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sideコナン



翌日、俺はいつの間にか椅子に座りながら寝ていたようで、ガクリと体が傾き目が覚めた
朝日が窓から差していて、眩しく思いながらベッドを見れば、ベッドに座り窓を見つめる清華さんの後ろ姿があった



「清華さん…?」
『!コナンくん、おはよう』
「う、うん、おはよう…」



昨日の様子から見て、あまり精神状態は良くないはずだ
だが、それをなかったかのようにいつもの微笑みを浮かべている
それが彼女なりの俺への気遣いなのだと分かる
昴さんが居ない事に気付き、キョロキョロと見回す俺に清華さんは、朝食を買いに行ったと伝えてきた
もちろん俺の分もあるから心配しないでと微笑む姿は前と変わらない
だが、目元に少し見えるクマに寝たように見えて寝れなかったのだと察する



『コナンくん』
「?何?清華さん」
『ありがとう…
犯人を見つけてくれて』
「……」



優しい微笑みは、いつもの清華さんの物のはずなのに何故かそれは居心地の悪い物に感じた
それは彼女がどれだけ自分の手で、真実を導き出し真犯人である久米沢を捕まえたかったか、一緒に捜査した中で理解していた
自分を犠牲にしてまで犯人確保をしようとしていただろう清華さんを、守れなかったのは俺の落ち度だが…



『嫌味を言ったわけじゃないのよ?
そう聞こえたのなら謝るわ、ゴメン…
でも、コナンくんは私の考えがお見通しだったみたいね…』
「…自分を囮にするつもりだったんだよね?」
『……そうよ、前から張り込んでいるのは知っていた
だけど、誰なのかは分からなかったからね…囮になれば出てくると思ったのよ』
「(やっぱりな…)」



今回の事で警視庁も無視は出来ないだろうし、ましてや本物の証拠品が出てしまった
警視庁もこの不祥事がメディアに嗅ぎつけられれば、公な場で会見をせざるを得ない



「それより清華さん、もう頭がぼぅーっとしたりしない?」
『うん、眠ったから大丈夫よ!』
「そっか、良かった…」



そう安堵していると、俺の頭を撫でる清華さん
どうしたのかと思い見上げると、悲しそうに微笑む清華さんがそこには居た



『ありがとう…コナンくん
私の事が心配で一緒に捜査してくれたんでしょ?』
「…….うん
だって清華さん、自分の事より誰かを優先しちゃうから…」
『…そうね
自分よりも誰かを…刑事としての心意気が染み付いてるのかもね…』
「……」



困ったように眉を寄せてニッコリ笑う清華さんに、俺はまた苦しく感じた
どこまで行っても彼女には、自分の幸せを考える事が出来ないんだろうか…
父親の夢である刑事らしくありたかったんだろう
だから、自分らしさを押し殺してでも刑事らしくあろうとしたんだと思う…
悲しい連鎖を生もうとしている
隣に座っても良いかと尋ねれば、ベッドの真ん中に座っていた清華さんが少しずれて、空間を空けてくれた
そこに座り、同じように窓の外を眺めながら口を開く



「清華さんは久米沢が、どんな事をしていたのか知っていたんじゃないの?」
『……えぇ、でも賭博の証拠は掴めても殺人の証拠は掴めなかった…
だから、殺人の証拠が掴めるまではと思ってたんだけどね』
「…ねぇ?清華さん!
僕と親友にならない?」



俺の言葉に首を傾げて見下ろして来た視線に合わせて、見上げると瞬きを数回していた
そんな表情を見てなんだか安心してしまって、思わず笑うと清華さんも目を細めて微笑んだ
すると、病室のドアが開く音が聞こえてそちらへと振り向けば、そこには昴さんがコンビニの袋を片手に下げて病室に入って来た
昴さんは俺と清華さんを見ると安堵したように口元に笑みを浮かべて、起きたんですねと声を掛けてきた



