは中学一年生から始める者が多い中で、***は中二からのスタートだった。他のプリマジスタと比べると遅かったが、このような仕事を依頼されるということは、きちんと人気が上がってきているということだ。
 ***は念の為ビジネスメールの例文を検索してから、そのメッセージに承諾の返信をした。

 同じ頃、もう一人のプリマジスタにも、同じ連絡が届いていた。
 『かわいい』をセオリーとするプリマジスタ、みるきだ。
「やっとかお〜〜」
依頼文を見ながら、みるきはベッドに倒れ込む。プリマジを研究し尽くしているみるきは、勿論この雑誌も読んでいる。自分の人気は申し分ないと自負しているため、このコーナーに呼ばれる日を待ち侘びていた。
「この仕事受けるはに?」
「もちろんだお」
 パートナーのマナマナであるはにたんの問いかけに返事をし、みるきは素早く了承する返信を送った。
「……相手のプリマジスタのこと、よく見ずに引き受けてよかったはに?」
「誰だろうと関係ないお。かわいいみるきの引き立て役になってもらうお〜」
「……はぁ」
はにたんが溜め息をつく。
「ちゃんと調べておくはに」
「わかってるお」

 ***は依頼文にあった、みるきというプリマジスタについて検索する。
 ***はあまりプリマジについて詳しくない。表現に関してはどちらかというと、他のジャンルのアーティストを参考にすることが多かった。
 検索すると、本人が運用するマジスタアカウントや、ネット記事、ファンコミュニティなどがすぐに出てきた。中堅層としては、かなり実力があるようだ。
 マジスタのアカウントを見ながら、***は思う。
(うわ〜〜……こういう子は男にモテるから苦手なんだよなあ)
 こう思うのは、僻みからではない。
 ***は女の子が好きな女である。そして、自分を好きになってくれる可能性がほんの少しでもある女の子は、どんな性格や外見であろうと好きだ。
 故に、自分を好きになる可能性が一切無い──男にしか興味がなさそうな女の子は、***が苦手、ひいては嫌悪までする存在だ。
 みるきのアカウントの投稿はほとんどが自撮りで、コメント欄には男性のものとおぼしき書き込みが多い。どこまでが『キャラクター』か分からないが、こういった路線を選んでいる時点で、***が苦手意識を持つには十分だった。

 みるきもまた、***のことを改めて調べていた。
 ***。デビューしてすぐの頃に、みるきの情報網には引っかかっていたため、その存在は知っていた。特定のブランドにこだわることなく、全体的に『かっこいい』プリマジの傾向が強い。この傾向は、みるきの対極と言える。
 みるきが注目したのは、マジスタの投稿だった。
 律儀な投稿頻度に、文は低年齢でも安心して読めるような平易かつ丁寧な言葉遣い。コーデや曲に対して、ポジティブな感想だけを述べている。それは、プリマジスタとしては、正しい振る舞いと言える。
 だが、***の投稿は、あまりにも正しすぎた。
 整えられた文章は丁寧を通り越して、『無味無臭』にすら近い。彼女の文を読んでも、彼女の詳しいパーソナリティが読めない。
(私と同じで猫かぶってるタイプかお……?)
それにしては文章に真実味が、『本人が望んでそうしている』雰囲気が滲み出ている。
(ひな先輩に近い方向みたいだし、本気でこう思ってる可能性もあるお)
要は、努力してキラキラ輝くことを全力で肯定できる人間──嫌な言い方をしてしまえば『意識が高い人』──は、本心からポジティブなことだけを言うイメージが強い。
(もしそうだとしたら、あんまり近付きたくないお……)
 人間のポジティブな面ばかりを掬い取る人間は、人の本質を見落とす。自分の性格が良いとは思っていないみるきだからこそ、そういった人間には苦手意識があった。

 そして、当日がやってきた。
 プリマジは雑誌が主催したことが告知され、その分普段よりも注目度が上がるため、絶対に成功させなければならない。
 そのためには、初めてのデュオの相手と、インタビューを通じて打ち解けなければならない。
 だがその日、二人のプリマジスタは、どちらも気分を落としていた。
(はぁ……、ここのコーナーは意外性のある組み合わせだから面白いのは分かってるけどさ、俺でよかったの? もっとさあ、なんかあったんじゃない?)
 スタジオに向かって、***は頭をかき悩みながら歩く。
(あ〜あ……やっと待ってた仕事が来たと思ったのに、ああいうタイプ引くのは運がないお)
 みるきははにたんをぬいぐるみのように抱えながら、スタジオの柔らかな床を歩く。
 撮影所に着いたのは、ほとんど同時だった。部屋のドアの前で、みるきの方が先に仕掛ける。
「あなたが***ちゃんだお? 今日はよろしくね♡」
「みるきちゃん! こちらこそよろしくね!」
「たしかぁ、***ちゃんはこういう撮影受けるのって、はじめてだよねぇ? みるきは何度か受けてるから、こまったら頼ってほしいお♡」
「ありがとう! みるきちゃんも、私に何かできることがあったら気軽に言ってね!」
「……」
「……」
 一瞬、膠着状態になる。その時、部屋のドアが開いた。
「みるきさん、***さん、お早いですね。どうぞ中にお入りください!」
インタビュアーの女性がそう言うと、二人はしずしずと部屋に入っていった。

 インタビュー自体は、滞りなく進んでいった。
「では最後に、お二人がプリマジスタとして活動していく上での信念をお教えください」
「私は、みんなに色んな形での輝き方を伝えていきたいです。同じ一人のプリマジスタでも、色んなコーデや曲、ダンス、イリュージョンがあって、色んな可能性を見出せます。そこから、他のあらゆる分野でも、人には様々な可能性があることを知ってほしいです。」
「なるほど。みるきさんはいかがですか?」
「私はぁ、み〜んなにかわいいを届けたいです♡ それで、こんなにかわいい世界があるんだよ、って知ってもらって、日々の癒しや、元気のみなもとにしてほしいです♡」
「なるほど。ありがとうございました!」
「ありがとうございました!」
「ありがとうございます♡」
「それではプリマジ前の準備に入るまで、おくつろぎください」
「はいっ」
「は〜い♡」
 そうして、カメラマンとインタビュアーは部屋から退出していった。
 それから間髪入れず、みるきも腰を上げる。
「みるきぃ、お手洗い行ってくるお」
「場所分かる? 大丈夫?」
「うん大丈夫♡ ここに来るまでに確認しておいたお」
そう言ってはにたんを抱えて、みるきはトイレに向かった。
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