なついろ 3
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体が硬直している。銃から目を離すことができない。
右側から、ため息と失笑が聞こえた。
「……ははっ。なめられたものですね。僕が本物とおもちゃを見分けられないとでも思っているんですか? 勝手に撃ってください」
カツーン、カツーン。ゆっくり足音が近づいてくる。
「──そうか。じゃあ、本当に撃っちゃうぞ?」
男が引き金を引く。思わず目を瞑る。
パアーンという、うるさくて安っぽい音。
どこにも痛みは感じない。
恐る恐る目を開けると、銃口から色とりどりのテープが溢れていた。
「随分素敵な趣味を持つようになったんですねえ、和樹さん。女子高生監禁だなんて」
いつもの作り笑顔全開で、行麿は和樹さんと呼んだスーツの男性の側で立ち止まる。男性はおもちゃのピストルを捨て、行麿と向かい合った。身長の低い行麿は必然的に男性を睨みつける形になり、男性は必然的に行麿を見下ろす形になる。2人とも笑顔のような表情を浮かべてはいるが、目の奥は全く笑っていない。
最初に表情を崩したのは、和樹さんという男性だった。
「もとはといえば、お前が全て悪いんだろう!」
鬼の形相で行麿の胸倉を掴む。
私は、突然の出来事に戸惑った。
行麿も表情を一変させ、男性の右手を払いのけた。
「は? 僕が何をしたって言うんですか? 留学中なので出席できないと、ちゃんと伝えたじゃないですか!」
「普通に考えて、兄貴の結婚式くらい帰ってくるだろう!」
「日本からの渡航は、リスクも大きければ、莫大な費用もかかる。帰ってこなくても、何もおかしなことはないと思うのですが!」
「そういう問題じゃねえ!
立場をわきまえろ、小石川行麿第二王子!」
和樹さんの声がわんわんと反響し、そして静かになる。
行麿がはぁーっと盛大にため息をつく。
「じゃあ、どういう問題なんですか」
「月麿皇太子の結婚式といえば、国民全体の注目の的。弟であるお前が出席しなかったら、ただでさえ不仲説が囁かれているのに、国民の不安を煽ったり、悪影響を与えるだろう?」
「不仲説も何も、本当の話だし……」
「あ、あの!」
2人の顔がこちらを向く。
「さっぱり話が読めないんですけど!」
鉄格子の中から、私が渾身の叫びを上げる。
2人は狐につままれたような顔で、見つめあう。
「ここまで聞いてもわからないなんて、何というか大物だな」
「同感です」
「え? え?」
今までにわかったことといえば、この和樹さんとやらは、別に悪の組織の一員などというわけでもなく、行麿と親しかった人なのだろうということくらい。
詳しいことは、何もわからない。まず、そもそも……
「ここは、どこ?」
真剣な目で尋ねる私に、行麿はサラリと返した。
「どこって、リゾラート城の地下牢だよ」