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その事件は、今から四年前に起きた…ーーーー




始まりはある一室の殺人事件だった
部屋の持ち主である女性が、リビングで腹を刺された状態で亡くなっていた
凶器は刺さっていなかったものの、複数箇所の刺し傷と防御創が遺体には何箇所も見られた
だけど、血が床には垂れていない所を見て他の場所で殺害され、自宅まで運び込まれたのだろうと断定した
鑑識によると死亡推定時刻が曖昧にされてしまっているようで、大体の時間が昨日の夜九時から今日の午前五時の間だと言う事だった
遺体の第一発見者と言うのがこのアパートの大家だった
鑑識の方々が集めてくれた遺留品や微細な埃やゴミを採取した結果を、目暮警部に報告していたようだ
私達も交えながら結果を話して貰った



「テーブルに置いてあったコップからは、毒が混入されていました
そして、もう一つの流しの洗い桶に入れられていたコップから流れたのか、その桶にも毒が混入していました」
「ん?どう言う事かね?
こちらのテーブルのコップにも毒が入っていて、さらには流しのコップにも入ってるとは…」
「分かりません…
ですが、どちらにも毒が入っていたと言う事は、こちらの目を誤魔化すためなのか或いはここで、毒を飲まされて殺害場所へと運び出したか…」
『………』



確かに夜なら人通りも少ないから、運び出すにはちょうど良いかもだけど…
絶対に人と合わないとは限らない
何かで隠しながら運び出すなら、スーツケースだとかで運び出すはずだ…
でも、そうまでして運び出す理由はなんだったの?
ハイリスクを背負う理由は何なのか、分からず眉間のシワが寄って行く
それを見ていた美和子が、私を呼んで怖い顔してますよと茶化して来た



『元々よ、失礼しちゃうわね…』
「清華さんも、やっぱり此処の細工があまりにも不自然だと思ってるんですよね?」
『…えぇ、わざわざこんな小細工する必要ある?』
「必要の無い過度な細工…って事ですか?」
『そうとしか思えない…
それにこんな小細工は、明らかに混乱させる為のものとしか…』



顎に手を当て考え込むと、さらに鑑識のトメさんから興味深い遺留品が出てきたと言った
それを聞いてそこに居た捜査員が、トメさんが持っている袋の中身を凝視する
そこには被害者女性のケータイが入っていた



「被害者女性のものでは無い指紋が付いていました
警視庁に帰って調べなければなりませんが、犯人の物の可能性が…」
「分かりました
他の者は引き続き頼む
終わり次第検視官を呼んでくれ」
『分かりました』



私が敬礼すると隣にいた美和子と私が教育係をしている後輩の笹島も敬礼していた
それを横目に見ながら、現場から去って行く目暮警部は白鳥くんを連れて他の事件現場へと行った



「それにしても…今回の事件少し変ですよね…」
「そうね…
いくら何でも不自然な現場ね」
『…笹島、あんた男なら彼女の誕生日に何贈る?』
「え?突然なんですか?」
『被害者が持ってる高級品が気になってね…』



近付いた棚には、高級腕時計や指輪と言った物が数個見つかる
置物もスワロフスキーを使われた物が数個あった
家具や絨毯は普通の物なのに、置かれている装飾品やアクセサリーが見合っていない物ばかりだった
被害者の服装もメーカー品やブランド物の服装ではないのに、小物がブランド物と言う所を見て、男からの贈り物としか思えなかった
と言う事は、被害者には特定の男が居たとなる
それが何人いるかは分からないけど…
貢いで貰ってまだ間もないのだろうと推理して、まだ出会って一ヶ月から数ヶ月の間だろうかと推測した
それから鑑識の方々が遺留品や証拠品などを車へと積み終えたところで、検視官がやって来た
検視官は念入りに遺体の状態や刺し傷や血の状態などを調べてから、服を脱がして体の状態を調べて行く
防御創が腕の辺りに付いており、体には刺し傷が数カ所あるが一つだけ刺し傷の大きさが違った



「刺し傷の大きさと刺された角度からして、刃渡りは他の刺し傷よりも大きい物ですね」
『?わざわざ凶器を変えたって事ですか?』
「えぇ…
他の刺し傷は同じ物のようですが、凶器をわざわざ変えてるとなると…」
『一人か或いは二人となりますね…』



