お砂糖と私。
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あたしはいつだって2番目。何においても。
次女。
学生時代、校内学歴万年2位。
恋愛はいつも浮気相手。それかセフレ。
いつも1番の引き立たせ役。
あたしの何が悪いのか、どこがいけないのかって何度も考えたし、あたしは常に必死で一生懸命頑張ってきた。頑張って1番になろうって。それなのに誰もわかってくれない。だから、コレがあたしの運命なんだと思うことにした。
いつだってあたしは2番目で、誰かがあたしを必要とする時はいつも身体目当てで……
もう誰も信じない。
イツダッテアタシハ2バンメ。
イツニナレバダレカノ1バンニナレルノ?
――――――――
『貴寛さん、起きてください』
「んん、」
ベッドの周りに乱雑に落ちている服を身に纏いながら、隣で気持ちよさそうに寝ている人を揺さぶる。一向に起きる気配がないから『お風呂準備してきますね』と耳元で言うと右手が上がった。了解、ってサイン。
お風呂に栓をしたことを確認し蛇口を捻ねる。だんだんとお湯が溜まっていくのをただただ見つめていた。
中学からあたしの人生は狂い始めた。
小学校とは違い自分の頭脳に比例して順位が出るようになり、どれだけ頑張っても2番目だった。両親は頭の硬い人達だったから「1番じゃないと意味がない」だの「1番こそ出来た人間だ」ってあたしに言い続けた。
中学の時は両親のこと大好きだったし、両親が言うことは正しい、両親の言うことは絶対、だと思ってたから認めてもらいたくて褒めてもらいたくて。
頑張ったけどずっと2番だった。
高校に入って初めて彼氏ができて。他校の人で年上。その男がまた厄介で……暴力は振るうわ、浮気はするわで今思えば最低な男だった。
それでも好きだったからそんな男に初めてを捧げた。途端に逃げられたけどね。連絡も途絶えたし。
何よりあたしは浮気相手だった。
その出来事からあたしは、あたしの中の何かが外れたように遊び初めて……
「おい、溢れてんぞ」
背後の声にハッとする。目の前を見れば浴槽からお湯が溢れ出ている。
急いで蛇口を捻りお湯を止め、声の主に謝る。
「どした?」
『ごめんなさい。ボーっとしてました』
「珍し、」
そう言って優しく唇を重ねてくる。「俺が上がってくるまで寝てていいよ」と頭を撫でられ、首を縦に振る。すると目の前で恥ずかしげもなく下着を脱ぎ始める貴寛さん。まぁ、あたしももう見慣れてるから全然いいんだけど……。
貴寛さんは、ONE OK ROCKっていうロックバンドのボーカルで、あたしはそのバンドのマネージャー。
大学も遊びに遊んだあとどうしても家を出たくて何のあてもなく上京して、どうせ働くなら人と違うことがしたいと思って芸能事務所の面接を受けた。顔にはちょっと自信があったし体型もまぁまぁモデルに近いから受かるかなって思ってた。
……やっぱり、あたしがやりたいと願ったことは叶わないんだと落ちて身にしみて感じた。もう何も願わないし、人生の流れに逆らわないと心の中で誓った。
でも「マネージャーとしてなら」って面接官が言ってくれて、あたしは何も考えることなく首を縦に振った。
そして今に至る。
貴寛さんは今までの男とは違ってちゃんと夢を見させてくれる。まぁ簡単に言ってみればセフレなんだけど。ちゃんとあたしの気持ちを考えてくれるし優しくしてくれる。
でも貴寛さんにはそういう女の人がたくさんいる。もう2番目とかそういうレベルじゃないんだけど、芸能人とマネージャーっていう関係が “禁断” っぽくてやめられない。
この状況を、この関係を楽しんでる。っていうか2番目っていうことに安心すら覚える。あたしってこんな奴。
そんなことをうだうだ考えてたらお風呂のドアの開く音。ダメだ今日ボーっとしすぎ。顔を両手でパチンと叩き、気合を入れる。自分のことで仕事に支障をきたすようなことは絶対にしたくないから。
「起きてたの?」
『うん、起きてました』
「ボーっとしてんな今日」
『すみません』
『亨さんたち起こしてきます』って布団から出ると腕を引っ張られ抱き締められて。『貴寛さん?』と顔を見上げれば「俺が行くから準備してて」って。
『わかりました』って笑顔で返事をしたら「よしよし」って頭を撫でられた。なんだなんだ?子ども扱いか?でも、とても心地いい。
口が緩むのを手で覆って隠し、言われた通り準備を始める。たぶん、あたし、貴寛さんのことが好きなんだと思う。貴寛さんの優しさの合間に時々垣間見える冷たさがあたしの本能をくすぐるんだ。よくわかんないけど。
でも絶対に口にはしない。それっぽいことも言わない。伝えたところで何も始まらないし、ただただ虚しいだけだから。
自分で自分に呆れてる。何だかんだ言ってあたし恋愛体質なんだろうなぁ。
「行くぞ」
『はい』
こんなバカなあたしを受け入れてくれる人がいるだけで嬉しい。
(気持ちがなくても気持ちよければ、)
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