なついろ 1
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その瞬間、私は、全てがドッキリであったことを悟った。
彼は何と言った?
リゾラート国の王子?
それって、劇中での彼の役じゃない。
そんなこと言ったら、普通、ドッキリだってバレるでしょ。
とにかく、演技がてんでだめな私のために、彼が考えた悪趣味なドッキリに違いない。
しかし、心優しい私は、騙されたふりをしてあげることにした。
黙って彼らを見つめる。
行麿が口を開いた。
「狙っている奴の顔と名前と性別くらい知っておきなよ。だいたい、僕を知らないってことは、15年以上はリゾラートにいないでしょ。何者だよ」
「……」
男は、何も言わない。
しかし、次の瞬間、
「うおおお!」
男が行麿に向かって駆け出す。
ナイフの切っ先は彼を向いたまま……
カン!
金属がぶつかる嫌な音。
「その程度で僕を襲おうとしてたの?」
行麿の持っている装飾が施されているナイフが、男のそれを受け止めている。
男が力づくで行麿を刺そうとする。
しかし、その体格差からは想像できない歴然とした力の差があるようで、
「出直してきなよ」
グッと男の腕が外側に押しやられたと思うと、男の手からナイフが飛んでいき、グサッと教室の後ろの壁に刺さる。
私は違和感を覚えた。
ナイフは本物なんだ。危ないな。
男は行麿を突き飛ばすと、教室の後ろのドアからダッと出て行った。
「……」
沈黙が残る。
私は、彼が如何にも作った笑顔で、ドッキリでした、と言うのを待った。
しかし、彼はまずポケットから携帯電話を取り出し、どこかに電話をかける。
「ああ、僕だ。どうも王家に恨みのあるやつに襲われかけた。20代から30代前半。身長180pほどで、細身。無精髭が生えている。目つきが悪い。その辺を逃亡中だ。今すぐ誰かよこしてくれ。
――むちゃ言うな。こっちでは僕はただの高校生だ。そんな真似できるか。とにかく、頼んだ」
一方的に電話を切った彼は、ハンカチを取り出し、壁に刺さったナイフを、指紋をつけないようにハンカチを巻いて抜き取る。それをその辺に落ちているコンビニの袋に入れて、かばんにしまった。
ずいぶん周到な真似をする。完璧主義なのか。
彼の視線が私をとらえる。彼は驚いたように目を見開いた。
「しまったな。なっちゃんの存在を忘れてた」
如何にも私のことを本気で忘れていたかのように振る舞う彼。
全く、この茶番はいつまで続くのよ。
彼は、私の方に歩み寄り、視線を私に合わせる。
私は、そんな彼を睨みつけた。
「……この茶番は、いつまで続くのかしら」
「は?」
「このドッキリは、いつ終わるの?」
だんだん私はイライラしてきた。
彼は、一瞬きょとんとした後、鼻で笑って、立ち上がった。
ポケットから例のナイフを取り出す。
「ドッキリなもんか」
適当な机の上に乗っていたプリントを手にし、空中に放り投げる。ナイフがそれを通過したかと思うと、真っ二つになった紙がはらりと落ちる。
「本物だよ。この剣も、この紋章も。それから、今までのこと全部」