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事情聴取を終えて、警察署から出ると空は真っ暗になっていた
帰る事になったけど、どうやって帰ろうかと思っていると園子ちゃんの叔父様が家まで送るように、タクシーを手配してくれていたようで…
それぞれに同じ家の方向と言う事で、相乗りで帰る事になった
支払いは園子ちゃんの叔父様がもうしてあるとの事で、とんでもない金額になると思っていたけどそれには申し訳ない気持ちもあったが安堵する
子ども達はさすがに時間が時間だったから、先に帰ってもらったとの事
私はコナンくん達とは違う方面と言う事で、1人タクシーに乗る事になったんだけど…



「清華さん、お一人で帰るんですか?」
『えっ?あ、は、はい…』



いざ帰ろうとした時、後ろから声を掛けてきたのは安室さんだった
どうやら安室さんも事情聴取がちょうど終わったのか、警察署の玄関へとやって来た
すると、コナンくんが眉間にシワを寄せたのが見えて、慌ててコナンくんを隠すようにズレる



『安室さん今終わったんですか?』
「えぇ、これから帰りをどうしようかと思っていて…」
「それなら安室さん!清華さんと一緒に乗って行かれるのはどうですか?」



会話を続けて気を逸らすつもりで、振った話題だったけどどうやら蘭ちゃんが、それをへし折ってくれたようだ
コナンくんは安室さんを警戒しているのか、ずっと安室さん見上げていた
私の思惑とは違う話になり、思わず蘭ちゃんを見たけど蘭ちゃんは私の顔を見て首を傾げる



「良いですか?」
「2人で乗って愛を育みなさいよ!」
「そ、園子!」



同意を求めてくる安室さんに続いて、園子ちゃんが茶化してくるけどそれを止める蘭ちゃん
どう答えるべきかと考えあぐねていると、コナンくんが心配そうに私を見上げて居た
すると、そんな私の背中を押すように園子ちゃんが安室さんへと導くと背中をバシンッと叩いた



『いった!』
「彼氏と仲睦まじく帰んなさいよ!
邪魔者は退散するわよー!」
「あっ!コ、コナンくん!」
「僕、清華さんと一緒に帰りたい!」



園子ちゃんがそう言って蘭ちゃんの背中を押して、自分たちが乗るタクシーへと押しやった
だけど、そんな蘭ちゃんの傍から離れてコナンくんが私のとこへとやって来て、私の腰へと抱き着いて来た
それに驚いていると毛利さんが、コナンくんの襟首を掴むと宙ぶらりんにしてコナンくんを叱る



「清華さんを困らせんな!
たくっ!早く帰るぞ!
清華さん、安室には気を付けて下さい!いつ狼になるか分かったもんじゃないですから!」
「そんな事しませんよ、毛利先生…」



苦笑いの安室さんに毛利さんは、送り狼になるんじゃねぇーぞと釘を刺す
それから毛利さんは自分達が乗るタクシーへと向く
すると、コナンくんが焦って私を呼んだ



「あ!清華さん!!」
『コナンくん、ありがとうね』
「!!清華さん!!」



コナンくんにそうお礼を言うと、その意味が分かったのか私を呼ぶ
だけど、それでも毛利さんは手を離すわけもなくそのままタクシーは発車した
コナンくん達のタクシーを見送ると安室さんが、私の手を引いてくれた



「僕達も帰りましょう?」
『…そうですね』



タクシーに乗り込んで、それぞれの家の住所を伝えてタクシーは発車した
すると、安室さんは静かに口を開いた



「……何か知ってるんですか?」
『……何をですか?』
「質問を変えましょう…
僕が列車内で何をしていたのか、貴女は知っていたんですか?」
『どうしてそう思うんですか?』



質問に質問を返すばかりで、答えが一切出ない私と安室さんの会話
運転手は少し私達の空気がピリついている事に、何度か視線をバックミラーに向ける
それに気付きながらも、安室さんからの質問は止まらない



「貴女は僕の部屋から出て、すぐに子ども達の部屋へ戻ったはずです
それなのに、どうして子ども達と合流したのが火事の騒ぎが起きて、避難が始まってからだったんですか?」
『あら…どこから、そんな情報を手に入れたんですか?』
「質問はこちらがしてるんです、答えてくれますよね?」
『…はぁー……友達にたまたま会ったから、その友達の部屋で話してたのよ』



"友達"と言っても、私としては友達と言うよりは協力者と言った方が良いのだろうか…
そう思いつつも、沖矢さんやコナンくんには何度も助けられている
だから、今回沖矢さんからの提案に乗ったのだが、どうやら私が騒ぎの後に子ども達と合流したと言う事を、誰かから聞いたのだろう
それに疑問を持った安室さんこと降谷が、こうして尋問かのような質問の仕方で私へと尋ねてくる



「会った…?それはおかしいですね
僕の部屋から出たのは、事件が起きて外出を控えるようにとのアナウンスが流れた後でした
それなのに貴女の友達は、意気揚々と外出をしていたと?」
『それを言ったら、トイレに行きたくても外出するなって言ってるのかしら?
何もフラフラと出歩いてたわけじゃないわ
ただ、トイレに行くところだった友達に会って、それから部屋で話そうってなったのよ』



