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事件現場へと着くともう時間は四時を回っていた
今日はここを回るだけで、終わってしまうだろうかと考えながら、大家さんの家のインターホンを鳴らす
私だと分かるといつものように鍵を持って出て来てくれた



「はぁー…あんたも懲りないね」
『すみません』
「あの部屋の買い手が長い間居ないんだから、あんたに買い取って貰いたいくらいだよ…」
『あはは…』




嫌味を言われつつも、現場保存をして貰っている身としては何も言えない
それに大家さん自身の収入源であるんだから、そう言われても仕方ない
苦笑いを零しながらアパートの一階の一番奥の部屋へと案内される
二人は後ろを付いて来る中、コナンくんがまた大家さんへと尋ねて居た
今までにあの部屋に訪ねてきた人は居ないのか、被害者女性の付き合って居た男を見た事がないかなどと聞いていた
それに律儀に答えていた大家さんは、私にコナンくんの事について尋ねられた
曖昧に答えて、苦笑いを浮かべた事に疑問を持ちつつもそれ以上聞かないでくれた
部屋に案内してから、帰る時は声を掛けてくれと言ってくれた大家さんに、お礼を言うとそそくさと去って行った
カバンから捜査資料に貼られていた現場写真と照らし合わせつつ、前回来た時と変わってないか比較する
すると、コナンくんが私へ尋ねて来た



「ねぇ、清華さん?」
『?何?』
「なんで警察は被害者の交際相手を探さなかったの?」
『やっぱりそこに疑問を持ってたのね…』



捜査資料から顔を上げて、コナンくんへ苦笑いをこぼしながら振り返る
すると、それに首を傾げたコナンくん




『被害者にプレゼントされた数々の物から、足取りが着くと思って調べたんだけど、どうやら店員たちもグルみたいでね…
どこに行っても監視カメラも誰が買って行ったかも教えてはくれなかったのよ』
「一般市民ならそれは当たり前だよ…」
『ううん、刑事の時の話よ』
「えっ!じゃあ、捜査協力自体しなかったって事?!」
『怪しい事この上ないでしょ?』
「……」




そうここまで怪しい手回しは、もう一般市民が出来る話でもなければ前科者の荒牧にだって出来るはずがない
だからこそ、この事件は警察の汚い部分が絡んでいるのだと思った
見たくはない部分を暴こうとしているのは自分でもわかっている
だけど、亡くなってしまった被害者や被害者遺族であるご両親の母、香苗さんだって真実を知りたいはずだ
そして、私自身の父を殺されるきっかけになったこの事件を、解決しなければならない





考え始めたコナンくんを見て、彼が話し始めるまでは部屋の様子を確認しようと思い、事件現場のリビングから寝室へと入る
寝室を見渡してから、アクセサリーボックスに入っていたアクセサリーも確認する
何かが無くなっている事もなく、それに安堵しつつまた部屋を見回す
窓からは日差しが差し込む室内に、僅かに違和感を感じて壁に貼られたポスターを凝視する
四隅をシールで止められていたポスターへと近付いて見ると、やはり貼られたシールの周辺に僅かにズレた位置で壁にシールの粘着が付着していた
試しにそのポスターを剥がそうとする私の元にやって来た、沖矢さんとコナンくんが声を掛けてきた



「どうされたんですか?」
『このポスターの位置が少しズレてるみたいなので、剥がしてみようかと思って』
「え?」



驚いたようにコナンくんが見上げていた
それを見ながら、シールを剥がしていくとそこには、壁に画鋲で刺して落ちないように吊るされた白い封筒に入った手紙があった
その画鋲を外そうと素手で抜こうとしたけど、思いの外深く刺さっているせいか上手く取れない
すると、沖矢さんが私の手を掴んで僕がやりますと言って代わってくれた
沖矢さんは財布から十円玉を取り出すとその十円玉を、壁と画鋲の間に差し込んで十円玉を持ち上げるとスルリと画鋲が取れた
画鋲を外して、私に封筒を渡してくれた沖矢さんにお礼を言って、コナンくんにも見えるようにとベッドへと座り封筒を開ける







私はいつか殺されるんだと思います。
今お付き合いしている彼は、違法賭博で荒稼ぎしているような人です。
でも、彼は凄く私に優しくていろんな世界を見せてくれました。
凄く充実しているお付き合いだと思っていました。
だけど、彼が違法賭博で荒稼ぎをしていけばして行くほど、彼は変わっていきました。
金の亡者となってしまった彼は、どうやって止めれば良いのか分かりません。
そんな彼の傍から離れたくても、彼の素性を知ってしまった私はいつか殺されるのだと…。
頭のどこかでそう思っていました。
金に魅了された彼は、金のためなら手段を選ばないような人になってしまいました。
もう私ではどうにもなりません。
お母さんにもお父さんにも、相談が出来なくて苦しいです。
死にたくない。
誰か助けて。
彼を……久米沢 響也を助けてあげて下さい。


橘 十和子







手紙を読み終えると部屋には、また静寂が訪れた
傍で聞いていた二人は、手紙の一部が滲んでいる事に気付いた
最後の方の文章は、感情的になり過ぎて纏まらずに書いていたからか思ったことを書いたように見える
コナンくんが手紙に手を伸ばしてきたから、彼に渡すとジッと手紙を見つめて目を細める
彼は被害者の痛みを感じ取ってしまうところがあるのだろう
そう思いつつ、口を開いた




