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『……』





結局来てしまった
昼過ぎに目が覚めた私は、夕方近くに墓地にやって来た
スマホにあんなメールが入っていたら、私が来ないわけにはいかない





"俺の代わりに松田に会いに行ってくれ"






花束がさしてあるところを見て、美和子のものだろうと予想が着いた
グラサンでも供えてやろうかと思ったけど、お気に入りのしか掛けなかったアイツの性格からして、お前が掛けろよって言われそうだ
何を供えるか考えたけど、私が好きだった酒のバーボンを、持ってきた小さなコップに注いで墓前に供えた





『……松田、私…今の自分が間違ってるのか分からないよ…
アンタなら、もっと警察の中であがいただろうけど……』






感情的に暴走した私を伊達が止めてくれた事で、怪我人は出なったが目暮警部や伊達たちには大きな迷惑をかけてしまった…




一人松田に語り掛ける
あの事件以降、警察を辞めた私のために伊達は事件の真相を追及してくれていたのに…
伊達まで亡くなってしまった
あの事件は相当根深い何かが絡んでいると思っていたけど、捜査権なんて一市民にあるわけもなく…
捜査資料のコピーをこっそりと家に置いてあったから、あの事件の詳しい事は今でも調べられるが…
そんな考えにふけって俯いていた私の耳に、聞こえて来た着信音
この音は電話の着信音だと気付き、慌ててカバンの中を漁りスマホを取り出す
画面を見て思わず目を見開いた






"降谷零"






毎年この日にしか連絡を寄越さない彼
まだ生きてると思うと、目頭の奥が熱く感じた
滲みそうになる視界が瞬きをするとちゃんと見えてくるようになった
通話ボタンをタップして、スマホを耳に当てる





『……』
「…清華」
『……久しぶり』
「あぁ……
相変わらず泣きそうな顔をするんだな」
『!……見てるなんて趣味悪いんじゃない?
しかも、来れないみたいなメール寄越しておいて…』





降谷の言葉で、周辺にいるのだと分かった
周りをきょろきょろとしても見つからない
多分、私に気遣ってそうしてくれているのか電話の彼は、労わるような優しい声だった
久しぶりに聞いた声に安堵した私は、目の前の松田に微笑みながら内心有難うと礼を言う
降谷に会わせてくれた松田に、感謝しつつ電話の彼が口を開いた





「まだ…あの事件追ってるのか?」
『……追ってるわよ
一市民で出来る限りのところまではね…』
「…無茶をするなと言っても、お前はやめないからな……
俺を置いて死ぬなよ?」
『…それはこっちのセリフ
死んだら、追いかけてぶっ飛ばしてあげるから』





松田の時のように…
そう内心で呟きながら、バーボンのビンを墓前に置いて、しゃがんでいた態勢から立ち上がり地面に置いていたカバンを肩に掛けた





「松田のように平手打ちはしないでくれよ?」
『止めに来た伊達のせいで、平手打見舞ってやれなかったから未遂でしょ?』
「あぁ、伊達に感謝してるけどな
死んでまで…アイツを殴るなんてお前らしいが……」





昔を思い出す私と降谷
同期の私達はそれぞれ、目指す部署は違えど警察学校では少し有名だった
派手と言うよりも、個性的過ぎてまとめるのがいつも私だった
そんな思い出に浸りながら、降谷が言っていた言葉に疑問を持つ






『なんでも見てたってわけね…
それで?私を見守ってくれてるのはなんで?』
「……今はお前と直接会えない」
『……そう
じゃあ、この電話ももう繋がらなくなるって事?』
「……あぁ」





何となく予想は着いていたけど、いざ言われると本当に危ない事に首を突っ込んでいるのだと分かった
そうとだけ返してから、またいつ彼に会えるか分からない事を考えたら、不安しか生まれてこなかった
スマホを掴む手に力が入った
視線はまた地面を見つめていた





『……無理しないでよ』
「…あぁ
清華、お前も無理はするなよ?」
『うん…』
「…それじゃあな」
『…じゃあね』






これ以上足止めをすれば、彼の仕事の支障になる
そう思って、降谷が別れを告げると私もまた会おうという意味を込めて言う
スマホからは通話終了の音が流れた
通話終了のボタンをタップして、周りを見回すと自分が居る通りの遠くに金色の髪の彼の後姿が見えた






『……バカ降谷…』






いつもそうだ
直接会えなくても、毎年この日だけは私を遠くから見守ってから、直接会わずに去っていく
どれだけこっちが心配しても、彼の仕事を考えると難しい
見えなくなるまで見送ってから、松田にまた来るねと微笑んで言ってから立ち去る
ここだけが今の私には彼と関わる事を許された場所だった…






もう声も聞けないのかもしれない…






そう思うと帰る足取りは重かった
これは一年前の話…
まさか、彼と再会する時がやってくるなんて、このときの私は思わなかった…

















end


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