なついろ 1

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「10年前は失敗したが、やっとお前を仕留める日がきたようだ」
「イヤー、ダレカー、タスケテー」
「ははは。叫んでも無駄さ。こんなところに誰も来やしな……」
「そこまでだ!」
「なっ! お前は!?」
「私はリゾラート王国の王子、小石川行麿。姫、助けに参りました」
「アナタハ、ヒョットシテ」
「10年ぶりですね。――さあ、次は逃がしませんよ。悪の者よ」
「アノトキノ」



「ストップ、ストップ! 奈津、何なの、その棒読み!」

 真理佳監督のストップがかかって、劇の練習が中断される。

「え? 普通でしょ」
「どこが!」

 何故か、さっきから私の迫真の演技は棒読みと注意される。
 我ながらうまくいったと思ったんだけど。

「それで上手いっていうなら、小石川くんや悪役の高橋くんなんてアカデミー賞よ」
「えー。私のほうが上手いでしょ」
「あんた、もう2週間しかないのに、それでいいと思ってるの!?」

 監督の雷が落ちた。
 関係ない人たちがそそくさと避難している。

「はー。人選ミスだった。ここまで奈津が演技できないなんて」
「何よ、勝手に押し付けといて」
「普通さ、こんなに下手だとは……」
「2人とも、落ち着いて」

 心底うんざりした顔の小石川くんが間に入る。
 しかし、彼は、一瞬でキラキラした笑顔を作り、真理佳の方を向く。 

「ごめんね。真理佳ちゃん、衣装とか道具の方にも顔出してて忙しいのに」
「ううん! 全然構わないよ!」
「なっちゃんについては、僕たちで何とかしておくからさ、もうちょっと時間くれない?」
「え、でも、そんな……」
「僕には、任せられないかな?」
「全然! もう喜んで!」

 真理佳は舞い上がってどこかへ行ってしまった。さぞかし、上目遣いで見つめてきた彼にときめいたことだろう。

「……あんた、絶対狙ったでしょ」
「何の話かなー」

 さらっととぼけた彼は、これまた一瞬で真顔になる。

「それにしてもさ、なっちゃんの演技は破壊的だよ。ある意味感動すらするね」
「褒められてる?」
「全く。明日、土曜日だけど、暇でしょ? 学校来て練習しようよ」
「暇な前提なのね」
「もちろん。高橋くんは?」

 私には答える権利すら与えなかったのに、高橋くんには予定を聞く彼。
 高橋くんは、明日は忙しいと謝った。

「そっか。残念。アクションシーンの打ち合わせとかしたかったんだけど、またの機会にね。
 ――じゃあ、なっちゃん、明日の1時から1−2教室で」
「本当に拒否権はないんだね」
「当然。棒読みと演技するのはこっちだって大変なんだから」

 不機嫌そうなその顔は、先程真理佳に向けた輝くような笑顔と同一人物のものには、到底思えなかった。

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