なついろ 1

□08
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 その瞬間、私は、全てがドッキリであったことを悟った。

 彼は何と言った?
 リゾラート国の王子?
 それって、劇中での彼の役じゃない。
 そんなこと言ったら、普通、ドッキリだってバレるでしょ。

 とにかく、演技がてんでだめな私のために、彼が考えた悪趣味なドッキリに違いない。
 しかし、心優しい私は、騙されたふりをしてあげることにした。
 黙って彼らを見つめる。
 行麿が口を開いた。

「狙っている奴の顔と名前と性別くらい知っておきなよ。だいたい、僕を知らないってことは、15年以上はリゾラートにいないでしょ。何者だよ」
「……」

 男は、何も言わない。
 しかし、次の瞬間、

「うおおお!」

 男が行麿に向かって駆け出す。
 ナイフの切っ先は彼を向いたまま……


 カン!


 金属がぶつかる嫌な音。


「その程度で僕を襲おうとしてたの?」

 行麿の持っている装飾が施されているナイフが、男のそれを受け止めている。
 男が力づくで行麿を刺そうとする。
 しかし、その体格差からは想像できない歴然とした力の差があるようで、

「出直してきなよ」

 グッと男の腕が外側に押しやられたと思うと、男の手からナイフが飛んでいき、グサッと教室の後ろの壁に刺さる。

 私は違和感を覚えた。
 ナイフは本物なんだ。危ないな。

 男は行麿を突き飛ばすと、教室の後ろのドアからダッと出て行った。

「……」

 沈黙が残る。

 私は、彼が如何にも作った笑顔で、ドッキリでした、と言うのを待った。

 しかし、彼はまずポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかける。

「ああ、僕だ。どうも王家に恨みのあるやつに襲われかけた。20代から30代前半。身長180pほどで、細身。無精髭が生えている。目つきが悪い。その辺を逃亡中だ。今すぐ誰かよこしてくれ。
 ――むちゃ言うな。こっちでは僕はただの高校生だ。そんな真似できるか。とにかく、頼んだ」

 一方的に電話を切った彼は、ハンカチを取り出し、壁に刺さったナイフを、指紋をつけないようにハンカチを巻いて抜き取る。それをその辺に落ちているコンビニの袋に入れて、かばんにしまった。
 ずいぶん周到な真似をする。完璧主義なのか。

 彼の視線が私をとらえる。彼は驚いたように目を見開いた。

「しまったな。なっちゃんの存在を忘れてた」

 如何にも私のことを本気で忘れていたかのように振る舞う彼。
 全く、この茶番はいつまで続くのよ。

 彼は、私の方に歩み寄り、視線を私に合わせる。
 私は、そんな彼を睨みつけた。

「……この茶番は、いつまで続くのかしら」
「は?」
「このドッキリは、いつ終わるの?」

 だんだん私はイライラしてきた。
 彼は、一瞬きょとんとした後、鼻で笑って、立ち上がった。
 ポケットから例のナイフを取り出す。

「ドッキリなもんか」

 適当な机の上に乗っていたプリントを手にし、空中に放り投げる。ナイフがそれを通過したかと思うと、真っ二つになった紙がはらりと落ちる。

「本物だよ。この剣も、この紋章も。それから、今までのこと全部」

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