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あの後降谷は、外に出た途端に安室さんへと戻り胡散臭い笑みを浮かべて、夕飯ご馳走様でしたと言って帰って行った
いつもよりは遅めに起きた今日は、世間では休日になっているはずだ
朝食を食べながら、テレビを付ける
すると、自室の方からスマホが鳴っているのが聞こえた
着信音で電話だと分かり、自室へと入りスマホの画面を見る
画面には知らない番号が映し出されていた
非通知ではないから、公衆電話ではないようだけど…
誰だろうと思いつつ、通話ボタンをタップする




『…もしもし?』
「あ!清華さん?」
『コナンくん?』



そう言えば昨日、彼に私の名刺を渡した事を思い出してそりゃあ知らない番号だと納得する
休日であるコナンくんが、私に何の用だろうかと思っていると、電話の向こうからコナンくんが話すのを待つ



「今日って清華さん、仕事は?」
『今日は休みにさせて貰ったの
ちょっと野暮用でね…』
「…ねぇ、清華さん
僕に事件の捜査資料見せてくれない?」
『!……ダメよ
コナンくんのような子供にはこの事件は…』
「もしかたら大人よりも子供の方が、何か閃くかもしれないでしょう?」




コナンくんの探求心はホントに、悩ませられるものがある
だけど、私が渋っているとコナンくんの傍に誰かが居たのか少し遠くから、コナンくんを呼ぶ声が聞こえて来た
どうやらその人が電話を替わってくれと言ったのか、何も言わずに電話の相手が代わった




「コナンくんなら僕も一緒に行くので、無茶な事も邪魔をさせるつもりもないので、是非事件解決に僕達もお手伝いが出来ればと…」
『あ、貴方は…?』
「コナンくんの…"友達"ですよ」
『……』




コナンくんの事だから、信用のならない人と関係を持つとは思わないけど…
だけど、この少し人を探るような声色に少しだけ萎縮してしまう
手伝ってもらう気なんて、毛頭ないと言うのにこの二人はどうやら私の捜査を手伝いたいと言う
しかも、コナンくんってば…
私が知らない人を巻き込んでまで首を突っ込むつもりだ
コナンくんの探求心は、昨日の一件で身に染みる程に分かった
理解するまで探し求める探求心は、ホント探偵そのものだ




『……はぁー…捜査資料を見るだけですよ
それだけなら良いですよ』
「えぇ、それだけでも十分ですよ
コナンくん、捜査資料だけでも見せてくれるようですよ!」
「本当!わーい!」
『……(ホントに計算高いんだから…)』




電話の向こうから聞こえてくる誰だか知らない人とコナンくんの会話
とりあえず電話口で、話しててもらちが明かない
しかも二人に捜査資料を見せるのであれば、やはり外よりも自宅の方がいろいろと情報の保全的には良い
仕方ないと思いつつ、コナンくんの友達だと言う人に対しては警戒をしておいて正解だろう
近くの大通りのカフェで待ち合わせにして、時間は今から一時間後にした
その間に朝食を食べ終えて、夜の内に干しておいた洗濯物を取り込んで適当に畳んでいく
畳んだ洗濯物をタンスに入れておき、時計を見ればもう三十分経っていた
慌ててラフに見えない服を選んで着替えを済ませてから、メイクをしておく
普段通りのメイクをしてから髪を直して時計を見れば、二十分経っている
どうにか間に合ったと思い、リップを軽く付けてからプライベート用のカバンを持って、スマホを二台入れる
片方はプライベート用でもう片方は仕事用だ
さっきコナンくんから掛かって来たスマホは、仕事用でプライベート用は殆ど家に置いてある
すると、カバンから一枚のメモが落ちた
慌ててそれを拾って、広げて見てみる



…忘れてた
また後からでも良いよね?



メモには安室透と名前が書かれた文字の下に、電話番号が書かれているメモ
彼と再会した帰りに、どさくさに紛れて渡されたメモだ
プライベート用のスマホに後で登録しておこうと思い、着ている上着のポケットに入れた
家から出て、鍵をしてカフェへと向かう




『!!あ、貴方は!!』
「初めまして、沖矢昴と言います」
『じゃなくて!!貴方昨日…』
「えぇ、コナンくんの追跡を阿笠博士と一緒にしていたんですよ」
『……』





そうだったとしても、あの行動は一体なんだと言うのだ
納得の行かない返答に、更に彼への不信感は募る
それを察したのか、話題を変えるようにコナンくんが座るよう促してきた
椅子に座ると、店員が水を運んで来た
店員が離れたのを見てから、コナンくんをジト目で見つめながら口を開く




『それで?知りたがってた事件を知って、一緒に捜査したいなんて…何考えてるのかな?コナンくん』
「い、いや、だって一人で捜査なんて大変だしさ!
それに刑事さんは捜査の時、二人一組なんでしょ?
一人で捜査するなんて危険過ぎると思って…」




