3

□10
1ページ/1ページ

『ふぅー…』
「お疲れ様です」




警察の事情聴取が終わり、後日また警視庁でとの事になった
時計を見ればもう10時を過ぎていた
子供のコナンくんをこんな時間まで外出させるわけにはいかないと、早々に切り上げてくれたんだけど…
パトカーで送って行くと言ってくれたけど、さすがにそれは勘弁してほしいとお願いした
安室さんが家まで送ってくれる事になり、二人で家に向かっている
やっと警察から解放されたと言う気持ちで、思わず脱力する
そんな私を見て、苦笑いを浮かべつつ労いの言葉を掛けてくれた安室さん




『安室さん…あんな派手に車を壊されましたけど…良かったんですか?』
「えぇ、人命がかかってたんですから
車なんて二の次ですよ!」
『…そ、そうですか(相変わらず無鉄砲なとこも変わらないわね…)』




手段を選ばないとこは昔からだったけど、まさかそれに巻き込まれるとは思わなかった
暗い夜道の中、隣を歩く安室さんを横目に見つめる




「?どうしました?」
『……いえ、何も』




さっき車の中で抱き寄せられた事を思い出してしまった
しかも、耳元で囁かれるわで警護職に就いてからは男性との交際自体しなくなってしまった私としては、久々に異性に抱きしめられた事にどぎまぎするのも当たり前
学生かと内心ツッコミを入れつつ、安室さんに抱きしめられた感触だとか綺麗な指をしているのに、男らしく大きくて少し皮膚が固いんだとか意外に体つきが良いんだとか思い出してから、そう気付いてしまい尚更気まずい





「結構遅い時間になってしまいましたけど、明日は定時からのお仕事ですか?」
『あ、いえ
明日は休みにしてあるんです』
「?何か予定でも?」
『いえ、野暮用で…』
「…そうですか
でも、仕事じゃないのならいつもよりはゆっくりと寝られますね!」





安室さんの言葉に頷きながらも、明日はあの事件について独自に捜査をしようと思っていたところだ
それを察したのか、私の様子が変わったのか安室さんは少し私の顔を見つめてから、微笑みながら答えてくれた
浦川さんに感化されてではなく、元々明日は事件現場に赴いてまた一から洗いなおそうと思っていたのだ





それからも安室さんとは、当たり障りのない会話をしていれば自宅のアパートへと着いた
自分の部屋を見上げて違和感を覚えた





『え…?』
「?どうしました?」
『…部屋に電気が着いてる』
「!…」





安室さんも驚いたように部屋を見上げた
何度見ても部屋の電気が着いており、それは明らかに誰かが居たと言う事を物語っている
現在進行形でその何者かが居るのかは分からないけど…
でも、お母さんかもしれないと考えが過り、安室さんに伝えようとすると私の口元を人差し指を当てて黙ってとジェスチャーで伝えて来た





また変なスイッチ入れちゃった…





そう思いつつも、とりあえず部屋に入るまでは安室さんに一緒に居てもらった方が助かる
安室さんから鍵を渡してくれと言われて、鍵を渡して階段を静かに二人で上がっていく
あんな事件があっての事だから、尚更過敏になるべきなのかと思いつつ安室さんの後ろを着いて行く
ドアの目の前までやって来て、中の音を確かめるけど物音や気配は一切してこない
安室さんはそのまま鍵をさして、解錠するとドアを開けた





「…僕が入って確認しようと思いますけど、良いですか?」
『え、えぇ…』





つい最近部屋の片づけをしたばかりだから、内心ホッとしつつも安室さんの言葉に頷く
ドアを僅かに開けて、中の様子を伺った安室さんは足音をわざと響かせたかのように部屋の中へと入って行く
続いて私も入って行き、リビングにやって来た私と安室さんはさらに全室回っても良いかと聞いてきた
手には盗聴発見器を出していた彼を見て、やはりそっちを疑っていたかと思いながら頷く




「それじゃあ清華さんは…」
『音楽を流して部屋の中央に居てくれ、ですよね?』
「えぇ、お願いします」




スマホを取り出して、音楽を大音量で流しながら発見器で盗聴器がないか探した
だけど、10分ほど時間をかけて全室回ったけど盗聴器は発見されなかった
やはり、お母さんの付け忘れだろうと思いそれを伝えると安室さんは大きく溜息を吐いた
寝室とリビングのカーテンを閉めて、リビングに戻るとソファーに座っている安室さんこと降谷が居た





『盗聴器にはかなり過敏ね…』
「…当たり前だ
今潜入してる奴らはそうそう互いに信用するような奴らじゃないからな…
清華が俺の同期だって知られれば、今までしてきた事が全て水の泡になる」
『…そう
なら、私も気を付けるわ』




少し疲れたような顔をした彼に何か飲み物でもと思い、キッチンへと入り何か飲む?と聞けばあぁと答えた降谷
コーヒーメーカーに挽いた豆をセットして電源を入れて、コーヒーが抽出されるのを待っている間に二つのマグカップを用意する
私のマグカップに砂糖とミルクを入れて、降谷の方にはミルクだけを入れてコーヒーが出来上がり、マグカップに注ぐ
二つのマグカップを持って、キッチンを出てリビングのテーブルに二つのマグカップを置く




「…おい、ミルクは……」
『ブラックなのは知ってるけど、まだ夕飯食べてないんだからミルク入れておいたわ
ブラックばっかだと胃が荒れるわよ?』
「はぁー…それもそうだな」




溜息を吐いてマグカップへと手を伸ばした
コーヒーを口へと運んで、飲む降谷を眺めつつ自分もマグカップに口を付ける
すると、私の視線に気付いた降谷は私へと視線を向けて来た




