R

□02
1ページ/1ページ






「…着いちゃった」




がっくりと肩を落としてみたものの、公衆の面前なだけにあまり大袈裟に溜め息もつけないのが忌々しい。
目の前には、以前見た時と変わらず落ち着いたライトの明かりに照らされたホストクラブ“アフターミッドナイト”の入り口。
このまま立ち尽くしていたいところなんだけど、不審者に見られかねない。今だってそのドアを開けるのにかなりの時間を要しているのに。
赤也くんが頼み込んでくるから、渋々、でもちょっぴり好奇心も疼きながらやってきたはいいのだけれど。
何を隠そう、指名する相手が決まらないでいた。




「赤也くん…じゃ、駄目かなぁ」




それが一番楽なんだけど。
でも、赤也くんだとボトル入れろとかなんとか言ってきそう…なんだかんだで。
それも嫌だなぁ、と今日1日で寂しくなりそうな財布に思いを馳せる。
…いつまでもこうしてはいられないし。いい加減、入ろう。
なけなしの勇気を振り絞って開いた先に広がっていたのは、青を基調とした落ち着いた雰囲気の店内と、微かに鼻孔を掠める煙草の香り。
受付には穏やかそうな、けれどどこか鋭さを兼ね備えた瞳を覗かせるお兄さんが居た。
店内に入った私をみとめると、若干驚いたように目を見張り、何かを考えるように顎に手をあてた。




「…あの、」

「成る程、桐弥の幼なじみとは君のことですね」

「な、な…なんでわかったんですか!」

「写真を見た」




携帯に入っていたのでな、と言いながら僅かに微笑んだお兄さん。
…もしかして盗み見たんじゃないかな、というか盗み見たに違いない。勘だけど。
私からの胡乱気な視線を受け流したお兄さんは、ぱらぱらと手元にある名簿らしきものを一通り眺めてから私に視線を移した。




「来店は初めてですね?」

「はい、そうです」

「では、軽く当店の説明をさせていただきます」




そう言いながら差し出された一枚の紙。
それを受け取り、取り敢えず眺めてみた。




「当店“アフターミッドナイト”は、完全永久指名制を取らせていただいてます。指名の変更は基本的には出来ませんのでご注意下さい」

「一度指名したら、もうずっとその人ってことですね?」

「その通りです。基本料金はそちらの紙に記載してある通りです」




基本料金だけなら、そんなに高くないのかも…。
そんなことを考えているのがバレたんだろうか、お兄さんはフッと笑ってみせた。




「私はこの店の受付兼ボーイの柳と申します。店で出しているカクテルも私が作っていますが、基本的にはこの受付に居ると思いますのでお見知り置きを。困ったことがありましたら私にお聞き下さい。…さて、誰を指名するか決まりましたか?」






@形だけ来ただけだから、やっぱり赤也くんが一番楽だし…
A実は、この間会ってからずっと、気になる人が居た
B赤也くんたしか今日休みって言ってたような…?やっぱり悩む









.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