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□ハロウィン
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10月31日と言えばハロウィン
そんな一日は仕事で終わってしまうんだけど…
ご令嬢の買い物のために、つきっきりでボディーガードをしてくれとの依頼で、朝から駆り出されていた
そのご令嬢はあちらこちらに走り回るもんだから、こちらとしてはもう少し大人しくしておいて欲しいものだ
なんとか依頼をこなして、やっと解放されたと言う事で体の疲労も一気に襲って来たせいか、帰る足取りが凄く重く感じる



『はぁー…疲れた』



街中を疲れたとこぼしながら歩いていれば、目につくのは仮装した親子連れの団体や派手なコスプレ姿の若者ばかり
今日はハロウィンと言う事で、道行く人皆が浮かれているようで…



『…ハロウィンか』



そんな騒がしい一日を一人で過ごすのは、なんだか寂しく思えて誰か誘おうかと考え始める
刑事である美和子を誘うのは仕事の忙しさで断られるのは分かっているし、かと言って他の友人でもそれは同じだろう
なんだか街が騒がしいと一人だけ少し浮いてるような気分になる
いつも通りの帰路を歩いていれば、ちょうどポアロが目に入った
安室さんこと降谷に会えないだろうかと思い、少し歩を早めてポアロのドアを開けた



「いらっしゃ…清華さん!」
『……あ、安室さん、その格好…』



ポアロに入って目の前に居た彼の格好に、思わず驚いて目を見開いて凝視してしまった
ドアを開けたまま固まっている私に、安室さんは苦笑いを零す
カウンターの奥から現れた梓ちゃんが、微笑ましそうに笑っているのを視界に入り、なんとなくそれで察してしまった



「今日はハロウィンなので…」



そう言いながら、席へと誘導してくれた安室さん
さり気なく背中を押して、席を店の一番奥のカウンターから少し死角になる位置へと案内した
そこにした理由を察してしまい、ことさらに笑いが込み上げて来そうになる
席に座った途端に口を隠して笑いを堪えて俯く
だけど、安室さんにはハッキリと見えているから隠す意味はないんだけど…



「…言いたい事は言えば良いだろう」
『….っ…、その衣装梓ちゃんが揃えたの?』
「…あぁ」
『梓ちゃんが見たかったんだろうね….ぷっ』



肩を揺らして笑う私に安室さんは、不機嫌そうに見下ろす
まさか、年幅の行った年齢でキバまで付ける本格的なコスプレをさせられてるわ、何よりもハロウィンを楽しむような人ではないのを知っているが故に可笑しくて笑えてしまう
それは安室さんも思ったからこそ納得行かない顔なんだろうけど…
それに私が入った時、一瞬ゲッと言った顔を安室さんはしていたから、それを見る限り私にこの格好を見られたくなかったんだろう
こうして笑われる事が目に見えていたからと予想する



「俺だってこんな格好したくなかったんだ…」
『はいはい!
吸血鬼様、注文良いですか?』



そうからかうように言えば、しかめっ面になったのは言うまでもない
だが、その表情もすぐに解けていつもの安室さんの表情へと戻る
僅かに違和感を覚えていると、突然安室さんが跪いて私の片手を取り、手の甲に口付けをひとつ落とした
彼の行動に驚いて安室さんを思わず凝視していた私に、にっこりと微笑んで私を見上げる



「吸血鬼らしく、イタズラをさせて頂きましょうか」
『はぁ?!ちょっ!?なんでノリノリなのよ!!』



そうイタズラに微笑んで私を見上げる
安室さんこと降谷とは恋人関係ではないのに、まさかこんな事をされるとは思わなくて、熱くなる頬を誤魔化すように小声でまくし立てるように怒ってみせる
だけど、彼は楽しそうに微笑んで私を見上げて来る
その視線に思わず逸らす事しか出来なかった
ハロウィンと言う事で、お客はどうやら私以外にカウンターに座っているお客さん数人しか居らず…
そのカウンターから死角になっているこの席は、私と安室さんの二人だけしか居ないからこそ彼はこんな事を始めたのだろう



