なついろ 2
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私と弥生先輩は、パチパチと拍手をして彼を迎える。
一人何も知らなかった拓磨先輩。ガタッと椅子から立ち上がり、ガッツポーズをして叫ぶ。
「これは本当に月食と日食が一緒にきたようなもんだ!」
クスクスと行麿が楽しそうに笑う。
「月食は地球が太陽と月の間にくる現象で、日食は月が太陽と地球の間にくる現象なので、一緒に起こることはありえませんよ。
拓磨先輩ですね。よろしくお願いします」
「よろしくな! 例のMVPくんか。王子様似合ってたぜ」
「もはや黒歴史ですよ」
「そう言わずに。確か、奈津のクラスだよな。奈津が勧誘してくれたのか。サンキューな」
彼が私に優しく微笑みかける。
かあっと顔が熱くなるのがわかった。
やはり笑った顔が一番いいな……。
「はいはい、行麿くん、よろしくね。座って、座って」
弥生先輩の声に、現実に引き戻される。
行麿は、私から見て右にあたる辺の椅子に腰を下ろした。私を見て軽くほほえむ。
向かいに座っている弥生先輩が、すうっと息を吸うのが聞こえた。視線をそちらにやる。
「突然ですが」
彼女がニコニコした顔で、右手の人差し指を立てる。兼部の吹奏楽でフルートをしているというその指は、長くて美しい。
「今週の土日、暇ですか?」
私は基本的にいつでも暇なので、コクコクと頷いた。
「みんな大丈夫そうね。それじゃあ、行麿くんの歓迎会も含めて、これに行きます!」
彼女がどこからかポスターを取り出す。
暗めのオレンジと赤の紙に書かれていたのは、
「秋祭り……?」
「そう。ここの近くにある小さな村の秋祭りなんだけど、知らない? 割と有名らしいよ」
首を振る。初めて聞いた。ポスターを見る限り、出店やステージ発表など、普通の祭りらしい。
先輩が続ける。
「実は、放送部に依頼が来てるの。このステージ発表の手伝いをしてくれませんかって」
「それって、全然、僕の歓迎と関係ありませんよね」
もっともなことを行麿が言うと、彼女は、チッチッと人差し指を左右に振った。
「関係あるんです。実は、依頼してきたのは私のおばさんなんだけど、この村で旅館を経営しているの。
何を言いたいか、わかる?」
わかりません、とは言えず、続きの言葉を待った。
「秋祭りは土曜日の午後から開催。隣村行きのバスは、1日に2本しかない。つまり、土曜日の夜はそこに泊まらなくちゃいけないの。
おばさんの提案は、報酬代わりに無料で旅館に泊めさせてあげるってこと。どう、そこで軽く歓迎会をするのは?」