犯人が一人か二人と推理し、検視官の検視が終わりその結果を電話で目暮警部へと伝える
検視官にお礼を言って会釈してから、美和子と笹島を連れて署に戻る事にした
そして、署に戻って来た私たちに鑑識の指紋の結果を言い渡された
その人物は前科者で、数か月前まで刑務所に入っていた男
荒牧大司は私が前に逮捕した男だ
詐欺罪と殺人罪で、刑務所に入ったけど模範囚として更生したと看守長が前に言っていたことを思い出す
取り調べの際、反省の色なんて全く見えなかった荒牧が、更生したとは到底思えなかった
だけど、こうしてシャバに出て来ていると言う事は、更生されたと見なされ出て来ているのだ
だが、そんな奴が事件と関わるなんておかしい…
更生した人を疑うなんて!と言われるだろうが、あいにいく疑う性分の職業ゆえに荒牧を今の時点では疑う余地なしだ
だけど、仮釈放のはずだから保護観察が暫く付いているはずだが、どうやら所在が分からなくなっているとの事
一刻も早く荒牧を見つけ次第、確保しなければと思い目暮警部が捜査員全員に荒牧の捜索を命じた
笹島に聞き込みに行くか!と背中をバシッと叩く
痛そうにする笹島に男でしょ?とからかいつつ、上着を着ながらデスクを離れてドアへと向かう
笹島は小さく先輩が馬鹿力なんですよとこぼしていたけど、私に付いて来た



『そうですか…
捜査にご協力有難うございました』



荒牧の仕事先だった工場に出向き、面倒を見ていたと言う人物全員に聞き込みをしたが、どの人も今荒牧がどこにいるかは分からないとの事だった
そして、一人聞き込みをしていた中で荒牧から昔の旧友の事を聞いたようで…
その旧友の人物は、荒牧とつるんでいるとは到底思えないような人物が居た



『警視庁長官の息子……』
「なんか怪しいですよね…」
『…刑務所から出た荒牧があんな高価な物を贈れるとは思えないし、保護観察の身だから派手な動きは出来なかったはず…』
「もしかして…その息子の可能性って事ですか?」
『そうかもね…』



そうだと思うのは都合の良い事だと分かりつつも、帳場がもうすぐ建つだろうと思い一度署に戻る事になった






署に戻れば帳場が建てられており、やはり司法解剖の結果が他殺とみなされたのだと分かる
目暮警部を見つけて、戻りましたと報告すると本部で全体の指揮を執る松本警視が、私たちに気付いた
松本警視に敬礼すると、笹島も慌てて敬礼をした



「おぉ、林藤か
相変わらず笹島を振り回してるのか?」
『松本警視…
私そんなに猪突猛進ですか?』
「いや、お前の場合なりふり構わんとこがあるからなぁ…
誰に似たんだかな」



笑ってみせた松本警視に、それはここの部署の人ではなく警察学校で共に過ごした三人がそうさせたのではと思いつつ、苦笑いを浮かべていると本部に戻って来た美和子に続いて伊達も本部へと入って来た
松本警視と目暮警部に気付いた伊達と美和子が、敬礼してから挨拶をした二人は私と笹島へと向く



「どうだったんだ?そっちの聞き込みは…」
『荒牧の所在はまだ掴めなかったけど、怪しい奴が一人ね…』



私の言葉に目暮警部も松本警視も一気に纏う空気が変わる
私は聞き込みをした職場先の知人から得た情報を、警察手帳を取り出して報告する
その報告内容は対して不自然な点はなかった
だけど、一人だけ異例な経歴の持ち主との接点に疑問を持っていた事を伝えて、その人物が警視庁長官のご子息だと伝えると、松本警視も確かに疑問を持ったようだ



「うむ……警視庁長官の息子が積極的に前科者と接点を持つとは思えんが…」
『はい…
伊達たちはどうだったの?』
「俺たちは害者が住んでたマンションの近隣に聞き込みして来たが、どうやら最近出かけてはよく男からプレゼントを貰っていたらしい
害者自身が近隣で会ったおばちゃんに自慢してたみてぇーだ」
『やっぱりあの高級品はそうだったのね…』



そう納得していると、どうやら捜査員全員が集まったのか殆どの席が埋まっていた
目暮警部が捜査会議を始めるぞと言った事で、私たちも席へと着いた







*****





捜査会議が終わり、それぞれにまた聞き込みしていく者でバラバラに散っていく
私は笹島と被害者女性の交友関係からも洗っていこうと考えて、ご両親から話を聞こうと思いご両親の元へと向かう
同じ都内に住んでいるご両親は、今はまだご遺体を渡す事が出来ないが、警察まで来て貰っている
ご両親に会いに行くと、空いてる会議室に通されていたようで母親はすすり泣いていた
そんな母親を慰めている父親を見て、思わず自分の父親と重ねてしまう



自分ももし死ぬ事になれば…あんな風に両親は悲しむんだろうな…



漠然としたそんな思いが駆け巡った
そう思うと目の前の被害者遺族である、ご両親がとても他人事とは思えなかった
伊達にも目暮警部にも感情移入する癖をやめろと言われていたけど、どうしてもこれだけはやめる事が出来なかった
悪い癖だと思いつつ、被害者遺族であるご両親に被害者女性の交友関係を聞く事にした
母親は話せる状態ではなく、代わりに父親が話してくれた
そこから分かった事は、彼女は質素に暮らしていた事や最近彼氏が出来た事で嬉しがっていたという事
友人関係はこじれるような話は聞いていないと言う










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