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side安室


安室透として、契約している部屋に昨日は帰り朝を迎えた
数時間しか眠れず、黒の組織としての仕事もこなしていたせいか深夜3時を超えてからの就寝だった
体の疲れも取れないままに、今日は一度公安へと顔を出さなければと朝食を摂りながら、一日の予定を頭の中で組み立てていると、スマホが震えてメールだと気付く
スウェットのポケットから出して、画面を見ると蘭さんからのメールだった
テレビの横にあるもう一つの降谷として契約しているスマホを充電器から外しながら、そのメールを見れば動きが思わず止まった



清華さんが昨夜、襲われて頭を強打して意識不明の状態です。
杯戸中央病院に清華さんは入院しているので、お見舞いに来ていただけると助かります。



女性と言うのは人の気持ちに敏感なとこがある
だから、安室である僕と清華が何か親密に見えたからこその、この連絡なのだろう
色々と察して連絡してくれた蘭さんに感謝しながら、アイツが襲われた事が気がかりだった
一昨日、捜査をすると言っていたのを覚えている
あの時にやはり止めるべきだったと後悔する
だが、今はそんな時間も惜しいと思い少しでも早く、清華の顔が見たいと思い、蘭さんのメールに"分かりました。準備出来次第向かいます。"とだけ打って送信した
それからは朝食も手に付けずに身支度を済ませる
髪を手早く整えてから、家の鍵と車のキーと財布をズボンのポケットに入れて家を出る
鍵を掛けて、エレベーターで一気に地下駐車場へと向かう
愛車へと近付いて行くと地下駐車場に響く声



「どうしたのよ?そんなに慌てて」
「……ベルモット、今は貴女の相手をしている時間は…」
「そんなに林藤清華に拘るのは、彼女に何かあるのかしら?
それとも、本当に惚れたとか?」
「…フッ、そうですね
彼女には本当に惚れてますよ、いろんな意味でね…」



そうイタズラに微笑むとベルモットは、瞬きを数回した後に面白そうに笑い飛ばした
肩を揺らして笑う彼女は、どうやら俺がそう返すとは思わなかったのだろう



「そう…
貴方が惚れ込んだって事は、さぞかし面白い仔猫ちゃんなのかしら?」
「彼女が仔猫なんて物に当てはまるかは分かりませんが…
僕にとっては、とても良い女性ですよ
女性としても利用するにしても…ね?」



ここでベルモットが清華に興味を持つような事にならないように、牽制しなくてはならない
だが、ベルモットの事だ…
何かしら清華に接触するのは時間の問題
そう考えながら、ベルモットにはあくまでも利用するためだと印象付ける



「あら?やっぱりそっちの意味もあったのね?」
「フッ、利用出来る物は利用しなければと思ってるだけですよ」



ベルモットは面白くなさそうに尋ねてきた
それに鼻で笑い肩を竦めてしたり顔で返せば、つまらないと言ったようにため息を吐いた彼女
そして、近くに止めていたバイクへと歩み寄る



「せっかく彼女との事応援してあげようと思ったのに…
期待して損したわ」
「貴女の応援は応援ではなく、ただの抹殺ですよね?」
「人聞き悪い事言わないでくれる?
彼女と貴方が付き合うように応援してあげるつもりだったんだから」



そう微笑む彼女が、どれだけ本気で言っているのかは分からない
だが、ベルモットを清華に近付けるのは危険過ぎると言うのは分かっている
バイクへと跨ったベルモットは、最後に俺へと向いて"彼女との恋路見守ってるわ"と残して去って行った
それに安堵しながらも、一抹の不安が生まれた
俺はすぐさま杯戸中央病院へと愛車で向かう
向かう道中に、スマホで蘭さんへと連絡する
メールをするのが煩わしく、電話する事にした
ヘッドセットを信号待ちの間に付けて、スマホに蘭さんへと電話するよう声をかける
電話を繋げたことで、耳に付けたヘッドセットからはコール音が響く
数コール目で出てくれた蘭さんに、挨拶もそこそこにして清華の容態を尋ねながら、病室から一度も出ていなかったかを尋ねる
すると、朝まで付きっきりで居たようで、沖矢と言う男と交代で清華の傍に付いていたと言う
その男の名前に何か引っかかったが、それが何なのか分からないまま通話を終了させた
病院に向かう間、その違和感と清華との接点は何なのかを考えていたが、本人から聞くしかないと思いアクセルを踏んだ



病院へ着き、ナースセンターで病室を聞くと少し待たされる事になった
面会を許可するのか聞いているのだろう
数分程して、病室を告げられ軽く礼を言うと小走りで病室へと向かう
着いた病室の前には、高木刑事が立っていた
その事から、どうやら犯人は捕まっていないと察する
そして、その犯人が再び清華を狙う可能性があると言う事を指している
俺に気付いた高木刑事が表情を明るくして、声を掛けて来た



「安室さん!清華さんのお見舞いに来てくれたんですよね?」
「えぇ…清華さんが襲われたと連絡が来たので…」
「…中へ入って、清華さんに呼びかけてあげてください!
清華さんもそれを待ってると思いますから!」



高木刑事なりの優しさだろう
少しぎこちない笑みを浮かべた高木刑事に見送られながら、病室の扉を開けて中に入る
すると、そこには蘭さんの姿がそこにはあり、沖矢と言う男の姿はなかった



「安室さん!」
「蘭さん、連絡ありがとうございます
毛利先生は…?」
「お父さんは清華さんを襲った犯人を突き留めるために、警視庁で内密に捜査してるところです!」
「そうですか…
蘭さん、ちゃんと寝ましたか?
目の下にクマ出来てますよ?」



