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あれから男の身柄を警察に渡して、私と依頼主である凛華さんの事情聴取をされた
ストーカー被害として、被害届を出すとの事で家の中に仕掛けられたであろうカメラの存在や盗聴器が、証拠として押収されて行った
押収品に男の指紋が着いていないか確認出来次第、男を家宅侵入罪として逮捕する事が出来ると話していた
警察署から出るとすっかり深夜になっていた
残業代出るかなと不安になりながらも、依頼主の凛華さんが無事で良かったと思う
凛華さんは警察が家まで送ってくれるとの事だった
それに安堵しながら、肩を回して硬くなっていた筋肉をほぐして歩いていると、私の隣に止まった車が一台
その車はよく見慣れた車だった



「清華さん、こんな時間に1人でどうしたんですか?」
『安室さん…!』



突然の登場に驚いていると安室さんに送って行くと言われて、それに甘える事にした
助手席に座った私を確認すると、ゆっくりと走り出した車
走り出した車内で、どちらも喋らない時間が数秒流れたと思えば安室さんこと降谷が口を開いた



「金髪の女に何か渡されただろう?」
『!なんで、それを…』
「本人からお前に何かを渡したと聞いた…
中身が何かは教えてはくれなかったが…」
『…SDカードだと思うけど……それが何のSDカードかは…』



そのSDカードが入っているであろう紙袋をカバンから取り出すと、隣から伸びて来た手に紙袋は取られてしまった
声を上げるけど、降谷はこれ以上首を突っ込むなと私に言い聞かせる



「これは公安で調べる
あの女から渡された物は必ず俺に渡すんだ、良いな?」
『…その中身が分かったら、報告してくれるなら』
「……」
『報告してくれないなら渡せない
返して』
「お前な…
報告するしないの話じゃないだろう」



呆れたように声を上げる降谷
そんな降谷の言葉を理解はしているが、私に渡された中身が何なのか気になるのが本音だ
彼女が私に渡すと言う事は、私に関連する何かだとは分かる
すると、赤信号で止まると降谷がハンドルに片手を置いたまま私へと向いた



「警察として言う…
協力はしてもらうが、情報提供はしない
分かったな?」
『……』
「…清華」
『分かったわよ…』



眉間にシワを寄せて降谷を見つめていたけど、答えを促す降谷に拗ねたような口調で返してから、顔を逸らして窓の外へと視線を向ける
テニスウェアを着ている所を見て、何処かに出掛けていた帰りなのだろう
出先から帰って来て、疲れているはずなのに私を送り届けてくれる彼の優しさに気付きながらも、追求しなければ気が済まない性分と素直になれない性格が、ついつい降谷に対して当たってしまう
そんな私にそれ以上何も言わず、車を走らせる降谷
車窓の景色を眺めながら、自分の気持ちを落ち着ける
それから数十分で家の前に着いて、お礼を言って降りようとした私の腕を引かれて、また助手席へと戻った私の後頭部に手が回された



「またあの女と接触したら必ず俺に報告しろ
良いな?報告をしなかった場合は、お前を公安の元で保護する
それだけは肝に銘じておけ」
『…分かってるってば』
「良い子だ」



拗ねたように返した私に、降谷はそう言うと微笑んで私の頭を撫でた
その笑みを間近に見てしまったから、思わず瞬きをして降谷を見つめる
さっきまで拗ねていた気持ちが、間近で微笑んだ降谷の表情にどうして微笑んだのか分からず、首を傾げる私
そんな私を見ていた降谷は、おかしそうに笑いを溢すとまた頭を撫でて、髪をグチャグチャに掻き乱して来たから、思わず目を瞑る
すると、額に何かが触れたような感覚がしたかと思うと、チュッと音がした
それが何なのか分からず、瞬きをして降谷を見上げるとそこには眉をハの字にしながらも、仕方なさそうに微笑んでいる降谷がいるだけ
彼を見上げても何も言わないまま私を見つめるだけだった



「…危険な事はするなよ」
『…降谷?』
「ん?」
『い、今…』
「あぁ、隙だらけだったからな
それに拗ねるとこが昔と変わらないと思ったら、おかしくてな…」
『おかしくてなって…』



