なついろ 4

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 その日の夜、私は思い切って拓磨先輩に電話をかけていいかLINEで聞いてみた。

 彼は兼部しているバレー部のキャプテンでそこそこ忙しく、最近は会う機会がなかった。

 今日は、なんだかとても話したい気分だった。

「!」

 電話していいか、という問いに答えは返ってこず、代わりに着信音が鳴り響いた。

 咳払いして喉の調子を整える。受信ボタンを押す。

「もしもし……」
「もしもし。奈津、どうした、急に?」

 電話越しに聴く声はいつもと違って特別に感じる。胸がドキドキする。

 私から電話したいと言うことはあまりなかった。2週間に1回くらいのペースで彼がかけてくれた。いつも他愛のない話をして幸せな気分になっていた。

「あの、なんか話したくなって……」

 ダメだ。まだ緊張してしまう。慣れない。
 ベッドに倒れ込み、布団を握りしめる。

「そっか。嬉しいな。今日は何してたんだ?」

 耳元でする低い声が、いつものように話題を提供しようとしてくれる。

 私は息を吸い込むと、行麿との写真の件、放送リクエストの件を一気に話した。
 彼は相槌を打ちながら、最後まで聞いてくれた。
 そんな嫌がらせをするなんて許せないと怒ってくれた。

「奈津のことは俺が絶対守るから、何でも言ってくれよ」

 ありがとう、と私は言った。救われた気分だった。こんなにも味方がたくさんいる。

「でも、行麿とのツーショット写真の流出かあ……。俺もちょっと思っちゃうんだよね。あいつが羨ましいって」
「え」

 そんなことを言われるなんて予想外だった。私の彼氏は拓磨先輩なのに。
 なんで、と心底不思議そうに私が問うと、彼は少し間を開けて言葉を続けた。

「同じクラスだし、一緒にいる時間が多くてさ。考えすぎだろうけど、奈津といる行麿は楽しそうだし、逆も然りって思っちゃうときもあるんだ」
「そんなこと……!」

 ない、とは言いきれない。何だかんだ楽しい。
 ……なんてことは今ここで言ったって仕方がない。

 拓磨先輩に対する「かっこいい!」という気持ちは、確実に行麿にはないのよ。それは確か。

 そんなことをしどろもどろに伝えると、彼は面白そうに笑っていた。

「ははっ。わかってるよ。言ってみただけ。
 でも今ならちょっとわかるよ。俺がいろんな女の子と仲良いのを疎んできた子たちの気持ちが」

 彼のこれまでの話は、彼自身の口から聞いたことはなかった。おそらく意識的に避けていたし、聞かないほうが幸せなんだろうと私自身思っていた。

「俺としてはなんで上手くいかないんだろうっていつも思ってた。……ま、今ならわかる。運命の人、奈津じゃなかったからだろうな」
「拓磨くん……」

 呼び捨てで良いと言われたけどなんとなくしっくりこなかったので折衷案として2人きりのときは拓磨くんと呼ぶことにしていた。

 なんてロマンチックなことを言う素敵な人なの、と瞳を輝かせる私に、はいはいと白い目を向けてくる親友や部員は今ここにはいない。

 そのあとも一つか二つの話題があり、30分ほどの通話は終了した。終わったあとも、しばらく通話履歴を眺めては口角が緩んでいるのを感じた。
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