『はい…
迷惑を掛けてしまったようで、すみませんでした…』
「迷惑なんて思いませんよ
むしろ、心配していたんですよ?
二日間も寝たきりだった貴方が、突然警視庁に連れて行ってくれと言った時は正気かと思ってしまいましたが…」
『すみません…
あの時は犯人を突き止めたい一心で……』



苦笑いをこぼしながらも頬をかく姿に、昴さんも僅かながらに安心した表情を浮かべた
それから昴さんが買って来た朝食を食べながら、清華さんの朝ごはんをナースが持って来てからは、三人で朝食を食べながら他愛もない話をした
その間彼女から悲しそうな表情が見えなかった事に安心した
一度家に帰るべきだなと思いながらも、目を離す事にまだ不安が拭いきれないと思い、清華さんが脳のMRIを撮りに行ってる間に安室さんへと連絡して、昴さんに一度帰っても大丈夫だと伝える
昴さんも寝不足なのは変わらない
今日は平日で、俺は学校を休んでいる状態
蘭は俺が休む事に不満そうにしていたが、俺がどうしても傍にいたいとワガママを言うと折れてくれた



「誰か僕達の代わりに来るんですか?」
「うん、代わりに頼んでおいたから!」



今の所は、頼れるのは多分安室さんくらいだろうと判断しての物だ
おっちゃんだと多分清華さん相手だと軽く騙されて、そのままこの病室から出しちまいそうだしな…
頼れる時と頼れない時の差が激しいと落胆しつつも、すぐに返ってきたメールに安堵のため息を漏らす
先に昴さんに帰って貰おうと思い、先に帰ってても大丈夫だよと言えば、眠気に勝てなかったのか欠伸をしながら頷いてくれた
すると、病室のドアが開いて戻って来た清華さんは、ナースに車椅子を押してもらいながら入って来てベッドへと上がるのをナースが手伝い、横にならずにベッドに座った
それを見送った昴さんが、立ち上がり声をかける



「それじゃあ、僕は一旦家に帰ります」
『あ、はい
ありがとうございました、ずっと傍に居て下さって…』
「いえ、僕が勝手にした事なので
それじゃあ、コナンくんも気を付けて帰るんだよ?」
「うん!またねー!」



俺にそう言うと、もう一度清華さんへ軽く挨拶をしてから病室を出て行った
昴さんを見送った清華さんは、俺へと振り返った



『誰か呼んだの?』
「うん、僕が帰ったら誰が清華さんを守るの?」
『!………ふふ、コナンくんは本当に心配性ね』



そう笑ってみせる表情はいつもの笑みに見えた
だけど、僅かに戸惑った間があったのは言うまでもなかった
それからはまた一時間程二人で他愛もない話をする
阿笠博士が失敗した研究や灰原が手伝わされた研究の事だとかを話すと、面白そうに笑う清華さん
その表情を見て少しホッとした
俺の安堵に反応するかのように、病室の戸が開いた
扉へと振り向けば、そこには安室さんが清華さんを見つめながら、病室へと入って来るところだった
安室さんの表情は安堵したもので、ベッドへゆっくりと近付いて安心したとでも言うように微笑んだ



「この前来た時は、このまま目が覚めないかと思いましたよ…」
『勝手に永眠させないで下さい…』



そう苦笑いをして答えた清華さんに、安室さんは安堵したように微笑んだ
この二人の雰囲気から、もしかしてと思い俺は思わず笑みを浮かべた
彼女は一人ではないのだと理解している
だが、それを受け入れる事が出来ないだけで…
受け入れる勇気も人を信じると言う勇気もないんだと知る



