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□夢中の一生
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いつもわたしが、先に言わなくてはいけなかったのだ。
丁は頑固だった。普段は無表情で淡々としているくせに、絶対に譲らない。
わたしよりも頑固な彼は、喧嘩をもししてしまったのなら、
わたしが先に折れなければずっと、その喧嘩は平行線だった。
『わたしが、わるかった』
その日も、わたしは木の反対側にいる丁に向けて謝った。
返事はない。だけど、ため息をつきそうになるのをこらえながら辛抱強く待っていると、
のそのそ動く音が聞こえ拗ねた顔をした丁が目の前に立った。
今日の喧嘩は、何が原因だったのか。滅多に二人は喧嘩なんかしないが、
それすら覚えていないほどくだらないことだった気がする。
丁は、頑固だった。無表情で、どんなに理不尽な扱いを受けても決して泣いたりなんかしない。
怒ったりなんかしない、強くて優しい友達だった。
でもやっぱり頑固で、今日みたいにわたしから言い出さないと何も言わない。
だから、彼はわたしから少し逸れた角度で顔を向け、沈黙する。その後、ん、とか、あ、とか言ってから、
『私も、悪かったです』
とぶっきらぼうに言うのだった。
その後、少し苦笑をして
『私は、ずるいですね』
そんなことをこぼした。
うん、そうだね。と言おうとしたがやめておく。
もう夜は遅く、早く帰らないと丁は村の人間に叩かれる。わたしは母さんに叩かれる。
だからわたしたちはお互いの場所に帰って。
『また明日、遊ぼうね』の約束を守れなかった。