なついろ 3
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「行麿様! しかし……」
「彼女は僕の客人なんだ。怪しくなんてないよ。信じてもらえないかな」
行麿が、私と少年の間に入る。いつもからは想像もできないような怖い顔。
少年は一瞬黙ったが、すぐに口を開く。
「し、しかし、王子の客人がこんなところをうろうろしているのはおかしいです! やはりあの犯人ではないのですか? 私は、怪しい者を全て連れてくるように王から命じられています。たとえ行麿様であっても、これを塗り替えることはできません!」
「僕の言うこと聞けないの?」
空気が変わる。
ハッと少年が息を飲んだ。
空調の音だけが響く。
しばらくして、少年がため息をついた。
「……あなたには、かないませんね」
彼は両手を挙げて、敵意がないことを示した。
「あの頑なだった行麿様がそこまで言うのなら、本当に大事なお客様なのでしょう。
それならば、なおさら今こんなところをうろうろしているのは危険です。早くどこかへ退避してください」
「ありがとう、シン。わかってもらえてうれしいよ」
行麿の声から鋭さが消える。
私は、思わず息を吐き出した。
彼が、不機嫌そうな顔で振り向く。
「とりあえず、行こう」
グイッと私の背中を押して階段の方向へ促す。つんのめりそうになりながら、私はそちらへ歩き出した。
「あ、一つ言っておかなきゃ」
行麿が足を止めて、シンと呼んだ少年に顔を向ける。私も、つられて足を止めた。チラリと見えた彼の表情は、いつもの笑顔だった。
「僕が女の子を助けたとか言わないでね。この子、普段なら煮ようが焼こうが構わないんだけど、今は事情があって丁重に扱わなければいけないだけなんだ。そこんとこ、勘違いしないでほしいな」
振りかざされた私の右手は、行麿によってやんわりと押さえつけられた。そのままその手を引かれるような形で、地上への階段を急ぐ。
後ろから、シン少年がクスクス笑っているのが聞こえた。