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目の前に現れた女性は日本人ではないようだけど、サングラスのおかげでどの国の辺りの人なのかが分からない
たけど、女性は私を仔猫ちゃんと呼んだ
そんな呼ばれ方をされた覚えはないから、目の前の女性が一体誰なのか疑問が深まるばかりだったが、特徴的な声に何か引っかかりを感じた



何処かで聞いたような声…



声に引っかかりを感じていると、その女性はサングラスを外して残念だとでも言うような表情で私を見つめる



「あら?忘れたのかしら?
自分に変装して欲しいって言ってたのに…」
『!あの時の…!』
「あー、ダメよ?
あんまり大きな声出したら…
あの男に気付かれるわよ?」
『!…』



妖艶な仕草で私の唇に人差し指を添えて、声を出させないようにするとそう言った
視線を男へと向けるが、こちらに向くような気配がない
それに胸を撫で下ろすと女性は、フッと笑い口を開いた



「聞いた通りの娘さんね…」
『?どう言う事ですか…?』
「貴女は知らなくて良いのよ…
それより…安室透と付き合う事にしたみたいだけど…本当に良いのかしら?」
『!…どうしてそれを知ってるんですか?』



私が尋ねると彼女は、フッと笑う口元に笑みを浮かべた
彼女はさも当たり前かのように言ってみせた



「安室透の部屋で2人が愛の告白をしているのを見てたからと言ったら……怒るかしら?」
『!……怒りはしませんけど……』
「あら?どうして?」
『…だって……貴女は悪い人には見えないから…』



驚いたように一瞬見開いた瞳は、すぐに妖艶な笑みとなった
彼女は頬杖をして私を見つめて口を開いた



「貴女だけは守らないと、あの人に顔向け出来ないのよ」
『?あの人って誰ですか?』
「……貴女だけは何も知らないまま、幸せになりなさい」
『…貴女は一体……』



幸せになりなさいと言った彼女は、どこまでも優しい表情をして見つめていた
そんな彼女から出る言葉が理解出来ないでいると、私の言葉など聞いていないかのように椅子から立ち上がった彼女は、サングラスを掛けて私を見下ろす



「最後に言っておくわ…
安室透はやめておきなさい
仔猫ちゃんも分かってるんでしょう?安室透が何をしているのか…」
『…なんとなくですけど……』
「なら、すぐに離れた方が仔猫ちゃんのためよ」



そう言ってその場から去ろうとした彼女を、慌てて引き止める
彼女は足を止めて、振り返らなかったけど気になっていた事を彼女へと投げ掛ける



『どうして仔猫ちゃんなんですか?』
「…あら?嫌だったの?」
『仔猫って言う年齢じゃないですし…』
「…フッ、そうね
日本人は年齢を凄く気にするって聞いた事があったわね…
じゃあ……ヴィーナスと呼ばせてもらうわ」
『あ!ちょっと……行っちゃった…』



言うだけ言ってさっさと行ってしまった
ギリシャ神話で出て来る女神に、何故例えられたのかと疑問に思う
だけど、彼女がいなくなったしまったから理由なんて聞けるはずもない



あ……また名前聞くの忘れてた…



未だに聞いた事がない彼女の名を聞こうと思っていたのだが、どうやら彼女は忙しい時間の中やって来てくれたのだろう
そんな事を考えていると店員が、頼んだメニューを運んで来てくれた
それにお礼を言うと思い出したかのように、男へと視線を向けると窓際に座って外を眺めてはスマホを見ていた
男が店内に居た事に安堵して、適当に頼んだメニューを口に運びながら仕事へと専念する





********



あれから男は依頼主が会社から出てくるまで、店内で過ごして居た
それに伴い私も店内で過ごして居たのだが、スマホに来て居た依頼主からのメールに、安心させるように返事をしておいた
退社時間が近づいて来ると男はソワソワしては、窓の外を眺めていた



どうやら依頼主の出るタイミングを見てるのね…



呆れながらも、男が動くのを待つ
すると、男が動き出したのを見てカバンを掴んでおく
男はテーブルに広げていた物をカバンにしまうと、そそくさとレジへと向かった
そのまま男は店を出て行った
それを見送った後、私もレジへと向かう
レジへとやって来ると、店員に声を掛けられた