蘭さんの目元にはうっすらとクマがあった
いつ起きるのか不安で、ぐっすりと寝られなかったのだろう
清華へと視線を下ろせば、目立つのは痛々しく頭に巻かれた包帯にフェイスマスク型の酸素吸入を付けた姿
蘭さんには悪いが、清華と二人だけになりたかった
俺の言葉に何かを察したのか或いは、睡魔に勝てなかったのか一度家に帰宅すると言った蘭さん
俺に任せて一度帰宅する蘭さんを見送り、病室のドアが閉まるのを待ち車から持って来たカバンから、盗聴発見器を取り出して病室に盗聴器が仕掛けられていないかを調べた
ベルモットの事を警戒してのものだ
一通り調べたが、何も反応がない事に安堵してベッドの横にある椅子に座る
やっと安心出来た事に大きなため息を吐く
あちこちに包帯を巻いている清華を見て、何処からか突き落とされたのか…
詳しい事は何も知らされていない
だが、この状態の清華を見れば一目瞭然だ
単独捜査はさせるべきじゃなかったと、手を強く握りしめる
目覚めない清華にどうしようもない不安が募る
布団から出ている手を優しく握り、もう片方の手で頬を撫でる
その手から感じる温もりに僅かに震えそうになったが、目を閉じて安堵のため息をまた吐き出す
そして、もう一度顔を見れば顔色は悪く見えるが、胸が上下している



「…俺を置いていくなんて、許さないからな……」



病室に響いた俺の声に、ベッドで寝ている清華からは、ただ酸素吸入の音が機械的に聞こえるだけだった…
早く目覚めてくれと願うばかりで、何も出来ない己に無力さを感じる
俺をその瞳に写して、いつもみたいにいじけた顔をして睨んでくれ
それからいつものように頭を撫でると、顔を赤くして怒る清華を見せてくれ…



「…お願いだ……起きて笑ってくれ…」



俺の切実な声がただ寂しく木霊するだけで、誰も返してはくれない
不安ばかりが俺を責め立てる
あの時のように俺は失敗するわけには行かないんだと言い聞かせた…





******





ふと目が覚めれば、そこは真っ白な部屋だった
視界は霞んでいて、ぼんやりとした視界はクリアではない
寝起きだからなのか、それともずっと目を閉じたままだったのか…
それは今の私には分からなくて、だけど私の目にはぼんやりと誰かが写っている
金髪の髪は彼ではないだろうかと思っていると、その人は私の手を強く握って暖かい手で頬を撫でる



「…俺を置いていくなんて、許さないからな……」



その声は震えていて、彼にはお見通しだったのだろうかと、思わず自嘲気味な笑みを浮かべたかったのに表情筋には力が入らず…
また瞼を閉じてしまった
気持ちのいい微睡みに似た感覚に浸りながら、目を瞑っていると何かが開く音
ドアだろうか?
何の音だったのか、分からなくて今度こそ目を開ければ少しずつ視界がクリアになって来た
そこには倒れる前、私を家に上がるまで見送ってくれていた沖矢さんがそこには居た



『…お、きや、さん……』
「!目が覚めたみたいですね…
気分はどうですか?」
『…少し…目が見えづらいです…
あと、……頭がぼぉーっとして…』
「軽い脳震盪を起こしてるかもしれませんね…」



優しくそう声を掛けてくれる沖矢さん
さっき一瞬だけ意識が浮上した時、降谷の声が聞こえた気がしたはずなのに沖矢さんが目の前に居る
不思議に感じながらも、頭が上手く働かないせいか沖矢さんをジッと見つめる



「?とりあえずナースコールしますね?」
『…はい』



ぼぉーっとしながらナースコールを押した事で、ナースコールのマイクに向かって沖矢さんがナースへ私が目覚めたと伝えていた
暫くするとやって来た先生とナースは、テキパキと質問や血圧測定や触診などをして行く
言われるがままにされるがままにぼぉーっとしながら終わるのを待っていると、先生は軽い脳震盪の症状との事だった



「二日間寝たきりだったので、皆さん心配してましたよ?」
『…え?』
「女子高生三人とあともう一人、褐色肌の方も来てましたし」
『……そうでしたか』
「……」



二日間も寝たきりだった事に驚いた声だったのだけど、どうやらナースには"皆さん"と言う言葉に反応したと思ったようで…
だけど、ナースから降谷が来たのだと言う事が聞けて、ぼんやりとする頭でも嬉しく感じた
それが顕著に表情へ出ていたのか沖矢さんが、私を見つめていた
それからナースと先生は病室を出て行き、私と沖矢さんだけになった



「突き落とされた時の記憶はありますか?」
『…はい』
「その件を今、警視庁で毛利探偵とコナンくんが捜査しています」
『…コナンくんが…?』



そう聞けば沖矢さんは頷く
捜査一課に伊達が言っていた"裏切り者"が居る確率が高いことから、佐藤刑事や目暮警部が動く事が出来ない事も考慮して毛利探偵とコナンくんを内密に警視庁へ招いて、資料室で捜査するとの事だった
沖矢さんはそう話して、後は安心してゆっくりと療養して下さいと言って、私にベッドに横になるよう促す
だけど、それに従う事が出来ずに沖矢さんの腕を掴む
それに動じる事もないように、沖矢さんは私を見つめる



『……私を…警視庁に連れて行って下さい』



また私は降谷を悲しませてしまうね…
ゴメンね、零…






end

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