『被害者女性の名前が一致したって事は、この手紙は被害者本人が書いたって事ね
筆跡を肉眼で見ても、彼女の物のようだし…』
「涙ながらに書いたんでしょうね
字が滲んで、最後の方の文字が少し震えてしまっている…」
『えぇ…感情的に力が入ってしまったんでしょう…
それに決定的な犯人の名前も上がっている事だし』
「久米沢と言えば、警視庁長官も同じ苗字でしたよね?」




沖矢さんの質問に頷くとコナンくんは私たちを見上げてきた




「でも、彼女は分かってたんだね…」
『そうね…』
「彼女は逃げたくても逃げられない状況に、絶望していたんでしょうね…」




コナンくんが呟いた言葉に、私が頷くと沖矢さんは逃げたくても逃げられなかった被害者、橘十和子さんを思いながらやるせないため息を吐いた




「それにしても、この手紙を被害者自身が隠していたのなら、ズレて貼られたポスターは一体…」
『……まさかとは思うけど…』
「そうかもしれませんね…先ほどの裏切り者と言うメールから察するとですが…」



ポスターを見つめたコナンくんに続いて、私が思案しながら呟くと沖矢さんがあっさりと答えてしまう
それを見ていたコナンくんは口を開いた




「じゃあ、清華さん!」
『ん?何?』
「伊達さんって人の家に行かない?」
『え…?
でも、今日はもう暗くなって来てるし…コナンくんは帰った方が…』




窓の外を見れば、夕日が傾いて夜空が見え始めていた
子供であるコナンくんを連れまわすのは、さすがに警護職に就いている自分としては、気がひけるのだが…
どうやらコナンくんは、そんな事お構いなくとでも言うように沖矢さんを味方にする
本当にいい性格してると顔が引きつりそうになった
コナンくんの言葉に反論もせず、沖矢さんは僕も付き合いますよと言うだけだった
仕方なく伊達の家へと向かう
その道中に伊達の家に電話をして、少し話をさせて貰う事をおばさんに伝える
すると、久々に会えるからなのかおばさんは快く承諾してくれた
時間を見れば、もう五時を回っていたから蘭ちゃんに連絡しておこうと思いスマホを取り出した私に、運転席の沖矢さんから声が掛かった




「昼に感じたあの視線はなんだったんですかね?」
『…裏切り者かもしれませんね』
「やはりそう思いますか…」
『…ずっと気になってたんですが、沖矢さんって何者なんですか?』




ふと沸いた疑問をそのまま本人にぶつける
後部座席にいるコナンくんが僅かに焦ったように見えた
横にいる沖矢さんへと視線を向ける
彼の言動や仕草は、なんと言うか少し大人び過ぎているような気がしてならない
普通なら一般市民が街中で視線なんてそうそう気にしない
人見知りな人や人間観察をしてしまう人はいるけど、そういった興味本位や人嫌いではなさそうだし…
警察関係や探偵と言った人は、そう言ったものには敏感だ
だけど、彼は大学院生だと言っていた
そんな彼が大学院生だと言うのは少し違和感がある
彼が心理学の学科を専攻しているのなら、まだ分かるのだが…



「昴さんもホームズのファンで、推理ファンなんだって!
だから事件の推理を独自にするのが、趣味なんだよね!」
『…ふぅーん、シャーロキアンって事ね
ふふ、それじゃあコナンくんも推理ファンならぬ推理オタクってわけだ!』
「あ、あはは…(悪かったな、推理オタクで…)」



コナンくんが苦笑いをこぼしていた
それを聞いていた沖矢さんは、私へと声をかけて来た




「僕も質問しても良いですか?」
『?えぇ、どうぞ?』
「貴方ほどの洞察力を持った方が、どうして警察を辞めたんですか?」
『…私を庇おうとして、付かなくて良い嘘を上司にさせてしまったからです
だから、いつかその嘘が明るみになれば上司に迷惑が掛かると思ったんですよ』
「やはり、情報を守るためだけではなかったんですね…」
『私一人が辞めて収まるなら、それで良いと思いましたから』




肘を窓の淵に突いて手で顎を支えながら、窓の外を眺めてそう返す
それから沖矢さんへと振り返る




『それに私はどうも被害者に感情移入してしまうから、刑事には向いてないんですよ、私…』
「…確かにそうかもしれませんね」
『……プッ!貴方みたいに真正面から"向いていない"って言われたの初めてです』



あまりにもド直球でそう返されたもんだから、思わず笑いをこぼしてしまった
そんな私に後ろのコナンくんは一瞬焦ったけど、隣の沖矢さんは驚いたように私を一瞬見つめて前方へと視線を向けて、運転へと集中しながら口を開いた




「貴方のように傷つきやすい方は、僕も向かないと思っただけですよ」





その言葉は昔アイツに言われた言葉とそっくりだったから、思わず見開いて沖矢さんを見つめてしまった





"お前は傷つきやすいから、刑事には向かないと俺は思う"





それは降谷と大喧嘩する原因の言葉だった
まだまだガキ臭かったあの頃の自分を懐かしく感じながらも微笑んで、視線を俯かせてそうですか…と返す私を横目に沖矢さんは、青信号を確認して発進させた









end

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