短編小説
□苦手科目
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「えー、皆さん、こんばんは。本日は留学生と日本人学生との交流パーティーにお集まりいただき、ありがとうございます」
「Good evening, everyone. Welcome to the party to interact with Japanese students.」
「今回は、我が校の書道部が皆さんの名前を漢字で書いてくれるというイベントもありますので、ぜひ参加してみてください」
「You have an event that members of shodo club write your name in kanji. Please enjoy it!」
たくさんの留学生の視線が私たちに移る。書道部代表の佐々木瑞樹くんが、司会の人からマイクを受け取る。
「Good evening. We are shodo club. Do you know shodo? ……」
何も見ずにスラスラと英語を話す彼。留学生たちも頷きながら聴いている。私、野村ゆりあは何だか、誇らしい気分になった。
こんな人が、私の彼氏だなんて、ね。
佐々木くんは英語が得意で、将来は英語の教師になるのだと語っている。人柄も柔らかく、きっと人気者の先生になれるだろうと思う。
ただ……。
ただ、私の告白に「好きという気持ちがよくわからないけど、とりあえず付き合ってみる」という乙女心のわかっていない回答をよこす人だ。
英語は得意でも、恋愛は苦手科目なんだろう。
「We are waiting for you!」
彼のスピーチが終わる。
拍手の音で現実に引き戻される。
とにかく、今日は書道部員として来ているのだから、公私混同せずに仕事を全うしよう。報酬として、このパーティーのご馳走も食べ放題なのだ。
乾杯の音頭があがり、談笑の時間となってからは、たくさんの留学生が私たちのもとを訪れた。
「――?」
「そ、ソーリー。プリーズ スピーク モア スローリー……」
私は、困ったように笑うしかなかった。
ご覧の通り、私にとって英語は大の苦手科目なのだ。
センター試験のリスニングは、運だけで乗り切った。当然のことながら、ネイティブの英語は一言も聞き取れない。
何で、他の人たちは聞き取れるの?
見かねた佐々木くんに通訳してもらいながら、何とか文字を書き上げていく。
「ふう……」
パーティーもそろそろ終盤に差し掛かり、書道部のブースに来る人も減ってくる。
手元のジュースを飲んでいると、背の高い外国人男性が一人、微笑みながら、グラスを片手に私に歩み寄ってきた。
「――?」
「えーっと?」
案の定、彼の言っていることはさっぱりわからない。
ニコニコ笑っている彼に、拙い英語でその旨を伝えようとすると、
「Oh, sorry.」
佐々木くんが、少し強引に私たちの間に入った。
外国人の彼も、キョトンとした顔をしている。
佐々木くんは、その人に負けないくらいニヤリと笑って言い放った。
「She is my girlfriend.」
外国人の彼が、あー、なんだ、そうだったんだね!的なことを言って去っていった、のだと思う。わからない。
私が、状況を整理できずにポカンとしていると、
「I'm so lucky that you can't understand English.」
佐々木くんは、私のコップにジュースを注いで、そそくさと人混みの中へ消えていった。