最もらしい理由で苦笑いを浮かべて言ってみせたコナンくん
確かに正式な捜査はそう言うものだ
だけど、あくまでもこれは個人的に一般市民が捜査するのであって…
だけど、小さな彼はココまで来てでも捜査に加わりたいのだ
それは多分私にとって踏み入られたくない領域に、不用意に踏み入ってしまった申し訳無さからだろう…
そう推理してから、彼のやりたいようにさせるかとため息を吐く
まだ二人は飲みかけのアイスコーヒーを飲んでいる
さすがに何も飲まないのは、気が引けて私も店員を呼びアイスティーを頼む
僅かに感じた視線に気付いたが、下手に動けば逃げられるし相手が分からなければ動けない
仕方なく知らないフリをした




「ねぇ、清華さん?」
『ん?』
「捜査資料は?」
『さすがに外に持ち出すようなものじゃないから、家にあるわよ
だから、飲み終わったら家に行きましょうか?』
「…良いんですか?」
『?何がですか?』




コナンくんと話していると突然沖矢さんが会話に入って来た
意外そうに言うその表情は、閉じられた瞳では真意はわからないけど、私へと向いた彼の顔は良いのかと問いかけていた




「会って間もない僕を、貴女のように警戒心の強い方が家に上げるなんて…」
『…あら、一応警戒されてるって分かってるんですね?
でも、コナンくんが貴方を連れて来たって事は少なからず、信用は置けるって事なんでしょう?』
「うん!」
『なら、私はコナンくんを信用しますよ…
例え貴方がどんな人でもね』
「ほぉー……度胸の座った方だ」




キラリと眼鏡が反射する沖矢さんに、内心警戒は怠るなと自分に言い聞かせていると、店員がアイスティーを持って来た
それを受け取り、乾いた喉を潤す
コナンくんが連れて来たと言う沖矢さんは、どうも苦手なタイプだ
露骨に探るような言い回しや、態度や視線が少し逃げ腰にさせる




あんまり関わりたくないタイプね…




内心でそう思いながら、アイスティーを飲んでいるとコナンくんが、この険悪な空気を緩和させるために冷や汗を流しながら、もうそろそろ行かない?と提案して来た
半分くらい飲み終えていたから、頷いてカバンを持つとレシートを二枚分パッと先に取られてしまった
沖矢さんを見れば彼も、上着を着て椅子から立ち上がっていて、その手にはレシート二枚収まっていた




『あ、あの…』
「こう言う所は男に奢らせて下さい
それじゃあ、コナンくん先に清華さんを連れて店先で待っていてくれますか?」
「う、うん!
清華さん行こう!」
『うん…』




何がしたいのかイマイチ読めない彼に、視線を送りながらもコナンくんが私の手を引いて店を出て行く
そんな私たちの背中を怪しく微笑んで見つめている沖矢さんに、私は気付かなかった…





沖矢さんとコナンくんを連れて、沖矢さんの車で自宅であるアパートへと向かう
アパートの近くにある駐車場に停めて貰って、アパートの階段を上がり、鍵を解錠して中へと招き入れる
靴を脱いでリビングへと通して、二人にソファーに座ってて下さいと言ってから、キッチンへと入り冷蔵庫の中に入れてあったお茶をグラスに注いで、三つグラスを持ってリビングへと戻る
テーブルにグラスを置くと、二人から小さくお礼が返ってきた




『待ってて、捜査資料のコピー持ってくるから』
「うん、ありがとう!」





隣の寝室へのドアを開けてから、少し気になっていた事を確認する
レースカーテンを少し開けて、外の様子を少しだけ確認するけど、そこには誰もいない
カフェで感じた視線はなんだったのだろうと、思っていると突然後ろから声が聞こえた




「貴方も感じていたようですね…」
『!!…えぇ……(この人も気配無く近付いて来るタイプなの?!)』




あまりの驚きに心臓がバクバクと言っていた事を悟られないように、平静を装うが内心降谷と同じタイプなの?!と怒っていた
カフェで僅かに感じられた視線
あれは捜査と言う話題が出てからだ
その話題が出た途端に視線を強く感じた
気にすれば相手に気付かれるから、泳がせておけば良いと思って気にはしなかったけど…
沖矢さんも感じていたと言う事は、少なからず私の気のせいではないのだろう




『ところで、沖矢さん?』
「?はい?」
『ここ、私の寝室なんであんまり男性に入って頂きたくないんですが?』
「これは失礼しました」




申し訳なさそうに眉を寄せて謝った彼は、部屋から退室していった
もう一度窓の外を見てから、レースカーテンを閉める




あの分かりにくい位置と言い、尾行してる事も分かりずらい距離感や視線…
あれは一般人ではないはず…




そう結論付けながら、本棚にある捜査資料のコピーのファイルを取り出す
もうあれから四年経っているせいか、ファイルは少し色褪せている
ファイルは六冊あり、その六冊を抱えてリビングに戻る




『はい、これが捜査資料のコピーよ』
「ありがとう!」
「それじゃあ、僕も拝見させて貰います」




そう言って真剣な表情でファイルを見る二人
どう考えたって作為的な捜査資料に、違和感しかないはずなのに…
犯人だって分かっているはずなのに、それを裏付ける証拠もなければ物証もない




君には……どう見えるのかしら?




コナンくんを見つめて、彼に縋ってしまう自分がいた…
彼なら……もしかしたらと希望を彼に重ねていた










end
"過去は綺麗なままに"編
イメージ曲…大事なものは目蓋の裏
歌手…KOKIA

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