なついろ 2
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先輩との約束の時間に来ないなんて、新入りのくせにいい度胸だ。
私は、早足で彼の姿を探した。
見つけたら、文句を言ってやろう。
足をさらに速めながら集会所を出ると、
「……本当にいいんだな、行麿」
道端にあるゴミ捨て場の奥の暗がり。
ちょうど今探している名前が聞こえてきた。
しかも、この発言をした声の主も、私は知っている。
足を止めて、そっとゴミ捨て場の奥を覗き込む。
「何故僕の許可が必要なんですか、拓磨先輩」
行麿は、拓磨先輩に向かって、感情の読めないような表情を浮かべている。
私は、息を殺して、聞き耳を立てる。
「何故って、どういう意味だ?」
「こっちが質問しています。別に僕のものではないので、僕の許可なんて必要ありません」
「……そうか」
先輩が、不敵に笑う。そのまま、行麿の肩に手を置いた。
「そんなら、もう言うことはねえ。じゃあ、例のやつ、頼むぜ」
「善処します」
会話が終わりかけている。何の話をしているのか、さっぱりわからないが、こんな隠れたところでの会話を盗み聴いていいわけがない。
私はそっとその場を離れ、集会所の入り口まで後ずさった。
すうっと息を吸って、駆け出す。
「おーい、行麿ー! どこー? あんたのシフトだよー!」
さも今来たかのように声を張る。
トントンと足音がして、陰から彼が現れた。
「あ、なっちゃん、探しに来たの? 悪いね」
「もう、早く!」
「ごめん。悪いついでに」
彼は、先ほどとは打って変わって輝く笑顔を作り、
「僕の分のシフトも、やってもらえない?」
「は? 何言ってるの?」
「後々、君のためになるからさ。じゃあ、お願い!」
「あ、ちょっと!」
如何にもな作り笑いを残して、彼は集会所の逆方向に走って行ってしまった。
「何なの……?」
2人は、何を企んでいるというのだろう。
考えてもわかりそうになかったので、私はしぶしぶ彼の代わりにステージ脇へと戻った。