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7号車のB室で待機しているとスマホが震えた
画面を見ると沖矢さんからのメールが来ていた
どうやらアドレスも登録されたのだと思いながらも、メールを開くとお願いしますねと一言だけだった
信頼されてるのか疑われてるのか分からないけど、哀ちゃんが本当に狙われているのなら助けなければいけないと思い、僅かにドアを開けて通路の音を聞いてると小さな足音が駆けてくるのが分かった
ドアを開けると前の列車から走って来た哀ちゃんが、私を怯えたような顔で見上げていた



『中に入って、哀ちゃん』
「!ま、まさか、清華さん…!」
『貴女を守らせて』
「え…」
『とりあえず、話は中でしましょう』



有無を言わさないように哀ちゃんを連れて、部屋へと戻る
ドアを閉めて大きく息を吐き出す
怯えた表情をした哀ちゃんを落ち着けようと思い、椅子に座るよう促す
大人しく座ってくれた哀ちゃんと視線を合わせるために、床に膝をついて落ち着いた声で話しかける



『詳しい事情は知らないけど、コナンくんから協力してほしいって言われたの…』
「!く…江戸川くんから…」



何かを言いかけて、一度口を閉じた哀ちゃんはコナンくんの名を口にした途端怯えた表情が消えた
本来なら沖矢さんが、私に持ちかけた事だったけど、今の哀ちゃんには余計に怯えさせかねない"沖矢さん"の名を出すわけには行かなかった
それを表すかのように、コナンくんの名を聞いた途端に私を疑ったような眼差しも無くなった




『えぇ…
コナンくんから、哀ちゃんを匿って欲しいって言われたわ』
「ダメよ!私と居たなんてバレたら!今度は清華さんが!!」



怯えたような表情で私を見つめて、首を横にふる哀ちゃん
落ち着いてと言って、哀ちゃんの手を握ると驚いたように私を見る



『……哀ちゃんを狙っているのが誰なのかは分からないけど…もう誰も死なせたくないのよ』
「…清華さん……
でも、私と関わってたら!!」
『大丈夫』
「!!」
『大丈夫だから』
「……」



握って居た手に力を入れて、大丈夫と微笑むと哀ちゃんは泣きそうな表情で私を見つめる
言い聞かせるようにもう一度言うと、哀ちゃんは涙を流し始めた



『今は辛いかもしれないけど…
自分を犠牲にする必要なんてどこにも無い
私のエゴだって言われても、哀ちゃんを死なせたくないの…』
「……どうして、そこまでするの…っ…」
『……貴女が友人と同じ表情をするから…』
「!!……っ…」



そう言って明美の顔を思い出す
哀ちゃんの表情は明美と同じだった
助けて欲しいって顔には書いてあるのに、言葉はそんな事微塵も感じさせないような言葉ばかりで…
辛くて苦しいはずなのに、人の事ばかり…
涙を流して俯く哀ちゃんの頭を優しく撫でる
哀ちゃんは多分、明美の事を知ってる…
そうで無ければ、‶友人と同じ表情‶と言われてもピンと来ないはずだ
何かの理由で知ってるのか或いは、親類なのかは分からない
涙を流す哀ちゃんが落ち着くようにと、何か飲み物がないかと思い立ち上がろうとしたら私の手をギュッと握った哀ちゃん



『…何か飲み物要る?』
「…大丈夫」
『……まだ時間はあるから、落ち着くまで私がそばに居るわ、安心して?』
「……ありがとう」



俯いたままの哀ちゃんは、少し声を震わせて答えた
ハンカチはあいにく部屋に置いてきたカバンの中にある
哀ちゃんの隣に座って、騒ぎが起きるまでは哀ちゃんの傍に居ようと改めて思う



『さっきはごめんね…』
「え…?」
『哀ちゃんの傍に居るって言ったのに、そばを離れちゃって…』
「…気にしてないわ
それに、あれは彼女がゴリ押ししたからなんだから…貴女は悪くない」
『あ、あはは…ホントに園子ちゃんってばゴリ押しだから…』