「……もっと話し合わなくちゃいけないのかもな…」
『?どうしたの?コナンくん』



俺の言葉は二人の耳に入ることはなかったが、清華さんに笑顔で首を振ってなんでもないと言う素振りをする




「それじゃあ、僕もう帰るね!」
『うん、ありがとうねコナンくん!』
「ちゃんと体治してね!それじゃあ!」



安室さんが連絡ありがとうとお礼の言葉を聞きながら、じゃあねと別れの挨拶をする
病室を出て、一息付いてからスマホを取り出して佐藤刑事から送られて来たメールを読む
そこには、荒牧が自供した事と久米沢響也を逮捕する事が出来たと書かれていた
それに安堵しながら明日、病院に行った時に報告しようと思い欠伸を噛み締めて、病院から出て帰路へと着く





*******





病室に二人きりになった途端、安室さんは何も言わずにベッドに座って窓側を向いている私の隣に座ると、私を見つめてから頬へ手を這わせて来た
すると、顔が俯いたと思えば大きくため息を吐いた安室さんこと降谷に、数回瞬きをしてからふふっと笑いをこぼす
そんな私が気に入らなかったのか、顔を上げた降谷は少し睨んできた



『冷たくなってないでしょ?』
「…死んだかと思ったんだぞ」
『……でも、もう殺されはしない
犯人は捕まったんだし…』
「…ちゃんと目星は付けてたんだな」



降谷は窓へと視線を移したかと思えば、その窓のカーテンを閉めてしまった
会話を見られるのは降谷にとっては、あまり良くないのだろう
またベッドへと近付いて来た降谷は隣に座り、今度は真っ直ぐに私を見つめたまま真剣な表情で話し始めた



「あの約束……忘れたわけじゃないだろう?」
『……えぇ、貴方を残して死なない…』
「じゃあ、この結果はどう説明する?」
『…ごめんなさい』
「……」



降谷がいつもの安室さんとしての口調を捨てて、声のトーンもいつもより低く本気で怒っているのだと分かった
何を言われても仕方ないと思い俯いて謝る
そんな私に何も言わず、また大きなため息を吐いた降谷
自分の手元を見つめる事しか出来ずにいると肩に重みを感じた
そちらへと向くと降谷が座っている方の肩に頭を乗せているのが見えて、思わず瞬きを何度かしてしまった
そんな事は知らない降谷は小さく言葉を漏らした



「……俺が心配で死にそうだ」
『……』



それを言われてしまったら何も言い返す事が出来ずにいると私の片手を掴んで来た
そして、掴んだ手の中にある物を見せるように開かせる
掌から出て来たのは盗聴器だった



「気付いていたのか…」
『…やっぱりあんただったのね』
「お前が出て行くのは目に見えていたからな」
『棚の上に付けたのは良いけど、沖矢さんに見つかったら面倒になってたわよ?』
「…その沖矢って男……どんな奴だ?」



どんな人物なのかと尋ねて来た降谷に、要注意した方が良いとしか言えないと言った
それ以外何も知らないとだけ伝えると降谷からは、あまり関わらない方が良いと言われてしまった



『ボロが出ないようにしておくわ』
「そうなる前に関わらないで貰いたいな…」
『じゃあ、ハムサンド作ったら考えてあげる』
「意外と軽いな…」
『美味しい食べ物には罪はないしね』



食い意地だけは一丁前だなと笑う降谷
その笑みはいつもの取って付けたような笑みではなく、昔見た表情がそこにあった
それ以上言わないと言う事は、私から情報が漏れると言う心配はしていないようだ
それに安堵するとまた私の頬へ手を這わせると、マジマジと私の目元を見て降谷は寝てないだろうと呆れたように言った
目元を指で優しく擦りながら、クマがあると指摘して来た



『なんだか寝れなかったのよ…
でも、沖矢さんとコナンくんがそばに居たから寝たフリしてたんだけど…』
「…暫く寝てろ
俺が傍にいる間くらい、気を休めろ…」
『……うん、ありがとう』



素直に礼を言って苦笑いを浮かべると頭を撫でられた
それを甘んじて受け入れる私が珍しかったのか、布団に潜って瞳を瞑った私の頭を暫く撫でていた
それから暫くして意識が切れたのを覚えている







end

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