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俺と昴さんの目前で起きた事に、最初は反応出来なかった
だけど、清華さんが階段を転げ落ちて行くのを見てやっと声を上げる事が出来た
俺の声も虚しく、階段を転げ落ちて来た清華さんはピクリとも動かない
そして、反対の階段から逃げて行く黒のフルフェイスを被った人物を俺は追うために、昴さんと声をかけて清華さんをお願いして、スケボーを車から取り出しそのままスピードを上げて追いかける
走って逃げて行く犯人を追いかけて行くと犯人は、路駐で止めていたバイクに乗り走り出した
そのバイクのナンバーを確認しようとしたが、予めナンバーが見えない角度に調節されていた
舌打ちをしながら加速して追いかけて行くが、大通りに出てしまい車の間を縫うように走って行く
車に轢かれそうになりながらも、何とか避けながら追いかけるが犯人の方が逃げるのが早いと判断して、ズボンのポケットから小型発信機を投げる
なんとか取り付ける事に安堵しながら、歩道へと上がりスピードを上げてもう一度清華さんの家へと戻る
頭でも打って脳挫傷なんて事になれば、マズい事に成りかねない
そう内心焦りながら来た道を戻る
すると、そこには何人か人集りが出来ていた
その人集りを潜れば、昴さんが清華さんの傍に座って様子を伺っていた



「昴さん!」
「コナンくん」
「救急車は?!」
「すぐに来てくれるそうです
下手に動かせば脳に衝撃を与えかねないので、動かなさいまま待っている状態です」



そう説明してくれた昴さんに安堵しつつ、動かない清華さんの頭を見れば血が流れていた
それを見つめて眉間にシワが寄る
俺たちの目の前で行われた犯行
危険だから見送ると言った矢先にこれだ
悔しく思うと手に力が入り、爪が食い込む
一人自分の考えの甘さに呆れていると、聞こえて来たサイレンの音に救急車がやって来たのだと安堵する
救急車の姿がやっと俺たちの前に到着して、降りて来た救急隊員にこっちと手を振れば、人集りを掻き分けてやって来た
ストレッチャーへとゆっくりと乗せられた清華さん
救急隊員が通報した昴さんに、一緒に救急車に乗り込めるかと尋ねていた
昴さんは車があるから、俺を救急車に乗せてくれと答えた



「ボク、お姉さんが落ちるとこ見てたのかい?」
「うん!見てたよ!
黒のフルフェイスをかぶった人が清華さんを落としたんだ!」
「分かった!
じゃあ、ボク救急車で一緒に病院に来てくれるかな?」
「うん!」


救急車に乗り込もうとして、昴さんへと振り返る
何処の病院に搬送されたかを連絡すると伝えてから、救急車へと駆け込んだ
救急隊員も昴さんに、救急車の後ろを付いてこないよう説明してから乗り込んで来た
発進し始めた救急車の中で、救急隊員から軽く状況説明をして欲しいと言われて、簡潔的に伝えると無線でケガの状態とそうなった経緯を伝えていた
搬送先の病院が見つかり、救急車はスピードを上げていく
杯戸中央病院へと向かい始めた救急車の中で、救急隊員は出来る限りの処置をしていた
出血が気がかりだと思いながら横たわる清華さんを見つめる



甘く考えてた
今更、裏切り者が清華さんを監視はしていたとしても、手を出すとは思えなかった
だけど、その考えと裏腹にこんな事態になった…



歯噛みをして後悔しても、そんなのは後の祭りだ
俺の推測だが、清華さんは自分の母親から父親を奪ってしまった事への深い罪悪感で、自分の人生を捧げてでも捜査しているんだと分かった
それはあまりにも哀しく、あまりにも辛い決断のはずだ
自責の念で自分を追い込む清華さんは、痛々しくてまるで自分が犯罪者のように責めている



清華さん……お母さんの気持ちも少しは考えてあげないと…本当にどちらも壊れちゃうよ……



家の冷蔵庫にあったと昴さんが言っていた、清華さんのお母さんが作ったおかずが届けられていると言う事は、少なくともお母さんは心配して家に来ているのだと分かった
でも、清華さんはそれを分かっていても罪悪感と自責の念で、お母さんに合わせる顔がないのだろう
噛み合わない気持ちが空回っているのだと思うと、やるせない気持ちになる
ストレッチャーに横たわる清華さんの手を握る



俺みたいなガキが言えた事じゃないけど……でも………



「……清華さん…待ってる人がたくさんいるんだ…
だから……戻って来てよ」



出会ってまだ数ヶ月程度だけど、それでも分かる事はたくさんあった
だから、俺は清華さんが一人で捜査しているのなら、少しでも力になりたいと思った
俺が不用意に触れられたくない事を聞いてしまった事への罪滅ぼしでもあったけど…
今は俺自身が清華さんの気持ちが少しでも晴れれば良いと思ってる



この事件が解決したら、多分清華さんは…



今までの言動や態度を見て、推測はしていた
悲しい連鎖を生まないためにも…
清華さんを止めなきゃならない
そう決意をしながら、握っている手に少しだけ力が入る






杯戸中央病院へと着いて、手術室へと運ばれていく清華さんを見送りながら、スマホで昴さんに着いた病院の名前を伝える



「コナンくん、蘭さん達には伝えておいた方が良いでしょう
僕とコナンくんは、突き落とした犯人を目撃したので警察も来るでしょうし…」
「うん、分かってる
ちゃんと電話するから大丈夫
じゃあ、昴さん後でね」
「えぇ、また後で」



