なついろ 4
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週が明けて月曜日。
今日は、弥生先輩と私のラジオ風放送当番の日だ。
「こんにちは。放送部部長の橘です。いつもは音楽を流していますが、今日はリクエストをいただいたので、少しお話をしてみたいと思います」
「よろしくお願いします」
「さて、今日1月25日は何の日かご存知ですか、岩瀬さん」
「え、何の日でしょうか」
「今日は、実は中華まんの日と言われています」
昼休みが始まると、いつもより音量を絞った音楽に乗せて、私たちの声が流れる。
結局顧問の国語の先生が楽しくなったらしく、数分間の台本を用意してくれた。それを読み上げるだけなので特に何も問題はない。
そもそも、1年の教室の普段の昼休みの賑やかさを思い出せば、何人聴いているのかも怪しい。
「……というわけで、本日は帰りに中華まんでも買ってみてはどうでしょうか。本日の担当は、橘と、」
「岩瀬でした。ありがとうございました」
マイクのスイッチを切り、音楽の音量を上げる。弥生先輩と目を合わせる。
「上出来ね」
ニコッと笑いあうと、姿勢を崩す。15分後くらいに音楽を切れば今日の放送は終わりだ。
「そういえば、あれから何かあった? 大丈夫?」
あれから、特に何もなかった。
終始行麿を避けながら、先週はつつがなく終わった。
と言っても、普段は真理佳と行動してるし、部活かリゾラート関連の何かがなければそんなに接することもない。
間違って目が合ってしまったときに慌ててそらしたこと以外は、まあ普通だった。
「大丈夫ですよ。友達にも何もないみたいですし」
「そう。ならよかった。それにしても、一体誰が何のために……」
考えこむ素振りをする弥生先輩にも、「何のために」についてはきっと私と同じ仮説があるのだろう。「嫉妬のため」とかいう。
私はわざと明るい声で言った。
「ですよね。『おしぼり』さんだか『お手ふき』さんだか知りませんけど!」
あえて「何のため」には触れず、真理佳に写真を送ってきたアカウント名を口にする。
弥生先輩は一瞬フリーズした。
そういえば、彼女にはアカウント名なんて言ってなかったかもしれない。
「あ、友達に送ってきた人のアカウントの名前がそんな感じで……」
「『お手ふき』って言うの?」
「え」
室温が2度くらい下がったような感じがした。
弥生先輩の目から柔和さが消えた。
「『お手ふき』、『お手ふき』か。そういうことね」
「あ、あの……」
「ごめん、奈津ちゃん。急用を思い出したわ。放送終わらせといてくれない?」
「あ、はい……」
私の返事を聞いたか聞かないかくらいのタイミングで彼女は席を立った。
置いてけぼりの私は、冷えた放送室で一人音楽の終わりを待つことになった。