なついろ 4

□13
1ページ/1ページ

 廊下でしゃがみこみ顔を覆ったまま泣き出してしまった謎の2年生女子。

 彼女の言動が理解できず、フリーズしてしまう私と行麿。

 どうやってこの状況を収拾するんだろうという疑問が浮かんだ頃に、パタパタと階段を上る音が聞こえてきた。

「ああ、もう、教室にいないと思ったらやっぱりここに……。ダメって言ったじゃない」

 現れた人は弥生先輩だった。
 あまり意外ではなかった。
 彼女はまっすぐ2年生の女子生徒に向かう。同じようにしゃがみこみ、両肩を抱いた。

「よりによってこの2人に迷惑をかけるなんて……。被害者の会と行麿くんファンクラブ、どちらの理念にも反するのよ」
「だって、ゆきたく派が……」
「ファンクラブ三大原則1つ目は?」
「……行麿くんに迷惑をかけてはいけない」
「2つ目は?」
「行麿くんでどんな楽しみ方をしても自由。強要したり軽蔑してはいけない」
「そうね。どんな楽しみ方をしても自由だけど、盗撮はさすがに迷惑をかけているわ」

 弥生先輩が私にしてくれたように、彼女の背中をさする。彼女は嗚咽を漏らしながら、途切れ途切れに謝罪の言葉を述べた。

「ご、ごめんなさい……」

 何の話がなされているのかわからないのは、眉を顰めている行麿も同じようだった。いや、彼の場合ファンクラブとか何とか言われているので理解したくないだけかもしれない。

「こんなに、ゆきなつが尊いのに、どうして伝わらないんだろうって……。投票ではどうしてもゆきたく派に勝ちたくて。でもそうだよね。知らない女に盗撮されたら行麿くんも奈津ちゃんも怖いよね。考えが足りなかったです。本当にごめんなさい……!」

 聞いたことのない単語がたくさん出てきた。何故だろうか、理解しないほうが幸せな予感がする。

 行麿は完全に何かを諦めたらしく、「大丈夫ですよ、そんなに泣かないでください」とうっすら浮かべた王子様スマイルでポケットティッシュを差し出している。彼女は「恐れ多い」とか何とか言いながらも受け取って鼻をかんでいた。

 彼は、そのままの如何にも優しそうな顔で、あまりにもナイスタイミングで現れた我らが部長に視線を移した。

「弥生先輩、何か知ってるなら教えていただけますか?」
「そうね。そろそろ放送終わりの時間だから、その後にお弁当持って放送室集合でどうかしら」

 どうやら盗撮犯には私たちが思っていたような明確な悪意はないらしいということはわかった。
 ついでに、弥生先輩が真っ先に駆けつける仲だということもわかった。
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