短編
□欲の話。
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ふと、僕は満員電車の中で仁王立ちしたサラリーマンの両脚の窓から、生えているハイヒールを履いた美しい片脚が欲しくなった。
池袋に電車が止まると、脚は消え失せた。
あれは、確か僕が友人の某氏と、初めて渋谷に行った帰りの山手線。
渋谷は騒々しくって。普段お年寄りの都に住んで居るものだからそう感じたのかな。
ハチ公の改札から外に出て。
周りは若者ばかりで。
皆いろんな恰好して。
おしゃれな友人に誘われ服を見に行ったんだけど、やっぱり
僕は服がこわい。
いや、服自体はいいんだ。あいつらに罪はない
よ。
目がこわい。どうして服なんて着ていられるんだ。服を着れば笑われる。
どうして僕は自分の愛するものを愛せないんだ。
こわいんだ。
弱虫だよ、僕は。
死にたい。
土に溶けて、いや、ただもう空気に溶けて、僕を構成する元素ごと消してくれないか。
死にたいんじゃない、消えてしまいたい。
服がこわい。
僕の好きな色は、君の大嫌いな色。
僕の好きな君の好きな人は、僕の嫌いな人。
灰色や黒が好きだ。
友人には、モノクロだ地味だって言われるけどさ。
僕の好きな色は灰色で、黒で。
君が嫌いな色。
どうしようもないこの僕のイライラを君に刺してしまいたい。君じゃなくても僕でもいいけど。
赤や黄色の服は何だかこわい。
少なくとも僕はそう。
本能というモノが、僕が抑えきれない、僕に不似合いな不釣り合いな、大きな本能が出てきそうでこわい。
時々、人の自分の事しか見えてないところを見つけると落ち着く。僕と一緒で安心する。もっと自分自身の事を見てくれ。そしたら、少なくとも僕はこの都会で生きやすくなるよ。
めんどくさくない人間なんていないように。
ただ、大きいか小さいだけなんだけど。
それでも。
欲しい。好きもきっとそれ。
欲しい、好き、気持ちが大きければ勝ちなんて嫌だ。いや、でも僕が気持ちが大きい側だったら、きっといや絶対気持ちの小さい人を軽蔑する。
そんな自分が憎くて死んでほしい。
いや、消えて欲しい。
きっと、この街に居る人達は好きという気持ちが大きいか、それとも人と一緒じゃないとこわいっていう気持ちの大きな人が多いんだ。
あの子を思い出した。彼女はいつか失わされる自分の宝物でさえ、好きという気持ちが小さかった。いや、本当は表に出なかっただけで、大きいのかもしれない。それとも僕がそう思っていて欲しいってエゴで、そう思うのか。
なんにしろ、あの子は好きなことが無いって、それで普通の子と違うところに進むって。
宝物を壊されるって。
もしかして、僕が宝物だと独りでに思っているだけかい。
泣けるね。
僕が泣くだけだ。誰も何も変わらない。
それは悲しいことか。
どうでもいいよね、どうでもいい。
たかが僕の悲しみなんて何もお金も生産しない。
僕の読んでる本、君は嫌いだと言う。僕は君の僕と違っても全く僕に合わせないところが好き。