お砂糖と私。

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『早くしてください』


「めぐみちゃんも選んでよ」


『え。なんであたしが』








とあるショッピングセンターで佐藤さんと2人きり。あたしは今、佐藤さんのショッピングに連れ回されているところなのだ。

何故こんなことになったかというと、この前の呑み会の時にあたしがバカみたいに呑んで酔い潰れちゃってその時に佐藤さんと電話番号を交換してしまったらしく、今日の朝急に「ちょっと付き合って」って電話が掛かってきて。どうしよう、と貴寛さんに相談したら「いいじゃん。息抜きに行ってくれば?」って。お前仕事あるだろ、とか止めてくれることを期待してたのに……。


正直あたしは佐藤さん宅でのことが引っかかってて、まだちょっと気まずいまま。








「あれもいいな!これもよくない?」


『いいと思います』


「すげぇ棒読みじゃん。なにそれ」


『あたしは何も口出ししないので思う存分買い物してくだ』


「喉乾いた。あそこ入ろ」


『…………』










――――――――――――――――――










「あー!!!物欲発散!ストレス発散!」


『……』


「めぐみちゃんも何か飲んだら?」


『お冷で結構です』


「ふーん。じゃあ遠慮なくいただきます」










そう言うときっちり手を合わせて目の前のステーキなるものをナイフとフォークで食べ始めた。



なんで佐藤さんがご飯食べてるところを見ないといけないの?あたしはストレス発散どころかストレス溜まる一方なんだけど、これっていつ解放されるんだろうか……。

溜め息を吐くと佐藤さんが口を開けた。






「この前のことまだ怒ってる?」


『え?』


「泣いてたじゃん」







悪びれもなく佐藤さんは続けて「俺間違ったこと言ってないから謝んないけどね」って口にお肉を頬張りながら言った。そんな佐藤さんを見てあたしは笑ってしまった。








『ハハハ、佐藤さんって子どもみたいですね』


「はぁ?そんなこと初めて言われたけど」


『バカ正直すぎる。』


「バカは余計だろ」









くしゃっと笑う佐藤さん。

何故か、佐藤さんを見てるとあたしも正直でいたいと思ってしまう。実際、貴寛さんへの気持ちをしっかり認識させてくれたのは佐藤さんの言動のおかげな訳で。その点に関しては感謝してる。









『ありがとうございます。』


「何が?」


『いろいろと』


「お礼したい?」


『は?』


「俺に感謝してんでしょ?」


『いや、まぁ。……はい』








何この人……。自分から「お礼したい?」とか聞く?むしろ、お礼なんかする気なかったんだけど。「えー、何にしよっかなー」とか笑顔で言っちゃってるし。物凄いこと言われたらどうしよう。







「俺の言うこと一つ聞いてよ」


『聞ける範囲であれば』


「簡単簡単!俺のこと名前で呼んで」


『え、いや、さすがにそれは……』


「じゃないと、たかとのことマスコミにチクるから」









やっぱこの人最悪。何考えてるかわからない。芸能人ってこんな人ばっかりなの?……でも関係をバラされるのは貴寛さんに迷惑がかかるから従うしかない。









『いいですよ?健さん』


「だめ。たける。」


『健』


「あと敬語なしね」


『聞くのは一つだけですよね?』


「チクるよ?」








その一言で黙り込んでしまうあたしを見てケタケタ笑って「俺を芸能人として見なくていいから」って言うもんだから首をかしげた。








『どういうことですか?』


「この世界に入ったら見たくないモノも見ちゃうし聞きたくないコトも聞いちゃうし、ましてやハマりたくないコトにだってハマっちゃうからさ。俺が捌け口になってあげる」


『頼んでないですけど』


「……敬語」


『さすがに敬語は』


「チクるよ」








チクるチクるってなんなのこの人!

こんな奴に神経使って敬語使う方が時間の無駄だわ。








『ほんとに敬語使わないからね?』


「その方がずっとめぐみらしいよ」








急に名前を呼び捨てで呼ばれて健の顔をキッと睨む。睨まれた本人はあたしの行動を楽しそうに見ながら黙々と食を楽しんでいる。そういえば、いつの間にか気まずい雰囲気は無くなってる……。そういうのを払拭するのは上手なのかも。





帰宅中、ボソッと『楽しかった』って言ってしまったのは秘密。















(この人が必要になることをあたしはまだ知らない)





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