なついろ 4

□12
1ページ/1ページ

 私の体に緊張が走った。

 撮られてる?
 誰から?
 私を邪魔だと思ってる人?
 ひょっとして、弥生先輩?

 放送室の入口を振り返りそうになる。
 グッと腕を掴まれた。

「え、な、何を……」
「別に?」

 強く握られた腕に動揺を隠せない。私は間抜け面をしていることだろう。
 ニコッと素晴らしい笑顔を浮かべた王子様は、その手を離さず、椅子を引いてこちらに身を寄せてきた。

「ちょ、ちょっと……」

 私の抗議はさっぱり威勢がなく、至近距離にいる人に届いたかすら怪しい。

 彼はそのまま顔を近づけてきた。
 私はあんぐり口を開けたまま、逃げることもできず、瞬きを繰り返す。

 冷静に見ると美形だよな。パーツも一つ一つ整ってるし、肌も綺麗。あ、まつ毛長い。いやいや、私は拓磨先輩みたいな大人びたかっこよさがタイプで、こんな童顔はちょっと。

 現実逃避するように目の前の顔を評価していると、それが楽しそうに歪んだ。

 この顔知ってるぞ。この前テレビで見た、野生のライオンが獲物を見つけたときにそっくりだ。

 次の瞬間、私の腕は解放され、彼の手から何かが放たれた。それは反射的に避けた私の左頬があったあたりすれすれを通って、後ろで何かに当たった。

 コツン

 振り返ると、おそらく放送室のドアにぶつかったシャーペンが床に転がっている。

「ゆ、行麿、ちょっと何すんのよ。危ないじゃん!」

 ようやく出てきた威厳ある抗議の声を無視し、彼は立ち上がり放送室の扉を開けた。

 そこには、一人の女子生徒がスマホを片手に立ちすくんでいた。

「何してるんですか?」

 彼女は、知らない人だった。
 ショートボブで目鼻立ちのくっきりとした人。
 我が校では靴のラインの色が学年によって違っているのだが、その色は2年生のものだった。

 行麿はその手からスマホを取り上げ、画面を確認した。

「現行犯逮捕ですよ」

 チラリと見えた画面には、放送室で私の頭と行麿の顔が重なった、如何にもキスでもしているような写真が写っていた。
 そんな風に見えていたのかと赤面してしまう。いや、さすがに恥ずかしい。

「あなたは何者ですか。一体どういうつもりなんですか」

 淡々と畳み掛ける行麿に、その生徒は観念したように声を絞りだし、膝から崩れ落ちてしまう。

「だって……だって、『ゆきなつ』が尊いから!!」
次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