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もうここには私は居られないと思ったのに、彼女は危険を顧みないように私を助ける手助けをしてくれた
大丈夫と何度も言い聞かせる彼女も本当は、怖かったんだと思う
それなのに清華さんは、私を助けると言った
私がお姉ちゃんと何か関係している事に気付いているみたいだったけど…
人の命を重んじる刑事だとお姉ちゃんから聞かされていたが、お姉ちゃんの言う通りの人だと私は思った
一歩間違えれば私も清華さんも、あの列車の中で殺されていたに違いない
だけど、そんな清華さんをどうして工藤君は巻き込む事にしたのか…
私は阿笠邸にやって来た工藤君へと、文句を言っている最中だった



「どうして清華さんまで巻き込んだのか、ちゃんとした理由を話して貰おうかしら?」
「おめぇーに言わなかったのは悪いって思ってるって…
でもよぉ、清華さんが黒の組織のバーボンと手を組んでる可能性は捨てきれなかったんだ
バーボンが清華さんを気に入ってるみてぇーだったし…
だから、賭けに出るしかなかったんだよ
清華さんの性格を見る限り、誰かを犠牲にするような人じゃないって分かってたし、何よりバーボン以外の黒の組織と関わりがあるのか知りたかったしな」



どうやら清華さんを疑っての物だったようで、もしバーボンと手を組んでいたら私は今ごろ殺されていたと言う事
だけど、工藤君は確信を持って清華さんを自分の味方にしたのだろう
彼女は正義感が強い人で、人の命を何よりも尊重する人だと…
だから、私を彼女に匿わせたのね



「…それで?完全に彼女の疑いは晴れたのかしら?」
「あぁ…
清華さんは誰よりも命の尊さを知ってる人だからな」
「…」



そう話す工藤君は、真剣な表情で目を細めていた
清華さんと一緒に未解決だった事件を追っていた工藤君としては、あまり疑いたくなかったのね
だけど、白黒ハッキリするまでは疑うしかなかったと言うところかしら…



「今度は俺からも質問して良いか?」
「?何よ?」
「清華さんとおめぇーのお姉さんとの関係を教えてくれねぇーか?」
「!…言ったでしょう?
お姉ちゃんが警察の情報を手に入れるために、清華さんに近付いたって…」



工藤君はどうやらお姉ちゃんが警察の情報を手に入れるために、近付いただけとは思っていないみたい
さすがと言うべきなのか、私の反応を見て工藤君は再度言って聞かせるように、話してくれないかと言った



「……組織で排除の対象として、清華さんも上がっていたのよ」
「!!排除?!どう言う事だ?!」



驚きの声を上げる工藤君
組織の中で警察内部へと潜入していた人物から、危険因子として清華さんの名前が上がっていた
と言うのも、その潜入していた人物がどうやら気付かれるようなヘマをしてしまったみたいだけど…
だけど、清華さん自身違和感を覚えるだけで確信を持てなかったからか、潜入した人物を取り調べる事はなかったみたい
そこでお姉ちゃんを送り込み、さらには警察内部に潜入していた人物も清華さんの調査をした
だけど、潜入していた人物にそれ以降違和感を覚えなかったのか、取り越し苦労となり排除の対象からはずれたと言う



「……その潜入していた人物って…」
「えぇ、アイリッシュよ」
「やっぱりな…
でも、疑わしい奴は排除するのが組織の考えじゃないのか?」
「そこは何故か分からないわ…
でも、もしかしたらその時点で清華さんにバーボンが目を付けていたのかも…」



排除の対象から外れた詳しい理由は分からないけど、第三者が調べた事で清華さんは対象から外れた
それがもしバーボンが調べた上で、清華さんをわざと外したと考えると狙いが何なのか分からない
工藤君もその可能性を考えていたからか、顎に手を添えて考えている
そんな私と工藤君に博士が、声をかけて来た



「何か清華さんにあるのかのぉ?」
「?何かって?」
「拘る理由じゃよぉ
それ以外にも、生きて貰っている事で何かメリットがあると言う事も考えられるしのぉ…」
「拘る理由…」



そう言えばと、ミステリートレインの翌日に工藤君から清華さんが、バーボンと2人きりで帰ったと聞いた
それについて質問すると、工藤君は安心させるように話し始める



「どうやらバーボンから何もされなかったみたいだ」
「そう…良かった」
「バーボンもまさか清華さんが関わってるとは、思ってなかったんだろうな」



安堵のため息を吐いていると工藤君は、やっぱり納得が行かないとでも言うように眉間にシワを寄せていた



「でもバーボンは一体何のために清華さんに近付いたんだ…」
「……殺さない理由が単純なら、本気で好きになったとも言えるけど…」
「おいおい…そんな理由で、組織が見逃すか?
ベルモットだって黙ってるわけねぇーだろうし…」



ベルモットなら尚更、清華さんを殺すように指示を出すでしょうね
だけど、もしそのベルモットさえも何か清華さんの存在に意味があると言う事を考えたら…
やっぱり清華さんには何かあるのかと考える
お姉ちゃんがもしもの事があったら、清華さんを頼れと言っていたけど…
頼りにしてるしまえば、ベルモットが黙っていないと思う



「もしかしたら清華さんの父親が何か関係してるのか…?」
「え?」
「ずっと引っかかってたんだ…
どうして、清華さんの父親だけが殺されて、母親は無事だったのか…
考えてもみろ
復讐なら相手の全てを奪うつもりで仕掛けてくるはずだ
でも、それをしなかった…
泣き叫ぶ顔が見たいのは、むしろ復讐の相手である清華さんのはずだ
……それとも母親は殺す必要がなかったのか…」
「!……それってまさか…」