どうやら私は悪くないと思いつつも、園子ちゃんは悪いと思っているのか…
その辺は曖昧だけど、話せる様子の哀ちゃんにホッとする
哀ちゃんの手を握りながら、車窓を見つめていると哀ちゃんが私を呼んだ



「ねぇ…その友人ってどんな人だったの?」
『……うーん、私も彼女の事は詳しくは知らないの…』
「…どうして?」
『…彼女が話すまでは、何も聞かないでいようって思ってね…
でも、いつも彼女は明るい笑顔で清華さん!って呼んで、刑事の仕事を詳しく教えて下さい!って…
そんな彼女が嘘を付いてるのは分かってたんだけど…何か事情があるんだろうと思って、深くは追求しなかったの』



明美は突然私の前に現れて、記者だと最初は名乗り刑事の仕事についてインタビューさせて欲しいなんて、声をかけて来たのが出会いだった
最初から嘘だと分かっていたけど、何か事情があるのだろうと思い了承したのを思い出す
私の話を聞いて居る哀ちゃんは、言葉の続きを待っていた



『刑事は人を疑う職業だからね…
だから、最初こそ彼女を怪しい人なのかそれともただの刑事マニアなのか…
でも、彼女が助けを求めて居るような表情を何度か見てね……それで、私は友人になろうって言ったの』
「…随分とお人好しな刑事ね」
『そうね…刑事に向いてないってよく同期に言われてたわ』
「……でも、その友達は貴女のお人好しの性格に助けられたのね」
『えっ…?』



そう自嘲気味に微笑んだ哀ちゃんに、首を傾げると私を見上げて目元を細めて優しく微笑んだ



「だって、私を助けてくれてるじゃない…
何も聞かないで、何も事情も知らないで…」
『……聞かないわ
話したくなったらで良いの…話せる時が来たら、話してほしい』



そう言って哀ちゃんの頭を撫でる
それからも明美の事を話して行く
何処でどう出会って、どうやって友人となって行ったのかを話して行くと哀ちゃんの表情が少し和らいだように見えた
そんな時間を過ごしていると、突然ドアの隙間から煙が入り込んで来た
一瞬それに驚いたけど、これが"騒ぎ"と言う事なのかと分かった
なにより煙の匂いが、火事特有の物ではない事に気付き、これは揺動作戦の一環だろうと考える
哀ちゃんを見れば彼女も察したのか、緊張した表情になる
そんな哀ちゃんの手を握り直すと私を見上げた



『大丈夫、必ず成功する
だってコナンくんが味方なんだから!』
「!」



自信満々と言うように言えば、私の言いたい事が分かったのか哀ちゃんは少し微笑んで口を開いた



「えぇ、貴女と江戸川くんが味方なんだから…これほど、心強い味方はいないわね」
『!…哀ちゃんには敵わないわね』



コナンくんが哀ちゃんの味方だから大丈夫と伝えたつもりなんだが、まさか自分も入っているとは思わなくて自然と頬が緩んだ
そんな私を見て、また小さく微笑んだ哀ちゃん
ドアへと近付き通路を行き交う人々の会話を聞く
部屋に流れたアナウンスで、どうやら後方の8号車から6号車の乗客を前方の列車に避難するようにとの指示で、乗客が一斉に部屋から出て行ったようだ
その乗客の後を3人の足音が聞こえて、毛利さんとコナンくんと世良ちゃんだろうと思い、そのまま遠ざかるのを待つ
前方の列車に行った事を、ドアを開けて確認する
煙が充満しているけど、吸い込んでも煙たくて咳をするくらいで、苦しくなるような事はない
ドアを閉めて哀ちゃんへと向く