通話を切り一息着く
それから蘭に連絡をする
電話の向こうで焦った蘭の声を聞きながら、状況を軽く説明するとそばで聞いていたのかおっちゃんが声を上げたかと思うと、通話相手がおっちゃんに変わった



「おい!!清華さんは大丈夫なのか?!」
「今は手術室で手術を受けてるから分からない…」
「そんなぁ…」



嘆くように声をあげたおっちゃんの言葉に、罪悪感を覚えて思わず眉間にシワがよる
すると、今度は蘭が通話相手になり今から病院に来ると言った



「今から行くから、少し時間が掛かるけど…待ってて!」
「うん、分かった」



それだけを伝えると通話を切った
手術室の前に設けられた長椅子に座り、スマホを両手で握りながら顎に当てて視線を床へと落とす



犯人はもう決定的に決まったようなものだ…
俺たちが捜査に加わった事で焦って、こんな行動に出たと言う事は捜査一課にいる誰かの可能性が高い
俺と昴さんを見ただけで、普通は焦ったりしないはずだ…
子供が捜査に加わったところで、真相に辿り着けるはずもないだろうし、ましてや昴さんは大学院生だ
それなのに、俺たちが加わった事で清華さんに手を出したと言う事は…



そう考えてから佐藤刑事だけにでも、連絡する事にした





「…ま、待って……ゴメン、コナンくん
ちょっと整理が出来なくて…」
「……そうとしか思えないんだ」
「……分かったわ
でも、今は清華さんの容態が心配だから今から、私もそっちに行くわ!」
「うん!分かった!」



搬送先を伝えると通話は切れた
これで、一通り連絡するべき人には行き渡ったはずだ
それに安堵のため息を吐いていると俺を呼ぶ声が聞こえて、顔を向けると昴さんが小走りでやって来た



「昴さん!」
「コナンくん、林藤さんは…」
「まだ手術室…」
「そうですか…」



俺も昴さんも黙る他なかった
手術室の入り口にある赤いランプを見つめたまま、時間は少しずつ過ぎて行った
昴さんは俺の隣へと座り、一息着いた
それから俺は落ち着いたところで、犯人に付けた発信機を思い出し眼鏡のアンテナを立てて、発信機がどこにあるのか調べる



やっぱりか……



そう納得すると、思わず口に笑みが浮かんだ
そんな俺に気付いた昴さんが、俺へと尋ねる



「犯人の居所が分かったんですか?」
「うん…やっぱり、睨んだ通り警視庁にいるよ
裏切り者がね…」



そう言うと、難しい顔をして眉間にシワを寄せた昴さん
清華さんを思ってなのか、それとも日本の警察の在り方に疑問を抱いているのか…
それは昴さんにしか分からない



「…犯人は林藤さんの動向をずっと見張っていたと言う事ですね」
「うん…清華さんの同期の伊達さんも、多分それに気付いてたんだと思うよ
それを知れば清華さんが、一人で暴走し兼ねないと思って…」
「黙っていたんですね……
優しさが裏目に出てしまうことにならなければ良いんですが…」



そう零した昴さんは、手術室を見つめながら案じていた
すると、俺たちがいる廊下に響いた足音に、振り向くと佐藤刑事と目暮警部と高木刑事が居た
慌てたように走って来た佐藤刑事は、俺のとこにやって来た



「コナンくん!
もしかして、まだ手術は…」
「うん、まだ終わってなくて…」
「……コナンくん、清華さんを突き落とした犯人を見たんだよね?」
「うん、見たよ!
でも、フルフェイスで顔を隠してたから顔は分からなかったけど…体格と背格好からして、男だって分かったよ!」
「男…それだけじゃあ、まだ犯人は絞れないわね…」



そう零した佐藤刑事は昴さんへと目が行き、俺が説明しようとしたが昴さん自身が説明してくれた



「僕もコナンくんとその犯人を見た目撃者です
彼女が過去の捜査を一人でしていたので、僕とコナンくんでお手伝いを…」
「!!まさか、林藤くんが捜査してるのは….!」



どうやら目暮警部は清華さんが、単独で捜査している事を知らなかったのか驚いたように声を上げて昴さんを見た
それに頷いた昴さんに、目暮警部は詰め寄り何故止めなかったと声を荒げた
取り乱した目暮警部を始めた見たせいか、佐藤刑事も高木刑事も驚いて動けないままだったが、ハッとしたように慌てて止めに入った



「あの事件は……我々では手に負えるような事件ではない」



そう力無く言った目暮警部は、俯いて悔しそうに歯噛みしていた
此処まで目暮警部が言うのも、捜査資料を見れば一目瞭然だった
捜査資料には犯人は荒牧と記載され、さらにはメディアには荒牧が犯人として扱うとまで書かれていた
世間には公表出来ない"何かを"隠すために、上層部は一丸となって隠していると言う事…



「…佐藤くん」
「はい!」
「……この事は内密に調べる
もちろん、この事は他言無用だ
上層部への内通者が誰なのかわからん以上、私はむやみに動けん…
すまんが、主だって動いて貰いたいんだが…」
「……警部、お任せ下さい!」



そう言って敬礼した佐藤刑事
頼もしい佐藤刑事の言葉に安堵する目暮警部に、高木刑事も加わり内密に警視庁内を調べる事になった
事情聴取をするために昴さんを連れて、病棟の待合室に向かう高木刑事
俺も事情聴取する事になり、手術室の前で目暮警部たちに話す事になった






end

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