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結局あの後、蘭ちゃんが気を遣って警察以外の話題を振ってくれた
それが申し訳なかったけど、どうもコナンくんの探求心は心臓に悪い
そろそろお開きにしようかと言う事で、会計を別々にしてもらっていると安室さんが近付いてきた




「清華さん、せっかくなんで家まで送っていきましょうか?
僕、もう上がる時間帯なんで」
『え…でも』
「それならこの毛利小五「安室さん、お願いしても良いですか!」
「ら、蘭!なんだよ、急に!」




突然割って入って来た蘭ちゃんに不満そうな顔をして、蘭ちゃんを睨んでいる毛利さん
蘭ちゃんとしては、確かに母親以外の女と一緒に居てほしくないと思うよね…
それが分からないようで、毛利さんは不服そうに蘭ちゃんに文句を言う
その二人をコナンくんは、呆れながらも見つめていた





「車で来てるんで、家までお送りしますよ?
外はもう真っ暗ですし…」
『…じゃあ、お願いします』





私が承諾する声が聞こえたようで、毛利さんは安室さんに注意していた
家までだからな!とか言っていたけど、送り狼になるには初対面ではまずないだろうと内心呆れる
合コンとかでも最近はないと言うのに…と、最近の若者ニュースをテレビで、仕入れた知識を引き出しながら内心で苦笑いを浮かべる
だが、そんな事を言う毛利さんが少しだけ自分の父親に似ていて思わず毛利さんを見つめる
外見は違えど、娘を思う良い父親なところは自分の父親とそっくりだ




「じゃあ、安室さん
清華さんの事お願いします!
清華さん、また!」
『うん、またね蘭ちゃん!』
「…清華さんバイバイ!」
『うん、コナンくんもまたね!』
「清華さん!何かあった時は、ここにご一報を!
安室が何かしでかした時は「お父さん!」
「な、なんだよ!蘭、引っ張るな!」




コナンくんの目線に合わせてかがんでから手を振る
毛利さんは私に名刺を渡しながら安室さんに釘を刺しているようだが、それはいらない心配だと思っていると、蘭ちゃんが慌てて止めに入ってそのまま毛利さんを引きずって行った
蘭ちゃんにまた手を振りながら、またねと言えば蘭ちゃんも会釈して微笑んでくれた
コナンくんもまた手を振ってくれたから、コナンくんにもじゃあねと言って手を振る
先に店を出て行った毛利さんたちを見送ってから、安室さんが梓ちゃんにお先に失礼しますと言ってカウンターの奥から、エプロンを外してやって来た安室さん
私にじゃあ行きましょうかと微笑んで、ドアを開けて先に出るように促してくれた
梓ちゃんにじゃあねと言って店を出る
駐車場に向かう間、私と安室さんは隣を歩いているというのに無言だった




「僕の車です
どうぞ?」
『有難うございます』




駐車場に着いて、助手席のドアを開けてくれた安室さんにお礼を言って、助手席へと座る
ドアを閉めてくれた安室さんは、運転席へと周り乗り込むとキーをさした
エンジンをかけてギアとハンドルに手を掛けて、クラッチを踏んでギアを動かしアクセルを踏み、踏んでいたクラッチを徐々に上げて行く
発進し始めて、外の景色を眺めながら、完全に密室になった空間で私は軽く溜息を吐いた




「…元気にしてたのか?」
『……それはこっちのセリフよ』
「すまない…」
『でも、話せないのは知ってるから良いわ』
「……まだあの事件追ってるのか?」
『……もう追わない方が、良いのかもね…
真実を知れば…またあの時みたいに犯人に発砲しかねないから…』
「……」




そう私が警察を辞める事になったのは、ある事件のせいで自分の父親が殺されてしまった
その犯人は現行犯で捕まえたのだが、その時に私は思わず感情の制御が効かずに取り押さえられている犯人に向かって、発砲してしまったのだ
目暮警部は私をかばって威嚇射撃だと上に言ってくれた
だけど、私は自分のした事は警察官としてあるまじき行動だと思い、辞職をした
現場にいた美和子たちはどうにか引き留めようとしてくれたが、私情を挟んだ私は警察官ではなくただの犯罪者に成り代わったに違いない
裁判沙汰になることはなかったから、犯罪者と言う扱いにはならなかったけど…





