しょーとの集まり


□未成年ヘビースモーカー
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暗い始まり、

部屋に閉じ籠った午前2時。




デスクに置かれたシガレットケースに手を伸ばし、窓際の椅子に腰掛けた。

くわえた白い棒に点けっぱなしのキャンドルで火を灯す。


よく吸う君の好んだ銘柄だからとても強くて、

メンソールが嫌いな君の選んだ銘柄だからとても煙たくて、

どうやらやっぱり、たったの数本吸ってみただけじゃあ慣れそうにない。


苦味と喉の焼ける感覚に嫌気を感じながら、肺に溜まる濁った煙を咳と共に吐き出した。

白く透けて揺らめく、まるで複雑に絡み合った糸のようなそれの背景に、ぼうっと浮かび上がる影を見詰める。



『……………』

「………………しししっ……」



嗚呼、君は何時になっても変わらないね。



白い三日月も、

長い金も、

仄かな甘さも、

光るアイデンティティも、



全部全部、あの頃あの時のまま。

何一つ変わらないね。


変われないね。



「どうしたんだよ。淋しくなった?」

『冗談。ただ吸ってたらアンタが出て来ただけでしょ』







本当は、淋しくなったんだよ。

人殺しに会いたくなったんだ。

この、薄い煙を通して。



『王子ってさ、やっぱ馬鹿だよね。頭悪い、異常者、それに、やっぱり馬鹿』

「はーぁ?何お前喧嘩売ってんの?」

『…………馬鹿だよね…』



そうやって、すぐナイフ取り出すトコロも、馬鹿だ。



当たんないのに。

投げれない癖に。



「灰、落ちるぜ」

『知ってるよ』

「膝に落として熱い〜って泣いてたの誰だよ」

『さぁね、王子じゃなかったっけ?』

「未成年の癖して」

『王子だって未成年だったじゃんか』



この灰が、落ちなければいいのに。

この棒が、尽きなければいいのに。



なんて思う私も、相当な馬鹿。



『…………お喋りしよっか。暇なの』

「は?もう…………いいぜ。何か言いたい事あんの?」

『うん』



有り過ぎて困る程に。

言いたい事も、

伝えたい事も、

願いたい事も、

山のようにあるけど。



どうせ君には、何一つ届かない。



だから私はまた一口、嫌で嫌で仕方がない煙を入れては出す。



『……今日ね、スクアーロが任務でヘマして崖から落ちそうになったんだよ。って言っても、ボスに殴られてよろけて足滑らしただけなんだけどね。後はルッスが新しい茶葉買ったからってご機嫌で紅茶淹れてくれた。私的には紅茶の味なんか分かんないから添えてあったクッキーの方が嬉しかったけど、マーモンは美味しいって2杯くらいおかわりしてた。あ、おかわりと言えばボスのお肉が足りなくてレヴィが夕飯のラム肉全部あげたんだけど、コックが全員瀕死の重傷にされてヘリで病院送りにされちゃったの。だから明日から一週間くらい外食になるかな。私あのコックのアップルパイ何気に好きだったんだけどね。それと壊れたキッチンの修理費が……』

「…灰………」

『……………うん、知ってるよ……』



透ける王子が、私の手元を指差す。

ほとんど吸われずに出来た塊が、灰皿に移す前に組んだ足に落ちた。



………熱いなぁ。

でも君は、もうこんな感覚すら分からないんだよね。



「……あーあ………もうそろそろ、話聞いてやれない」

『ま、待ってよ!!あともう少し………』



慌てて手にしたシガレットケースは空っぽ。



「んな顔すんなって、みい」



嗚呼、あと一つ



君に何を話してあげれる?



『…………ベル…』

「珍しいじゃん、名前で呼ぶなんて」

『……あのね』



「灰、

オ ワ リ ダ

………また、な」


『……………うん……知ってるんだって、ば…………』






最後の塊が、落ちた。


揺れる煙の残り香に、君の姿は薄く消える。


笑って、

優しく、

君は、

泣かない。



『…………あのね、ベル……』



言いたかった事も、

伝えたかった事も、

願いたかった事も、

結局君には

何一つ届かない。



最初から独りきりの部屋には、苦い匂いと焼ける喉。

どうせ真っ暗な午前2時。



これがマッチ売りの少女なら、私もおばあさんのトコロに行けたのにとか。

女々しい事を考えてみたり。



また、買いに行かなくちゃ。

イタリアの街まで降りて、

あの喫茶店を曲がって、


小さな駄菓子屋さんのちょっと手前にあるバス停の横の、

錆びた小さな自動販売機まで。



私がこれを好きになれる日が来るとは、到底思えないけど。



『…………あのね、ベル…王子…』




今は揺らぐ君を

心から愛して

“ました”。




『………なんでもない』
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