しつこい質問に思わず、降谷に話すような喋り方になってしまっていた
今回は哀ちゃんの命が掛かっていた
沖矢さんがどうして哀ちゃんを守っているのかは分からないけど、沖矢さんの正体が分かるまでは降谷にも沖矢さんにも、情報を与えるわけには行かない



『…アンタの力にはなりたいけど、時と場合によるわ』
「……そうでしょうね」



はぁーと大きなため息を吐いた降谷
窓枠に肘を突いて、外の景色を眺めて気持ちを落ち着けているのだろう



『……話せる時が来たら、話すわ』
「…そうしてくれると助かる
気が気じゃないからな」
『……』



心配させているのだと分かっている
だけど、今はまだ確証が持てた訳じゃない
確証も持てない以上は、降谷に話すわけには行かない
何か助けになれるのなら、本来は手を貸すんだけど…
もし……沖矢さんが誰かに追われている哀ちゃんを助けているとするなら…
それを考えると下手に沖矢さんの正体を、話すわけには行かないと思った
ましてや、降谷は何処かの組織に潜入していると言う事なら尚更だ
哀ちゃんの身の危険も考慮したら、降谷には情報を与える事が出来ない



『…ごめんなさい』



協力すると決めた途端に、協力出来ない事にぶち当たった
申し訳ない気持ちで謝ると、降谷は私へと視線を向けてから頭を撫でてくれた
降谷は"良いから、気にするな"と言ってくれた
そんな降谷の優しさに安心したせいか、一気に緊張感が途切れて体の力が抜けた
座席に深く座っていた私の頭を、降谷は自分の肩へと傾けて寄りかからせた
頭の上から降谷の声が聞こえた



「家に着くまで寝てろ
着いたら起こしてやる」
『…ありがとう』



安心させるように髪を撫でる降谷の手
その手から伝わる体温に、身を委ねて瞼を閉じる
自分が気付かなかっただけで、どうやら疲れが溜まっていたようだ
数分後には意識が徐々に薄れて行った




*******




side降谷



寝息を立て始めた清華の顔を見下ろし、俺に身を委ねてくれた事に愛おしさを感じた
頭を撫でられる事が昔から弱かったのを今でも覚えている
お人好しでどうしようもないが、頑固なとこが強いせいで度々俺とケンカする事があったなと昔の事を思い出す
安心したように眠る清華の寝顔に、頬が少し緩んだ
すると、バックミラー越しにタクシーの運転手と目が合った
それをきっかけに俺は謝罪をした



「すみません、後ろで揉めてしまって…」
「いえいえ!それだけお二人が素直に話せる仲だって事じゃないですか!」
「…素直に……」
「お二人は恋人関係なんでしょう?」



"素直に話せる仲"と言われて、僅かに違和感がある
素直に話せるようで話せない関係であり、素直に互いを求めている存在でもある
互いを尊重し合える仲であるとは言えるが、素直に話せる仲なのかと言われると少し答えに迷うところだ
そんな考えが過ったが、タクシーの運転手に説明しても仕方ないと思い適当に頷いておく
すると、運転手はまた質問を重ねて来た



「ご結婚とかは考えてるんですか?」
「結婚…ですか……」



結婚という言葉を聞いて、もう一度清華へと視線を向ける
俺達の年齢を考えれば、婚期に入っているだろう
ましてや、女性なら28歳からは2度目の婚期になる
それを考えると清華との、中途半端な関係をどうにかしてやりたいとも思う
だが、いざそれを考えると怖気付く自分がいる



守れなかったらどうする…?
もし清華が、俺のせいで命を脅かされるような事態になれば、俺は…



自分を恨んでも恨みきれない事態になる
それだけは避けたいと言う考えで、想いを告げる事はしていない
だが、俺達は互いをよく知っているつもりだ
過ごした年数ではなく、どう過ごしてどんな時間を共有したかで互いの考えや思いを、時間は掛かったが理解している
清華が結婚を意識しているようなそぶりは見えないが、何処かで気にはしているだろう
俺の肩に寄りかかって寝ている清華を見つめて、運転手へと答える



「…結婚は必ずしたいと思ってますよ
彼女を幸せにしたいと思ってるので…」
「ははは!お惚気有難うございます」



惚気だと言って楽しそうにする運転手
こんな事は誰かに話せるような事ではないが、タクシーの運転手なら今後会う確率は低い
ずっと考えていた俺と清華の今後のあり方について、少しだけ話したくなってしまった



この件が片付けば、ひと段落つく…
黒の組織の件が片付いたら、結婚を前提に付き合おうと告白するつもりだ



今更かもしれないが、それでも順序を立てて清華とは付き合いたいと思っている
婚期を遅らせてしまった事に、申し訳ないと思いつつも一緒に過ごせる時間が少しでもある事に安堵を覚える
寝息を立てる清華との将来を考える今が、心満たされているのだと分かる



結婚しよう…
そんな言葉が言えるような平和な日々になれば良いんだが…







end
どうも、管理人です。
更新が遅れ気味ですみません。
前の職場を辞めて仕事探しに明け暮れているおかげで、なかなかストックを更新出来ないおかげで連載を上げる事が出来ないでおります。
今しばらくこの状態が続くかと思いますが、体調見ながらの仕事探しなのでなかなかに難航してます。
優しく見守って頂けたら嬉しいです。

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