『血の気が多いのはホント疲れる…』
「…会って、そうそうに弱音か?」
『それを言えるのがアンタしかいないんだから、良いじゃない…』
「…ちょっと遠回りで良いか?」
『どうせそのつもりだったんでしょう?
私に道を聞かずに発進したって事は、私といつか接触するのを見越して調べてたんじゃないの?』
「あぁ…」






そう言って、街中を走りながら道沿いを歩く人々を眺めてから、降谷へと視線を向ける
今更になって初めて降谷の車の助手席に座ったと思う
松田が隣に座っていたイメージが強くて、私と伊達がいつも後部座席に座っていたなと思い出す





『やっぱり変わってないわね…』
「?何がだ?」
『うーん、童顔なとことか猫かぶりなとこ』
「それはお前も一緒だろう
毛利探偵たちには随分優しいお姉さんを気取っていたが…」
『気取ってたんじゃなくて、あれが私の優しいところなのよ!
失礼な奴ね…』





口を開けば人の痛いとこを突く
心配の裏返しでそんな態度を取っているのだと知っている
いつだったか、そのことで降谷と大喧嘩して一週間程口も眼も合わさなかった時があったなと思い出す
降谷は人の気持ちを察しやすい人だからこそ、憎まれ口をたたいて勇気づけようとする
それに気付かされたのは、松田のおかげだったんだけど…




『……何をしてるか知らないけど、自分の事は大切にしてよ
私とアンタしか居ないんだから…』
「…あぁ、分かってる
お前を置いて行かないとアイツらに誓ったんだ
それに…」
『…?』





突然話を切って、赤信号で車が止まった
なんだと思い降谷へと向けば、彼も私へと向いてさっきまでの貼り付けたような笑みではなく、警察学校から知っている彼の笑顔がそこにあった




「もうお前を泣かせるわけにはいかないからな…」
『……そんなに泣き虫じゃない』
「最後の電話の時も泣きそうになってただろう?」




言い負かされている感じが嫌で、視線をまた窓の外に向けながら返せば降谷は一年前の事を引っ張り出してきた
あれは松田の命日だったからでと言い返したいが、それも多分降谷にとっては想定内の返しなのだろう
なんだかそれがムカついて、言い返そうにもどれもお子様臭いと思いぐうの音も出ない
それが分かったのか、降谷が笑いを小さくこぼしていた
また車は動き出し、遠回りしていた道から私の家へと向かっているようだ





『泣きそうになってんじゃなくて、風邪引いてただけだから』
「はいはい、それで良いよ」
『……なんで私が言い訳しなきゃいけないわけ…』
「恥ずかしがり屋だからだろう?」
『……』





ジト目で睨んでも面白そうに笑っているだけで、正直私が不服だ
からかわれているのが腹立つのに、降谷のこんな風に笑っている顔を見たのが警察学校を卒業した以来で、そのせいか何も言い返せないでいた
警察学校を卒業と同時に、彼は公安に入ったから卒業後に彼とまともに会えたのは、私の父親の葬式だった
その時は軽く言葉を交わす程度で、降谷はすぐに帰ってしまったけど、それでも会いに来てくれただけでも嬉しかった事を覚えている





「…ここで良いか?」
『あ、うん』




さすがに私の家の前だと、潜入捜査している彼について身バレしかねない
その潜入しているっていうのが、どこの組織なのかは分からないけど…
大きい通りにあるロータリーに入って止まった
ドアを開けて、外へと出る
ドアを閉める前に助手席のシートに手を置いて車内を覗き込んで降谷へと声を掛ける




『有難うございました、"安室さん"
またサンドイッチ食べに行きますね!』
「えぇ、いつでも来て下さい!
お待ちしてます!」
『それじゃあ、おやすみなさい!』
「あ、清華さん!!」




そう言ってドアを閉めようと助手席のシートから手を離そうとした私の手を、運転席から身を乗り出して掴んできた安室さん
それに驚きつつも、掴まれたその手の中に何かが入っていて、瞬時にそれが何か書かれているメモだと分かりそれをこっそりと掴んで、もう一度車内を覗く




『どうしました?』
「いいえ…
それじゃあ、おやすみなさい清華さん」
『…はい、おやすみなさい』




今度こそドアを閉めて、安室さんの車を見送る
ウィンカーを出して車道へと入って、すぐに車の陰に隠れてしまった
手の中にあるメモをズボンのポケットに忍ばせながら、スマホをそのポケットから取り出す




もしかしたら、付けられてた…?




そう疑問に思いながらも、家へと向かった
















end


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