また思い出し笑いのように笑う降谷に、私は思わず額を抑えて少し頬が熱くなる
まさか、額にキスをされるとは思わなかった自分としては、なんで今なのと言う疑問が生まれた
さっきまで言うことを聞かなかった私に、言い聞かせていたのに…
降谷を改めて見ると、安心したように私の頭を撫でている
そんな表情を見たら、それ以上に何も言えなくなってしまった



彼女からなんて聞いたんだろう…



そう思いながらも、降谷にそれを聞いたらまた怒られてしまうだろうなと思い聞かないでおく



『…怒ってた人がするような事じゃないでしょ』
「怒りもするだろう
お前を守るために言ってるんだからな」
『……』
「でも、お前には無理をさせてるのは分かってるつもりだ
それに……俺達の事もな」
『!……』



守るために怒ってくれるのは、昔と変わらないと思いながらも、最後の言葉に思わず驚いて降谷を見つめた
だけど、降谷は焦るわけでも戸惑うわけでもなく、真っ直ぐに私を見つめていた



「…あの女は安室としてお前と付き合ってる事を知っていた」
『……』
「お前には危険な事に付き合わせてるとは思ってる…
そのお礼だと思ってくれ」



降谷の言葉に思わず期待しそうになった自分が居た
まさか、私達の関係だろうかと思ったけど、どうやら"安室さんと私"の関係についての事だったようだ
それに内心ガッカリする自分が居る事に驚いたけど、態度に出さないように顔を逸らして口を開く



『何それ…
随分と自分に自信があるのね』
「フッ…それはよく理解してるだろう?」
『ええ、理解したくないくらいにね』



不機嫌そうに返せば降谷は、また笑いを溢す
隠す事のない素の表情に、心音が僅かに煩く鳴っている事に気付きつつも、降谷を見つめているとこちらに向いた視線
そんな彼から視線を外して適当な理由を付けてから、車を出ようと考えて口を開く



『送ってくれて、ありがとう
もう行くわね』
「清華?」



車から出る私を呼ぶ
その声に反応せずに車から出て、ドアを閉めると車の窓が下がる



「照れるような関係じゃないのに…可愛い人ですね」
『!……安室さんってホントいい性格してますよね』



そう軽く睨みながらも、熱い頬を見られたくなくてすぐにそっぽを向いて、それじゃあと声を掛けてアパートの階段を上って行く
その間ずっと降谷は、車から見送っていた
振り返るとハンドルに手を置いて、頬杖をして運転席から私を見上げている降谷と視線が合った
すると、手を振った降谷は優しく微笑んで居て、そんな事が恥ずかしいような幸せのような…
そんな気持ちに満たされながら、軽く手を振ってドアの鍵を開けて家の中へと入った



ホント…調子狂うからやめて欲しい……







*******




side降谷




車の中で清華を見送り、家の中へと入った清華を確認してから、大きなため息を吐いて顔を片手で覆う



自分でした事とは言え、間近に居た清華に思わずキスをしたい衝動が駆られてしまった
なんとか唇は避けられたが…
この前、タクシーの中であんな話をしたせいだな…



自制出来なかった自分に、呆れるが照れ隠ししていたのは清華ではなく、自分の方だと思う
清華は気付いていなかったようで、それには救われた
緩んだ頬で笑みを浮かべて、殆ど素の状態に近い気がした
触れられる嬉しさや傍に居る安心感で、ベルモットから連絡が来た時の焦りや不安が一気に消えた
清華の前では確かに降谷零として接する事が出来る、唯一の心の拠り所に近い存在だ
だが、それでも好きな女だからこそ自制出来ない所なんて、見せたくもなければ万が一傷付けるような事があれば俺は、自分が許せないと思うだろう
そんな考えを巡らせながら、また一つため息を吐いてから車を発進させる



「…相変わらず照れ隠しは下手だな、アイツも俺も……」



そう1人車内でこぼすと、小さく笑いが漏れた



今度は"安室透"として、デートでも誘ってみるか…
どんな反応をするのか楽しみだ



内心でどんな反応が返って来るのか考えては、頬が緩むのを感じていた





end
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