なついろ 1

□04
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「え……」

 どこで、バレた?
 どこで、放送部に入ってほしいってバレた?

「なんで……」

「ごめんね。僕は相応しくないよ。きっと他にいい人がいるはずだ」

 申し訳なさそうに彼は下を向く。
 横を通って行った自転車が、興味深そうに私たちを見ていた。

「そんな……。小石川くんに断られたら、私は、私は……」

 彼は表情を変えない。
 私はすがるような思いで、腹から声を出した。

「放送部はどうなってしまうの!?」
「えっ」

 驚いたように彼は顔を上げた。
 目が合う。

「『えっ』って何よ」
「いや、放送部って何だよ」
「だから、私はあなたを放送部に勧誘しようとして、仲良くなろうと……」
「えっ。告白じゃなかったの?」

 ぽかんとお互い見つめ合う。
 ああ、この人は、私が愛の告白をしてると勘違いして……。

「だっ、誰があなたなんかに告白するのよ。私、あなたの存在、今日知ったんだからね!」
「ひどいな。3ヶ月も同じ教室にいたのに!」
「興味ないものは興味ないの! 私、あなたの下の名前も知らないからね!」
「『行麿』なんて珍しいんだから、覚えなよ!」
「偉そうに! 大体、長いのよ、小石川行麿なんて。麿って何よ、麿って」
「僕がつけた訳じゃない! 世襲なんだよ」

 恥ずかしさを誤魔化すように互いに怒鳴り合う。数台の車が物珍しげな顔をして通り過ぎて行く。

 はあはあと肩で息をする。

「自惚れてんじゃないわよ。何勘違いしてるの。私には拓磨先輩しかいないんだから」
「自慢じゃないけど、会う人会う人に告白されてたら、疑いたくもなるよ」
「ムカつく……。私なんて、彼氏いない歴イコール年齢なのに……」
「聞いてもないんだから、そんな寂しいこと、答えなくてもいいよ」
「あんたなんて星の数ほどの女の子と付き合ったんでしょうね」
「いや、1人しかいないよ。さっきみたいに丁重にお断りしてるからね」
「1人?」

 はっと彼が身を引くのがわかった。
 しかし、すぐに彼は普段の表情に戻る。

「なんでもない。それより、僕も人のことは言えない。岩瀬さんの下の名前って何だっけ?」
「短いんだから覚えてなさいよ。奈津。夏生まれだから奈津。しかも7月2日生まれだからさらに奈津」
「どうでもいい情報をありがとう」

 彼は苦笑まじりに言い、少し考え込んだ。

「奈津ちゃん……言いづらいな、なっちゃんか。なっちゃんって案外おもしろいんだね。もっと暗い子かと思ってた」
「勝手に決めつけないでよ」
「褒めてるんだから、喜べばいいじゃんか」
「どこが」

 むくれる私を彼は面白そうに眺めている。
 私は、逃げるように歩き始めた。
 彼が早足で私に追いつく。

「待って。君も僕に色目を使うようだったら、劇の役は下りようかと思ってたんだ。でも、違うみたいだね」
「当たり前。だから私が採用されたんだから」

 すべて納得したようで、彼は苦笑いのあとに、数回頷いた。

「よろしくね、なっちゃん」

 私は手をヒラヒラと振って、それに答えた。

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