『……本当、分かってやってるから腹立つ…』
「その腹立つ男にイタズラされてくれますよね?
お菓子なんてもちろん持ってないようですし…」
『ちょっ!ち、近い!』



近付いてきた安室さんにカウンター側に聞こえないように小声で訴えるけど、肩を押し返したがその手は安室さんに、絡め取られてしまう
両手を掴まれてしまい、こんなとこでなんで安室さんに迫られてるんだろうと冷静な考えが頭の片隅にあるのに、突き飛ばせない自分がいる
彼の事を好きだと自覚しているが故に、期待している自分がいるのだと知る
だからなのか、尚更恥ずかしく思えて顔が熱くなり真っ赤になっているであろう事は想像できる
俯いてどうにかやり過ごせないかと思っていると、そんな事も許して貰えるはずもなく
安室さんの片手が私の顎へと伸ばされて、俯いていた顔を無理矢理上げられる形になった
そうなってしまえば当然、真っ正面にいる安室さんと視線が合うわけで…
綺麗な薄群青色の瞳が私を写していた
そして、片手だけ掴まれているだけの現状で安室さんの顔が近付いてくる
近くに梓ちゃんやお客さんが居るのに、キスされてしまうのだろうかと頭の中は軽くパニック状態
そんな中でも安室さんの表情は余裕の笑みを浮かべている
その笑みに腹が立つのに、私はどうやら降谷に押し切られる事に警察学校時代から弱いようで…
突き飛ばす事も出来ないまま、ギュッと目を瞑る事しか出来なかった
だけど、いくら待っても唇に触れるような感覚が無くて、まさか騙されたと思い目を開けた時…
首筋に息が当たったと思えば、ぬるりとした感覚が首筋から走り、背筋をゾクゾクとしたものが駆け抜けて行った直後、何かが刺さったような痛みを感じた
思わず声が出そうになったとこを安室さんは、顎に添えていた手を口元へと移動させて声が出ないように覆った



『っ、んんっ!』
「……フッ、出血はしてないから大丈夫だ」
『…っ……変態っ』



耳元でそう囁いた彼は、楽しそうな声色でそれがムカつくのに、言い返せない自分はもう手遅れな気さえする
キャパオーバーしそうな頭で、なんとか返した言葉
降谷に何度か手を繋いだり抱き寄せられた事は、過去に何度かあった
だけど、ここまで過激で大胆な事をされた事がなかったが故にどんな顔をして、彼を見れば良いのか分からず真っ赤な顔で俯く事しか出来ない
そんな私に彼は、満足したのか立ち上がったと思えば、安室さんへと戻りにっこりとした笑みで言うのだ



「僕、そこまで出来た大人じゃないんですよ」
『……っ、本当にムカつくっ!!』
「可愛い顔で言っても何の説得力もありませんよ?
それともまた噛まれたいですか?」
『ち、近寄るな!!変態!!バカ!』



小声で怒ってみせるけど、安室さんは目を細めて面白そうに微笑むばかり
すると、カウンターから梓ちゃんが安室さんを呼ぶ声がして、やっと解放されると内心ホッとする
だけど、それを察したのか一瞬不機嫌そうな表情になったと思えば、安室さんは私に一言伝えた



「今はこれで終わるが…仕事が片付いたら、覚悟しておいてくれるよな?」
『……へ…?』



降谷としてのその言葉は、どう捉えて良いのか分からず間抜けな顔で彼を見上げる事しか出来なかった
そんな私に満足したのか、目元を細めて愛おしそうに見つめる彼にただ驚かされるばかりで…
梓ちゃんに呼ばれた安室さんが、そそくさとカウンターへ戻って行く後ろ姿を眺めながら、整理しきれない頭でどう捉えるべきなのか悩み始めるのだった…






え………?
あ、あれって……告白…?





一人一気に顔を赤くして、テーブルに突っ伏すのは言うまでもない
そして、そんな私に注文を取りに来た梓ちゃんが、心配するとは誰も予想はしなかっただろう








end
あくまでも番外編なので、本編とは切り離して考えて下さい
そして、管理人的には雄な安室さん(降谷)を書きたかっただけの欲望の塊の産物です

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