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車内で話していても、清華はさっきの事を気にしているせいか、落ち込んだように視線を何度か落として手に力を入れていた
俺が黙って彼女を利用しようとした事に対して、拒否反応を示してしまった事への罪悪感でそんな態度になっているのだろう
本来なら俺がそうなるのが、普通なんだが…
清華は誰よりも俺の仕事を理解してくれていると言うのも分かっているし、彼女の口から俺の情報が漏れるとは思っていない
だが、協力はしたくてもそれは出来ないと言うのも彼女の悩みのタネだろう
協力をしてしまえば、もしそれがバレてしまった場合俺もただではないが彼女とその関係者までもを危険に晒す事になる
清華はそれを何より恐れているのだと理解している
今回黙っていたのも、清華の近くをうろついているあの沖矢と言う男…
あの男は俺の事を知っていると俺は睨んでいる
と言うのも、沖矢と言う男はコナンくんと共に清華が追っていたあの事件を、共に捜査していたと聞いた
ただの大学院生で事件に首を突っ込むなど、まずあり得ない
さらには俺が居るとあの男は現れないのに、俺が居なくなると清華に会いに来る事が多い



そう考えを巡らせていると、俺を呼ぶ声が聞こえて清華へと向く
俺を不安そうに見つめる清華と目が合い、大丈夫かと聞いてきた
それに安心させるように笑うが、やはりさっきの事を気にしてか笑い返してはくれない
視線を俯かせた清華の頭を引き寄せて、胸に抱き寄せる
大人しく抱き寄せられた清華は、驚いてなのか動かないままでそんな彼女が愛しく感じて、思わず手に力が入る



「……ちゃんと守る…清華に守られるような事にならないように、ちゃんと守る
だから、安心しろ」
『………私が守らなきゃ、誰がアンタを守るのよ…』



不貞腐れたように返ってきた言葉に、俺は頬が緩むのを感じた
いつもは大人らしくをモットーに優しいお姉さんとして、接している清華だが俺や同期のアイツらの前では、素直な自分で接してくれる
限られた時間でしか俺達は、本来の自分で話す事が出来ないがそれでも幸せだと思う
激務の中での数分だとしても…



「…さ!また仕事に戻る
お前はどうする?」
『……今日は帰る
蘭ちゃん達には申し訳ないけど…』
「それじゃあ蘭さん達には、ちゃんと話しておく」
『うん…ゴメン』



いつもの覇気がないのは、仕方ないと思うがこうも落ち込んだ彼女を見るのは久々だと思い、なるべく優しく笑ってもう一度頭を撫でると視線を上げて俺を見上げた



「もう気にしなくていいから、そんな顔するな
お前にそんな顔をされると俺が困る」
『……うん』



少し微笑んだ清華に安堵する
ドアを開けて車から出ると、清華は家へと向かい俺はまたポアロへと向かう
途中まで送ろうかと提案したが、大丈夫だから仕事に戻ってといって断られてしまった
それじゃあと言って、別れてからポアロへと戻ると蘭さん達に凄く心配された



「安室さんが追いかけるなんて…どっかの少女漫画みたいで、清華さんが羨ましかったなぁ」
「でも、なんで清華さんてばあんなに怒ってたんだろう…」
「うーん……」
「他に好きな人が居るのかしら?」
「ちょっと!!梓さん!!」
「あ!!いや、安室さん!そんなつもりは!」



どうも女性と言うのは、人の恋路まで気になるのは仕方ないのだろう
俺の告白を跳ね除けてしまう事に園子さん達は、疑問しかないのだろうが俺と清華にしか分からない事だ
園子さん達に"安室透"として、苦笑いを浮かべつつ無理強いをしてしまったからでしょうねと言うと、園子さん達はナースの目の前でコクったのが無理強いとは言わないと声を荒げられてしまった



「こりゃあ、私達が一肌脱ぐしかないわね!」
「でも、これは清華さんと安室さんの事なんだから、さすがに私達が介入しても…」



園子さんを引き止めようと蘭さんが、声を掛けるがそんな声など聞こえないかのように、店に響くような声で園子さんは高らかにある提案を口走った



「あ!そうか!安室さん!
ミステリートレインに興味あったわよね?
安室さんの分も追加で取っておくから、その機に清華さんとそのままくっついちゃいなさいよ!」
「ちょっと!園子!声大きい!」



苦笑いを浮かべて慌てて止めに入るが、蘭さんの言葉は聞こえていないのか園子さんは鼻息荒くして俺に、ミステリートレインで清華さんを物にしろと言ってきた
お節介なのか、お人好しなのか…
苦笑いを浮かべつつも、これはいい方向へと向いていると考える




********



バイト帰りの車内の中で、ヘッドセットを付けてベルモットへミステリートレインのチケットは不要になったと伝えると、電話口から疑問の声が飛んできた



「あら?急にどうしたの?」
「それが鈴木財閥のご令嬢が、気を利かせて僕の分も追加で取ってくれるそうです」
「ふふ、仔猫ちゃんとはどうやら仲良くしてるみたいね」
「えぇ、滞りなく」



何の問題もないと言うように返すと、ベルモットは"でも"と言葉を発した
その続きに出てくる言葉に一瞬不安を抱く



「彼女…物凄く勘が良い子だから、気をつけるのね……
あの仔猫ちゃんを死なせたくないのなら…ね?」
「フッ、僕がそんなヘマすると思いますか?」



そんなヘマはしないと言い切るが、ベルモットはどうやら清華を警戒しているようだ
今彼女に警戒心を持たれては、せっかく何かいい手掛かりが掴めると思っていた沖矢昴と言う男との接触が、遠ざかると思いどう切り抜けるか考える



「あなたがそんなヘマをするとは思わないけど…
でも、あの子…私の変装に気付いても動揺しなかったのよ?
元刑事とは言え、あまり彼女を侮らない事ね」
「大丈夫ですよ
彼女はそのうち僕に落ちますから」
「あら?まだ落とせてないって事かしら?」



嫌味のように言うベルモットに、返す言葉がなく黙るとそんな俺が面白かったのか笑い声を上げる
そんなベルモットにバカされているのは、重々承知だが今の状況で言い返すのは好ましくない
ベルモットの笑いが落ち着いたと思えば、口を開いた彼女



「だけど、あの仔猫ちゃん面白い子ね
私が銃を向けても、死ぬ事なんてまるで怖くないみたいにキョトンとして…」
「…貴女もなんだかんだで、彼女の事を気に入ってるみたいですね」
「そりゃあ、私に自分に変装してくれなんて言う子初めて見たから、気に入ると言うよりも興味を持つわよ」



ベルモットは電話口で、そう機嫌良く話す
かなりベルモットが気に入ってるのだと伺い知ることが出来た
あまり下手に動くなと清華に注意しておく事を頭に入れながら、ベルモットへと釘を刺しておく



「彼女はあげませんよ?」
「随分とご執心ね…
でも、あまり彼女に隙を見せると揚げ足取られるわよ」
「分かってますよ」



そう返してから、安室透として借りているマンションの駐車場に着いて、ベルモットへ断りを入れて通話を切る



もし……もし、あの男が赤井秀一に繋がる何かなら…
必ず見つけ出して、あの男を…







end
今更な補足ですが、主人公は降谷と2人きりの空間でも、極力"降谷"と呼ばないようにしてます。
何処で誰に見られているのかを考えて、極力呼ばないようにしていると言う設定です。
降谷が主人公をあまり名前で呼ばないのは、対等な関係であり気の許せる女性と言う事と、後は管理人のギャップ萌え要素で降谷はこんな風が良いと言う理想で成り立ってます。

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