それは逮捕された荒牧が、組織と何らかの関係があったと言う事になる
確固たる証拠があるわけじゃない
だけど、工藤君の言う通りだとしたらとんでもない事になる
人が絶望した顔が見たいと言う悪趣味な性格なとこも、考慮するとただの愉快犯とも言えるけど…
でも、復讐だと言っていたのに母親を残す理由は何だったのかが分からない



「うーむ…逮捕された荒牧と清華さんの父親が、関係あるとはとても思えんが…」
「分からねぇーけど…清華さんの父親を調べてみる必要があるみてぇーだな…」
「……」



もし何も知らないまま、清華さんが父親を尊敬していたとしたら…
それは知らなくても良い事実だったのではないかと言う真実に、たどり着くんだと思う
どんな真実が待っているのかは分からないけど…
でも、確実に清華さんがまた傷付く事なのかもしれない





*******





side清華



ミステリートレインでの事件が終わり、一週間程経ったある日
仕事でやっと徐々にだけど、本格的に復帰する事が決まり、手始めにストーカーに悩む女性からの依頼が舞い込んで来た
どうやら女性からの依頼で、指名してもらえたとの事
早速女性と喫茶店で待ち合わせて、警護の打ち合わせをしている最中だ



「あの…本当に撃退してもらえるんでしょうか?」
『えぇ、お任せ下さい
必ず貴方を守ってみせますから』
「…」



不安そうに私を見つめる依頼主は、本当に私に依頼して良いのか分からないと言うような表情をしている
そんな依頼主に苦笑いを浮かべて、口を開く



『女性だとやっぱり頼りないですか?』
「!い、いえ、すみません…」
『…不安だとは思いますが、ちゃんと貴方から離れずに見張ってるので安心して下さい』
「…分かりました」



ストーカー被害での依頼が、定期的に女性からの指名で舞い込んで来る
だけど、ここ数ヶ月本格的に仕事に復帰が出来なかったから、女性からの指名が溜まっているとの事
社長からは復帰を心待ちにしていたと会社から送り出されたところだ
また怪我をしないようにと社長からは、釘を刺されてしまったのを思い出す
怪我をしない事を肝に銘じながら、依頼主を安心させるように微笑んで話しかける



『それでは今日から警護を付けさせて頂きます
普段通り過ごして頂いて構いませんので』
「…はい、よろしくお願いします」



不安そうな依頼主に少しでも安心して貰えるようにと思うけど、彼女の不安要素であるストーカーをどうにかしないと不安は拭えないだろう
早くストーカーを捕まえなければと自分に言い聞かせて、気を引き締める
ファミレスの支払いを済ませてから、依頼主には1人で行動して貰う
私は依頼主が会社に向かうのを見送りながら、会社のスマホを取り出す



『…今、打ち合わせが終わりました』
《分かった》



打ち合わせが終了した事を報告してから、依頼主が見えなくなった所で物陰から、姿を現したのは黒のパーカーに黒のズボンと言った典型的な格好をしている人物
体格的に男だと分かり、目深に被った帽子で顔を隠している感じだ
メガネを掛けているが、伊達なのかは分からない
元彼だと依頼主は言っていたけど…



男女関係ってホントもつれると面倒ね…



改めてそう思いながら、バレない距離を保つ
スーツだとバレやすいし、何より逃げられた時の事を考えて動きやすさを優先して、ジーンズに上はTシャツと黒のジャケットと言うラフな格好で尾行する
会社の前にやって来て、男は玄関から入って行った依頼主を見送ったと思えば、スマホを弄っていた
それを証拠として提示するために、カバンから一眼レフを取り出して望遠での撮影をする
会社の隣にある公園から撮り、十数枚を撮り一眼レフをしまう
男は何かメールでも送ったのか、スマホを見つめて微笑むと会社前から立ち去った



何処かで見張る場所でもあるみたいね…



そう思いながら、男の行動を尾行することにした
男を尾行して歩いているとスマホが震えた
今は男から目を離すわけには行かないと思い、スマホは落ち着いてからだと尾行に専念する
すると、男が入って行った店が会社近くのファミレスでそこの窓際の席に座っていた
それを確認してから、私も店へと入り窓際の席が見える席に座る
それからメニューを開きながら、視線を男へと向ける
窓の外を眺めている男は、ずっと依頼主の会社の方角を見つめてはスマホを見ていた
その仕草でさっきスマホが震えていたのを思い出して、ジャケットのポッケからスマホを出してメールを見ると、依頼主でどうやら男からメールが来たとの事だった



どこまでビビらせるのかしら…



男を内心で呆れながらも、見張っていると店員がやって来て、メニューが決まっているかを尋ねてきた
適当に頼んでから、店員が行きそうになったところで引き止める
店員は驚きながらも立ち止まってくれた



『あそこの席に座ってる1人の男性って、ここによく来ますか?』
「え?……あーぁ、あの男性のお客様ならいつもあそこの席を指定でよく来られる方ですよ」
『そうだったんですね…
ありがとうございます』



それではと言って、店員は他の客のとこへと行った
わざわざあの席を指定して来るって事は、ちょうど見やすい位置なのだろうと考えて、依頼主からのメールに返事をしようとしてスマホを開く
すると、私の向かいの椅子に誰かが座ったのを視界の端で見えた
視線を上げるとそこには、サングラスを掛けたプラチナブロンドの女性がそこには居た



「久しぶりね、仔猫ちゃん」





end

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