なついろ 4

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「こんにちは。放送部です。不定期開催のラジオ企画を今日もやっていきたいと思います。副部長の大崎拓磨です」
「小石川行麿です。よろしくお願いします」

 3日後。昼休みの教室の空気はいつもとだいぶ違った。

 月曜日の私たちの放送のときは、聞いている人もいれば聞いていない人もいるいつもの昼の光景だったらしいが、今日の教室はシーンと静まり返っていた。

 多くの女子生徒の手にはボイスレコーダーかスマホが握られており、そんな空気を察して男子も静かにしている。

 眼前にいる真理佳も例外ではなく、何なら一番立派そうなボイスレコーダーを片手に身を乗り出している。

「拓磨先輩、知ってますか? 今日は衣類乾燥機の日らしいですよ」
「衣類乾燥機の日?」
「そうです。衣類ふんわりの語呂合わせだそうで……」

 いきなりファーストネームで呼んでいる。私たちのときよりもだいぶフランクな台本だった。

 普段だったら、私も彼女たちと違う目的でスマホの録音アプリを使っていただろう。拓磨先輩の声を録音するために。
 だけど今日は、そんな気分になれなかった。

 この数日、連絡が来ても眠いからとはぐらかしたり、校内でもすれ違わないように時間を調整したりしていた。

 彼がモテるのも知っていたし、過去が派手なのも知っていたけれど、今は少し気持ちを整理したかった。

 彼らは2分ほど衣類乾燥機の良さを語っていた。行麿の声に、噛み締めるように頷く姿が教室内でちょこちょこ見られた。

「……というわけで、洗濯物の生乾きに困っているそこのあなた! 衣類乾燥機の導入を考えてみては!?」
「拓磨先輩、通販番組みたいなこと言わないでくださいよ」
「ははっ。おっと、そろそろ時間ですね。本日の担当は大崎と、」
「小石川でした。ありがとうございました」

 音楽が大きくなる。教室のあちこちで録音を終えるボタンを押す音やスマホをタップする音がする。

「はあ、素晴らしいわ、行麿くん。滑舌も良ければ、マイクによく乗る凛とした声。同じ時代に生きられることへ感謝」

 何やらわけのわからないことを言っている友を一瞥し、箸を進める。教室にも賑わいが戻ってきた。

 しばらく真理佳がうわ言のように放送の感想を話している間に音楽も終わり、行麿が帰ってきた。

「行麿くん! すごい良かったよ!」
「お疲れ様! 上手だったね!」

 元気な女の子たちにありがとうとか何とか愛想を振り撒きながら、彼はこちらに向かってきた。

「お疲れ……」
「わー、行麿くんお疲れ! めっちゃ良かった〜!」
「ありがとう、真理佳ちゃん。……で、なっちゃんに事務連絡」

 形式上言った私の労いの言葉は真理佳の勢いにかき消されていた。わざわざ言い直す必要もあるまい。

 彼は、真理佳や他多数の女子のために浮かべた笑顔を絶やさずに私に向き合った。嫌な予感がする。そして、それは当たっていた。

「放送好評らしくて、追加のリクエストがあったって。僕となっちゃんのやつが聞きたいって名指しで。来週の月曜日の予定らしいからよろしく」
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