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□飛翔価値
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私を抱えて、グレルさんが飛んでいる。
イギリスの気候は今日も不安定で寒く日本は今ちょうど春なのだと思うのと同時に

さて、どうしてこうなったのかしらと首を傾げていた。




グレル・サトクリフは勝手な男(?)だ。

ほとんどの場合において全く人の話は聞かないし反論をしようものなら実力手段で封じられるし、何よりわがままだった。

そんな彼も一応は死神と言う身分であり、(だからこそ余計に質が悪い気もするが)
例え週5回のペースで自宅療養をしても、
例え週6回の頻度でウィリアムに殴られても、

例え週7回の割合で仕事をサボりどこかに行ってしまっても、
例え週8回懲りずに始末書を書かされても、役に立ちさえすれば職務を首にはならないのだという。


それを聞くと、役に立たない天才よりも真面目な凡人の方が、
よっぽど職場にとってありがたいのではないかというツッコミを入れたくなるがまあそれはともかく、である。



グレルはこの前から外回りに行っていた。早い話が出張である。ロンドンにいたという。

だから一週間は帰らない筈だったのだが、彼が出かけて4日目の夜、


気付くと私は空を飛んでいた。

高いところから落ちたのだろうか。
いや今日はきちんとベットに入って眠っていた筈だ。
だから夢遊病でもない限りは建物の上から落ちたりはしない。
しかし、まあ、原点にかえってみると、私は翼も空中浮遊の能力もないので空を飛ぶことは出来なくて、
もっと普通に考えると落ちることは出来ても水平に飛ぶことは出来ないわけで、
結論からいうと私が空をとんでいる、というか屋根から屋根へと飛び移っている
この状況は誰かの手によって行われているのだ。
そんな常識的な結論に行きつくのに時間がかかるほど、つまり思考が纏まらない程度には私は混乱していた。




「アーラ起きたの? オハヨ、唯。」

「……おはようございます。」




見上げると、私を抱きかかえている見慣れた赤が笑いかけた。
ニタニタと、相も変わらずサディスチックで楽しそうな笑みを浮かべながら屋根から屋根へと飛び移る。

実は私は彼の滅茶苦茶な行動に迷惑ながら若干魅力を感じてはいたのだが今回は全く魅力を感じない。
感じないどころか意味が分からない。
とりあえず、まあいつものことと言えばいつものことなので、黙っている。

その間にもう目的地に到着したらしく、地面に降ろされた。


大きいとは言い難いがそれでもきちんと手入れはされている小奇麗な屋敷だった。

そこにズカズカと、当たり前のように入り込むグレルを追って私も中に入った。



「その子が言ってた子?」



声がする方を見れば、赤い人がそこにいた。
赤い、グレルさんと同じ、赤い、女の人。



「ええそうよ」

「ふーん…」



じろじろと視線があたるのを感じる。
なんじゃこりゃ、という部類のものではなく、
サーカスに珍しい生き物が出品されたときのような、品定めと興味の眼差し。
私よりも遥かに赤が似合う目の前の謎の御婦人はただじーっと、こちらを腕をくんだまま見続ける。


「ってゆうかマダム。アタシ、アンタに言われたことやってくるからちょっと待ってて」


マダム、というらしい。既婚者なのか。
既婚者なら、こんな夜更けに男を連れ込んでいいものか。オカマだけれど。
そう思っている私を置いて、グレルさんはヒラヒラ手を振りながらどこか別の部屋に引っこんでしまった。
残されたのは、マダムと、私だけ。
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