「なんだ?」
『なんだか、降谷が私の家にいるのが信じられないと思って…』
「…フッ、さっきまであんだけ傍に居たのに何言ってるんだ?」
『あ、あれは不可抗力よ!
しかも、あれは降谷がやった事でしょ!』




車の中での事は、降谷がやった事だ
あくまでも私が望んでやった事ではない
悪戯に微笑んで私を見つめる降谷に反論すると、やっぱり楽しそうに微笑んでいるだけ
私が焦れば焦るほど降谷は楽しそうにするもんだから、私は尚更機嫌が悪くなる
時計を見れば結構な時間だから、お腹もかなり減っている




『降谷は夕飯どうする?』
「あー…家に帰ってから作るのもなぁ…」
『じゃあ、何か食べて行く?
と言っても、今日買い物行ってないから良い物出せないけど…』
「…じゃあ、お言葉に甘えさせて貰おうかな」
『じゃあ、ちょっと待ってて』




コーヒーを半分くらい飲んでから、キッチンへと入って冷蔵庫を開けて中身を確認する
うーん、ホント適当なパスタくらいしか出来ないなぁと思いながら、材料をかき集めてトマトベースのパスタなら出来るだろうと言う事になった
付け合わせで、有名店のレトルトのスープを温めながらトマトベースのソースを作っていく









出来た料理を皿に盛り合わせて、リビングのテーブルに持っていくと降谷は居らず、私の部屋に繋がるドアが開いていた
詮索好きな降谷の性格からして、私が一番大事にしている物は自室に隠すだろうと踏んでいたのだろう
料理を運び終えてから、自室へと向かうとやはり私の部屋にある捜査資料のコピーを読んでいた
わざとドアをノックすると、私へと振り返った降谷




『勝手に見ないでよ』
「…明日、この事件を調べるのか?」
『…はぁー……えぇ、もう一度調べておかないとね
真実が分からないままだから…』
「…この前は知らない方が良いって言ってたのは、どこの誰だったかな?」
『さぁ?そんな弱音を吐いた奴なんて知らないわよ…
ほら、ご飯が冷める!」




そう言って降谷に背を向けて、リビングへと戻り料理が並べられた位置へとそれぞれ座布団を敷いて座る
降谷も戻って来て、座布団が敷かれた位置に座ったのを見て頂きますと手を合わせた
それに倣って降谷も手を合わせてから、食べ始める




「ところで、あの女子高生の子とはどんな関係なんだ?」
『え?世良ちゃん?』




突然聞いてきた降谷に、首を傾げて思わず聞き返す
降谷はそれに頷いて、どうやら女子高生探偵であるあの子の事が気になったようだ




『あの子とは、たまたま身辺警護している最中にクライアントがひったくりにあったのよ
それで、その時にたまたま居合わせた世良ちゃんがそのひったくり犯を捕まえてくれたってわけ!』
「…クライアントに着いていながらひったくられたのか?」
『あのね…!
ひったくり犯はバイクに乗っていて、クライアントは歩いていたんだから必然的に私も歩きだったのよ!
たくっ…ホント、嫌味なとこ変わってないんだから…』





嫌味が次々と出てくる降谷にムカッとしながらも、パスタをフォークで巻き取り食べて行く
ちょうど良い味の加減に、今日は成功したかなと思い降谷を見るとどうやら世良ちゃんの事が気になるようで…
今回の潜入で世良ちゃんの事も何か関係してるのかと思いつつ、降谷からの言葉を待った





「それにしても、随分と世良って言う女子高生は清華の事を気に入っていたみたいだが…」
『あー…そのひったくり犯を捕まえる時派手にやり合ってね…』
「派手にって……お前、また無茶したのか?」
『あ、あはは…』





ひったくり犯を捕まえる際に、世良ちゃんが加勢してくれた事で足止めが出来たんだけど、まさかその犯人がナイフを持っているとは思わなかったから、世良ちゃんが間合いを取りながら応戦していたところを、後ろからならと思って相手の死角を突いて飛びかかった
だけど、気付かれてしまって振り向きざまにナイフを向けてきた犯人
それを交わさずに突っ込んで行くと、腕にナイフが擦りながらもナイフを持った腕を掴んで顎を突きあげて、一瞬でも意識を反らさせてから背負い投げをかまして犯人を確保した
そのところを世良ちゃんはずっと傍で見ていた
腕にそのナイフの切り傷を負った私を肝が座っていると気に入ったのか、それ以降はあーやって連絡してくれとか遊ぼうと誘われるしまつ
年下だし邪険には出来ないし、慕ってくれているから嫌いにはなれないしで…
対応にどうしたら良いか困ってはいるけど…




苦笑いをこぼしている私を降谷は、呆れたような眼差しを向けて来た
すると、手を伸ばして来た降谷が私の頬に触れた
触れた場所を親指で擦ってその親指を私に見せながら口を開いた




「大人ぶるのは良いが、食べ方も大人らしく振舞わないとな…」




そう言って、親指に付いたトマトソースを舐めた
それを目の前でやってのける彼に、ただ顔を赤くする事しか出来ないでいた
子供っぽいところしか見せていない自分に、どれだけ気を許しているのかが伺えて熱い顔を抑えてそっぽを向く
どれだけ恥ずかしいところを見せているのかと、内心自分に対して何してんだよ!とツッコミを入れるけど、降谷はしたり顔で微笑んでいた





『ホント……降谷には敵わないのが腹立つ…』
「フッ…それで良いんじゃないか?」



楽しそうに微笑む降谷に、ただ惑わされている自分が恥ずかしくて夕飯の最中降谷を見る事が出来なかった














end

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