Dream

□決別の涙
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最近の于禁はとても悲しそうだ。

ずっと窓の外を眺めてため息をついている。執務をしている時もあまり捗らないらしく、よく俯いている。

こんな于禁を春姫は見た事が無かった。

于禁の事が心配でならない春姫は居ても立っても居られなくなった。



「文則様、最近文則がとても悲しそうにしていらっしゃるので、私、とても心配でございます…。何があったのか、私に話してはいただけませんか?少しでも、文則様のお力になりたいのです…。」

春姫は文則様の隣に座り、于禁の手に自分の手を重ねた。



「私は…旧友である昌豨を、この手で…処刑した…。」


于禁の声と肩は震えて、目から幾つもの涙が零れ落ちた。





昌豨は冀州平定後、反乱を起こしたが包囲されてしまう。そこで旧友であった于禁に投降しようとした。しかし、包囲された後に投降することは許さないという法があった。その法に従った于禁は、旧友・昌豨を涙を流しながら処刑したという。





「それは…とても辛かったでしょうに…。文則様はそんなに大きな悲しみを抱えていらっしゃったのですね…。」


春姫は于禁の肩を抱いた。


すると、于禁は春姫を抱きしめる。


「春姫…、しばらく…こうしていてくれ…。」


「勿論です、文則様。私は言葉が足りないので、言葉で文則様の心を癒すことは出来ないかもしれない。ですが、こうしてあなたの心を癒すことが出来るのなら、私は文則様の心が癒えるまでずっとこのままでいますよ。」




春姫は、于禁を優しく抱き寄せた。




友を、自らの手で血に染めた于禁。

しかし、彼は鬼なんかではない。



人間なのだ。



だから、彼だって涙を流す。



旧友の処刑は、すべて乱世があるからこそ招いた出来事なのだ。




ーー 一刻も早く、乱世が終焉を迎えることを祈って ーー

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