なついろ 3
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爽やかな朝の陽光と鳥の鳴き声で目が覚める……
なんてことは、当然なかった。
そうだ、ここは地下牢。
私は眠い目をこすって体を起こした。床は固いコンクリートだったのでもっと全身が痛いかと思ったが、思ったより軽い。和樹さんが持ってきてくれた布団はなかなかいいものだったらしい。空調も程良く効いていて、居心地は良い。さすが王家。
結局あのあと和樹さんは笑ってごまかしながらどこかへ行ってしまい、行麿の不機嫌の理由を知ることはできなかった。
わからないことだらけだ、行麿のこと。少しは仲良くなれたと思ったのに、まだまだ氷山の一角。分かり合おうとすることが間違いなのかもしれない。彼は伝説の国リゾラート王国の王子。適当に付き合っておくのが吉だ。
「はあ、寝ても寝ても眠い」
大きく伸びをして、腕時計を見る。9時。地下牢で爆睡できる自分に少々呆れる。
檻の近くに、昨日と同じようにコーヒーの入ったポットとカップ、それからサンドイッチの乗った皿がラップをかけられて置かれている。その近くには大量の雑誌と漫画本。おはよう、これ自由に見ていいからね、というおそらく和樹さんが書いたと思われるメモが乗せられていた。
布団を畳んで、サンドイッチを頬張る。美味しくないわけがない。ふわふわしたパンは軽く焼かれてあり、野菜もシャキシャキとみずみずしく、調味料も深い味わいがする。さすが王家。
ちなみに、牢屋の鍵は開けてもらったので、地下は自由に歩き回ることができる。そもそも閉じこめられる理由がないし、これで少しは精神的に楽になった。……まあ、牢屋が続いているだけだったけれど。
一通りの身支度を済ませる。暇だ。
結婚式は午前中に開催され、午後にパーティーが開催されるらしい。そして、行麿は午後5時くらいまで拘束されるらしい。帰られるとしたらその後だ。
私は漫画本の山に手をのばした。