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なんでバーボンがあそこまで気になるのか、分からなくて独断で変装して忍び込んだけど、どうやら彼女は相当鼻がきく仔猫ちゃんみたいね
私の香水と指先だけで見抜いていた
さすが頭のキレる刑事と呼ばれただけあるわね…
私があのボウヤに興味を惹かないように、あくまでも私がただのナースじゃないって気付いているのを印象付けていた
警戒しているフリをして、自分に注意を向けるように仕向けていた彼女
ボウヤ達が帰った後も私はまたナースとして、彼女の元へと向かう
そろそろバーボンが見舞いに来る頃だろうと推測して、からかうつもりでやって来た
ノックして中へ入ると、私だと気付くと少し警戒したような眼差しになる



「どうですか?体調が悪いとかはないですか?」
『…はい』



探るような眼差しは変わらず、敵視するような眼差しではない事に僅かに疑問を持つ
すると、ずっと私から視線を外さなかった彼女が私から窓へと視線を向けた



『……ナースさん』
「?はい?」
『貴女にお願いがあります…』







*******




side安室




蘭さんから清華の見舞いをした様子がメールで送られてきた
元気な様子で子供たちとも楽しそうに笑っていたとメールには書いてあった
病院で見た時の青白い顔を思い出して、眉間に皺を寄せる



あんな思いは御免だ…



アクセルを踏みさらに加速して、今日も見舞いへと向かう
ポアロの梓さんも心配していた
それをアイツに伝えて、はやく治して元気な顔を見せてやれと伝えるかと心に決める
杯戸中央病院の駐車場に着き、車を停めて鍵をかけてから病室へと向かう
夕日も傾き始めている
早く行かなければ、せっかく来たのに門前払いを食らってしまう
小走りで病室へと向かい、号室を確認してからドアをノックした
中から返って来た声にドアを開けて中へと入る
窓へ向いていた顔がこちらへと向いた瞬間、言い知れぬ違和感を覚えた
俺を見た清華はどうしたの?と首を傾げてキョトンとしているが、そこでようやく分かった
急激に冷めたように頭が凍り付いた



まさか…俺の正体が…!!



そんな不安がよぎった
だが、それなら今更俺はここにはいないだろう
頭で冷静に考えろと言い聞かせながら、ベルモットを睨みながらドアを閉めた
すると、俺の表情で察したのか清華に扮したベルモットは、不敵な笑みを浮かべ元の声で話し始めた



「あら?もう分かっちゃったの?」
「何をしているんですか?ベルモット…」
「貴方をからかってるだけじゃない?
女の戯れくらい許せなきゃ、仔猫ちゃんは逃げていくばっかりよ」
「……」



眉間に皺を寄せ睨みを効かせると、さらに面白そうに笑みを深める
それが癪に障るが、今はそれどころではない
清華の安否と居場所を知りたかったが、下手に焦ればボロが出る
それだけは絶対に避けなければならない
溜息を吐いて平静を装いながら椅子へと座る



「彼女は何処へ?」
「さぁ?どこかしら?」
「…少なくとも、彼女は組織にとっては利用価値のない存在と見ているようですね」



彼女を手に掛けているのであれば、病室には硝煙の匂いがするはずだ
あるいは派手に爆弾と言う考えもあり得るが…
すると、そう言った俺にベルモットはしたり顔で口を開いた



「確かにね…
刑事ならまだしも、一般市民で警護職に就いてるってだけなら盾にはなるでしょうけど…そこから情報が取れるとは思えないわね」
「……それでは彼女の意思だと?」



ベルモットが手を掛けていないと言う事は、組織ではなくアイツの意思で動いていると言う事だ
事件から時間が経った事で落ち着て来たかと思っていたが…
すると、ベルモットは窓へと視線を向けた



「仔猫ちゃんは‶早くしなくちゃいけないの‶って笑ってたわよ
その意味…貴方には分かるかしら?」
「…」
「あの子、相当変わった子ね…
思わず笑っちゃったわ」




‶早くしなくちゃいけない‶とベルモットは言った
その言葉の真意を考える事で手一杯だった俺に、ベルモットはぼやいていた
彼女は答えを知っているが、それ以上のヒントを出すつもりはないのだろう
俺も同じように窓の外を見る
そこでようやく分かった
どうして清華がいつも窓の外を見ていたのか
一瞬でまさかなんていう考えが過り、心臓が大きく波打ち始めて指先が冷えたような気がした
慌てて病室から飛び出す
椅子が派手な音を立てて倒れた音が聞こえたが、それどころではなかった
そんな俺の背中を見てベルモットが、呆れたような溜息を吐いていたとは知らず







********



sideベルモット



それは二時間ほど前の事…――――――



『貴女にお願いがあります…
私と代わってくれませんか?』
「?…何を言って」
『貴女はナースではないんですよね?
誰か分かりませんけど、私に変装して私と代わってもらえませんか?』
「……」



まさかこんな風に言われるとは思わなくて、日本には面を食らうなんてことわざがあったけど正しくその通りだと思う
言葉が出てこなかった私にもう一度視線を向けて来た彼女は、何1つおかしな事を言っていないとでも言うような表情で…



「プッ!アハハハハ!
貴女、かなり変わった仔猫ちゃんね?」
『?仔猫?』
「それじゃあ、貴女はこれでもそう言えるのかしら?」



そう言って私は懐から小型の銃を取り出し、彼女の額に銃口を向ける
彼女は一瞬目を見開いただけで、くしゃりと苦笑いを浮かべて口を開いた



『…それは考えてなかったです…』
「…フッ、気に入ったわ
貴女のその度胸とその能天気な頭に免じて、今回は協力してあげるわ」
『能天気…』
「あら…自覚なかったの?」
『…』



どうやら能天気なんて言われた事に不服そうな顔をする彼女を見て、あの未可決事件から解放された気の緩みなのだろうと察する
ただ私の前で気を許すなんて、どうかしているとも思ったけどラフな彼女を見て、バーボンがどうして強く興味を持ったのか少し分かった気がする
常に気を張った状態の彼女がいつもの顔なら、今の顔は心のままの彼女と言う事だろう
それを見たのかそれともふとした時の表情に気付いていたのかは、分からないけどバーボンはそんなギャップという物に魅せられたみたいね






飛び出していったバーボンを見送りながら、窓の外を見つめる
そこには彼女がいつも見ていた景色の中で、遠くの方に見える観覧車を飽きる事なく見つめていたのを知っている
それは彼女にとって何か意味しているのだろう
だけど、それが何の意味かは分からない私には変哲のない観覧車でしかない
何か思い出深い理由があるのだろうと思いつつ、彼女が病院に戻ってくるまでが約束だ
もうしばらくここに留まる事を決めながらも、自分が絆されてしまっているなと呆れてしまう




「でも、面白い子は嫌いじゃないわね…」



そう呟き、窓の外を見つめる








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