なついろ 4
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その後、真理佳は急いで部活に行き、特に用事もなかった私と行麿は一緒に帰宅することにした。
靴を履きかえて昇降口を出る。空は厚い雲に覆われていて、あたりは薄暗かった。
「何なんだろうね、あの写真」
いつもの世間話のようなつもりで先程の話を持ち出すと、彼はポケットに手を突っ込んだまま、3歩先を見つめて呟いた。
「あれ、カメラじゃなく銃だったらと思うとゾッとするね。全然気がつかなかった。油断していた」
いきなり物騒な返答が戻ってきて言葉に詰まる。
「そんな考えすぎじゃ……」
「この前実感しただろ。君はともかく、僕に消えてもらいたい人は結構いるんだ。最近、反王権組織アラオがまた活性化してるようだし」
王家にスパイを送って内部を探ろうとしたり、行麿のお兄さんの結婚式で爆破計画を立てたりした組織アラオ。日本支部もあるような話を誰かがしていた気がする。
「僕にあんまり近づかないほうがいいかもね、なっちゃん」
マフラーに半分口を埋めながら、彼はさらっとそんなことを言った。
「えっ、なんでそんなこと言うの」
急に90度回転させられた首がバキッという。
別に痛くはないが、自分でその音に驚いてしまった。
「なんでって、あの写真が仮に僕の失墜を狙ったものだとしたら、今後も僕は狙われる。なっちゃんが危ないだろ。
逆になっちゃんのことを悪く思う人の仕業だったらこう思われてるわけだ。『イケメンな拓磨先輩と付き合っておきながら、私たちのアイドル行麿くんにも手を出す悪い女』ってね」
「そ、そっか……」
自称アイドルにつっこむ余裕もなく、私の心はざわざわし始めた。
あまり考えたくなかったが、私に嫌な気持ちを持っている人がいるということ。
拓磨先輩も行麿も人気がある。こんな地味な生徒が拓磨先輩と付き合って、尚且つ行麿とも仲が良ければ、そりゃあ面白くない人もいるよね……。
「大丈夫?」
行麿が私を覗き込む。真理佳なら上目遣い可愛いとか騒ぎそうだが、残念ながら私のタイプじゃないし、そんな気分でもない。彼に心配されるほど私は追い詰められた表情をしていたらしいことはわかった。
「一つ言っておくとさ、自分のこと嫌いな人に好かれようとするのは時間の無駄だよ。ひょっとしたらさっき言ったことと矛盾するかもしれないけど。僕はなっちゃんに傷ついてほしくないからさ」
お得意の太陽のような笑顔でそんなことを言ってくれる。本音なのか建前なのかさっぱりわからない。
別れ道の交差点を過ぎ、私は寒さに縮こまりながら家に向かった。