小さなお話
□言って。
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「好き」
人が何と言おうと私はあんたが好きなの。
それなのにね、愛しいあんたと来たら、“新しく好きな人が出来た”って。マジないわ。
好きな人が出来た?ちょっと何それ意味わかんない。私には少なくとも理解できない。
だから謝ってよ。
跪いて、そう、惨めね。そう、私のヒールの先であんたの顎を持ち上げて。
そのまま、爪先にキスして。
そのまま、顔を蹴ってあげるから。
ひっくりかえったあんたの腹をヒールのかかとで踏みつけてあげるから。
「愛してるって、私を愛してるって言いなさいよ」
ねぇ、私はあなたを愛してるのに。
あーあ、これお気に入りのヒールだったのにな。汚れちゃった。どうしてくれるの?
初めてあんたとのデートする時に買ったヒールなのよ。大事にしてたのよ。
そういえば、あの時もあんたは私のことぞんざいに扱ったわよね。覚えてる?
あの時からだなんて、
「まるで気が付かない私が馬鹿みたいじゃない」
信じてたのよ。いや、今も信じてる。あんたが本当に好きなのは私だって信じてる。というか、知ってる。私は、それを知らないほど馬鹿じゃないわ。
「愛してるって、ねぇ、何で言ってくれないの」
愛してるって、その言葉だけでもいいの。
もう謝らなくたっていい、謝ったってもう遅いけど、その言葉だけその気持ちだけ私に頂戴。
ねぇ。どうして、黙ってるの。そうね、あんたはあの時も目をそらして黙って。
「言いなさい」
ねぇ、言いなさい。
「言いなさいって」
何で、言ってくれないの。ねぇ、どうして。
愛してるって言って。それだけでいいから。
言って。じゃないと私、