なついろ 2

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「お、奈津が行麿の代わりにやってたのか」
「拓磨先輩! そうなんです!」

 交代の時間の5分前、拓磨先輩が私の側に現れた。
 私は、ちょっとすねながら、彼に状況を説明した。

「ひどいんですよ。急に代わってくれって。何の説明も無しに」
「そうか。ごめんな。大変だったな」

 彼は私の頭に手を置いた。軽くポンポンと叩く。

「大変だっただろ? ちょっと早いけど、交代しようぜ。ほら、遊んでこいよ」

 彼を直視できない。こんなイケメンに頭ポンポンされて優しいこと言われるなんて、反則以外の何物でもない。
 私は、なるべく平然とその場から立ち去った(つもりだ)。
 熱を冷ますために、とりあえず、近くにあった射的に挑戦する。てんで当たらなかった。

「下手くそだな」

 やけになってもう1回挑戦しようと財布を出していると、後ろから伸びてきた手が、射的屋のおじさんに小銭を渡す。

「あのお菓子セットでいいの?」

 その人は、私を押しのけて銃に弾を入れ、構える。
 ぽん!と音がして、お菓子セットが倒れ落ちた。

「はい。代わってくれたお礼」

 射的屋のおじさんが持ってきてくれたお菓子を、彼が私に渡す。
 私は受け取った。目の前にいる人物は、今私が一番文句を言いたい人物……。

「ありがとう……じゃなくて、今までどこに行ってたの、行麿!」
「細かいこと気にするなよ。お望みのお菓子も手に入ったのにさ」
「そんなに望んでない!」

 彼は、はははっと誤魔化すように笑う。
 騙されないぞという気持ちで軽く睨みつける。

「大変だったんだからね」
「別に、アナウンスだけなんだから、そこまでじゃないだろ。パフォーマーが使っていいのはマイクだけで、他の放送機器は使用禁止なんだし」
「そうなの?」
「知らなかったの?」

 嘲るように私を笑う彼。いけない。こいつのペースに飲み込まれている。私は、慌てて行麿を鋭く指差す。

「もちろん、もともと私の分担だったところは、やってくれるんでしょ」
「あー、それなんだけどさ、頼めないかな?」
「え?」
「やっぱり練習不足は不安というか、今も実は気分転換なだけで未完成というか、やっぱり頼まれたからにはちゃんとしないといけないというか……」
「何をごちゃごちゃ言ってるの」

 眉をひそめる私に、彼は、にっこり笑った。

「そういうことだから、お願い。射的で良ければ、いくらでもやってあげるからさ。一応銃も訓練してるから、この程度なら百発百中だよ」
「ちょっと!」

 私の答えも聞かずに、彼は、集会所と反対方向へ、駆け出してしまった。

「何なの……」

 お菓子セットを片手に、私はそこに呆然と立ち尽くした。

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