「あの、お客様に荷物を渡して欲しいと女性から言われたのですが…」
『え?』



そう言われて、思い付くのは彼女しか居ない
だが、今は急がなくてと思い店員からそれを受け取り、会計を済ませると店を出る
依頼主の会社前へと向かうと、やはりそこには男の姿があった
それを確認した後に、店で渡された小さな紙袋の中身を確認する
すると、そこにはアルミで出来たメモリーカードケースが入って居た
中身が何なのか分からないまま、男の尾行を続ける
そして、男は会社から出て来た依頼主を見かけると表情を変えて、尾行を始める男を確認して遠くから物陰に隠れて、望遠レンズのカメラで証拠として写真を撮る
依頼主の帰りを見届けている中、どうやら男は尾行するだけで依頼主に対して危害を加えるような仕草が見られない
それに一安心しつつも、様子を見ていると男は何か伺っているように見えた
男の視線の先は依頼主なのだが、何か伺っていると言う事に疑問を持った私は依頼主へと視線を向けた
すると、依頼主は家のポストに入っていた封筒を見て固まっていた



また盗撮した写真でも送ったのね…



そう呆れながらも、男の執着心に恐れ入る
すると、依頼主はスマホを取り出すと誰かに電話を掛けていた
それに伴い私のスマホが震えた
尾行してるとは言え、距離は取りながらの尾行だから男には気付かれていない
男を見ながらスマホを取り出して通話に出る



『もしもし?』
「清華さん……また盗撮された写真が…」
『…何処から撮られた物か分かりますか?』
「………」
『?凛華さん?』
「……家の中で撮られてるんです…」
『!……凛華さん、そのまま家に上がらずにファミレスに向かって下さい』



依頼主である凛華さんからの言葉で、男がかなり悪質な事をしていたのだと察した
家の中で撮られてると言う事は、交際していた時に勝手に合鍵を作った可能性がある
そんな危険な状態で家に入らない方が得策だ
家の中を盗撮されていると言う事は、盗聴も疑わしい
そんな中で家に戻るなんて出来ないだろうし…
依頼主の凛華さんは、通話を切り家には上らずにアパートの階段を通り過ぎた
それを見ていた男は一瞬驚いたような表情をしたが、嬉しそうに笑みを浮かべたかと思えば少し急ぎ足で依頼主へと近付いた



行動に出たか…



そう思うと音を立てぬように男へと近付き、依頼主へと近付いた男は肩に手を触れようとしたが、その前に後ろから男の腕を掴みそのまま後ろへと腕を捻りあげる
それから足を引っ掛けてそのまま地面へと倒し、背中に片膝を突いて体重を掛けると男は痛そうな悲鳴をあげる



「なんなんだよ!?」
「清華さん!」
『すみませんが、警察に通報をして下さい』
「!!警察!?」
『あなたですね?凛華さんのストーカーは…』
「ち、違う!?俺はただ!!」



抗議しようと声を上げる男は、焦ったように弁明しようとする
だが、依頼主である凛華さんはすっかり怯えたような目で男を見下ろしながらも、スマホで警察へと通報していた



「俺は凛華が心配で!?」
『そうですか…
なら、心配なら会社まで尾行して一日中会社から出てくる凛華さんを、見張っていたとしても、それは凛華さんを"守るため"だと言うんですか?』
「!い、いつから…」
『一日中あなたを尾行させて頂きましたよ
ずーっとね…』
「……」
『少しはあなたも尾行させる恐怖分かったかしら?』



黙り込んだ男は、観念したように腕から力を抜いた
それを見ながらも油断は出来ないと思い、そのままの態勢でいると騒ぎを聞きつけたのか近隣に住んでいる人達が、家から出てきて様子を見ているのが何人か確認する
すると、同じアパートに住んでいる女性が凛華さんへと声を掛けた



「凛華ちゃん!何かあったの?」
「あ、大家さん…」



安心したのか凛華さんは、涙を堪えながら大家さんと呼ばれた女性に抱き着いていた
それを見て、少し安堵する
依頼主の凛華さんが、不安そうに警察を呼んでいたから安心させるためにも、誰か知り合いの方が傍に居てくれれば良いんだけどと思って居たから…
依頼主の安全が確認出来たことに安心しながら、警察が来るまでは男の身柄は拘束しておかないといけない
このままの態勢が続くのは、少しキツいかと思っていると巡回中だったパトカーが、人だかりを見つけたようで近づいて来た
それを見て男は冷や汗を流していた







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