なついろ 3
□03
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薄暗い視界に映る、無機質な鉄の棒。
ぼうっとする頭。
痛む全身。
目が覚めると、私は、鉄格子の中でコンクリートの床に横たわっていた。
手をついて、ゆっくりと起き上がる。体は拘束されていない。
ファサッとかけてあった毛布が落ちる。
そっと鉄格子に近づく。
ギリギリ握れないほどの太さ。驚くほどひんやりしている。20pおきくらいに立っており、当然逃げられそうもない。
徐々に思い出す、昨日と今朝の出来事。
「あ。目、覚めた?」
びくっと体が震える。
カツカツと足音が右側から近づいてくる。
「気分はどう?」
笑顔を浮かべた例の男性が、昨日のスーツ姿で、お盆を持って現れた。
私は、答えずに睨みつける。
「怖いなあ。別に危害を加えるわけじゃないんだから、そんな身構えなくてもいいのに」
「……じゃあ、なんで」
「いわゆる人質、かな」
笑顔のまま男性は答え、鉄格子の右下の方の小さな隙間からお盆を入れてくる。
「まあ、そういうわけだから、ちょっと居心地悪いけど、我慢してねー。これ、昼ご飯。大丈夫、変なものは入ってないから。他に何か欲しいものある? 雑誌とか持ってこようか?」
しゃがんだまま、男が私と視線を合わせる。
不自然なほどに優しい笑顔や言葉とは裏腹に、怒りに燃えているような目。
思わず身の毛がよだつ。しかし、相手に悟られてはいけない。
「特に何もいりません。大体、あなた、何者なんですか。ここは、どこなんですか。私は、一体、何の人質なんですか」
精一杯虚勢を張って、彼の目を見る。
彼は、一瞬、右に視線をそらしたが、ニヤリと笑って私に小さく囁きかける。
「ごめん。どこまで言っていいかわからないから、詳しくはあいつに聞いて」
「あいつ?」
スッと男が立ち上がる。ジャケットをめくり上げ、ベルトについている黒い物体を外す。
思わず、息を呑む。
それは、まっすぐ私に向けられていた。
「おい、行麿。それ以上近づいてみろ。撃つぞ」
銃口を私に向けたまま、男はわざとらしく声を上げた。