『終わったら、必ず私が迎えに来るから……それまで、不安だろうけど此処で待ってて』
「…分かった
清華さんも…気を付けて」
『…うん』



頷いて見せてから、部屋を出てそのまま前方車両へと向かう
すると、6号車へ着くとまだ残っていた客が前方へと走っている中、コナンくんが1人立ち止まって電話を掛けていた



『コナンくん!』
「清華さん!」
『早く前の列車に行かなきゃダメよ!』
「う、うん!
じゃあ、母さん!頼んだぞ!」



そう声を上げたかと思えば、通話を切るとふぅーっと息を吐いたコナンくん
私を見上げて、したり顔で言った



「名演技だったよ、清華さん」
『子どもに負けるわけには行かないわよね?』



そう言って、フッと笑みをこぼしてから私へと指示を出してきたコナンくん



「清華さんには、このまま前方車両に向かって貰いたいんだ!
それで、みんなには俺とはぐれたって言って欲しい!」
『分かった!』



それだけをいうとコナンくんは、後方車両へと走っていった
コナンくんの背中を見送ってから、私は前方車両へと向かった
5号車に来るとさすがに客が多くて、何度か肩がぶつかってしまいすみませんと言いながら、進んで行くと毛利さん達が居た
私に気付いた蘭ちゃんと毛利さんが、私へと声を掛けてきた



「あ!清華さん!もう今まで何処に!」
「ご無事で何よりです!」
『ゴメンね、蘭ちゃん
毛利さんも心配かけてすみません
たまたま知り合いが居て、その人のとこでずっとおしゃべりしてて…』
「え、でもその知り合いは?」
『それが、此処に着いた途端にトイレに行くって言ってね…』



私の知り合いが居ない事に、園子ちゃんが何処に居るのかと聞いてきたが、適当な嘘を吐く
すると、緊張感のない知り合いねと呆れたような園子ちゃんの声
そんな私に蘭ちゃんが、コナンくんと世良ちゃんを知らないかと聞いてきた



『コナンくんはさっき6号車で会ったんだけど、哀ちゃんを探すって言ってこっちの方に走って行ったのは見たわよ
世良ちゃんは見てないわね…』
「そんなぁ…」
「ねぇ、清華さん!」
『ん?どうしたの?』



歩美ちゃんが私のズボンを引っ張った
同じ目線になるようにかがむと、不安そうな顔で私に尋ねて来る



「哀ちゃん見なかった?」
『ううん、見なかったけど…』
「哀ちゃん、トイレに行くって言ったきり戻って来なくて…」
『…哀ちゃんを探しに、前方車両を見て来るわ』



不安そうな歩美ちゃんに私は嘘をついた
そして、私の答えを受けて蘭ちゃんも不安そうに哀ちゃんを心配していた
不安な空気を少しでも軽くしてあげようと思い、前方車両を見て来ると言ったが毛利さんに引き止められた



「いえ、ここは私が見て来ます!
清華さんは蘭達をお願いします!」
『分かりました』



此処からあまり離れるのは、得策ではないと思って居たから毛利さんの申し出に内心安堵する
それから不安そうな子ども達を大丈夫だよと宥めていると、コナンくんがやって来た



「蘭姉ちゃん!清華さん!」
『!良かった…コナンくんの事心配してたのよ?』
「ごめんなさい…」
「もう!コナンくん!心配かけさせないの!」
「ご、ごめんなさい…」



戻って来て、そうそうに怒られるとは思わなかったのか苦笑いのコナンくん
そんなコナンくんを見て、子ども達は不安そうにコナンくんへと尋ねて居た
その横で世良ちゃんが居ない事を心配しながら、さっき7号車で通路の音を聞いていた時、コナンくんと毛利さんともう1人の足音が聞こえた事に疑問を持つ
あの足音は誰だったのか疑問を持っていると、後方車両から爆発音が聞こえたかと思うと列車が少し揺れた



哀ちゃんっ…!



後方車両を振り返るが、客が悲鳴を上げている状況で軽く混乱状況になって行く



一体何が起きてるの…!?







end

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