なついろ 4
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私の体に緊張が走った。
撮られてる?
誰から?
私を邪魔だと思ってる人?
ひょっとして、弥生先輩?
放送室の入口を振り返りそうになる。
グッと腕を掴まれた。
「え、な、何を……」
「別に?」
強く握られた腕に動揺を隠せない。私は間抜け面をしていることだろう。
ニコッと素晴らしい笑顔を浮かべた王子様は、その手を離さず、椅子を引いてこちらに身を寄せてきた。
「ちょ、ちょっと……」
私の抗議はさっぱり威勢がなく、至近距離にいる人に届いたかすら怪しい。
彼はそのまま顔を近づけてきた。
私はあんぐり口を開けたまま、逃げることもできず、瞬きを繰り返す。
冷静に見ると美形だよな。パーツも一つ一つ整ってるし、肌も綺麗。あ、まつ毛長い。いやいや、私は拓磨先輩みたいな大人びたかっこよさがタイプで、こんな童顔はちょっと。
現実逃避するように目の前の顔を評価していると、それが楽しそうに歪んだ。
この顔知ってるぞ。この前テレビで見た、野生のライオンが獲物を見つけたときにそっくりだ。
次の瞬間、私の腕は解放され、彼の手から何かが放たれた。それは反射的に避けた私の左頬があったあたりすれすれを通って、後ろで何かに当たった。
コツン
振り返ると、おそらく放送室のドアにぶつかったシャーペンが床に転がっている。
「ゆ、行麿、ちょっと何すんのよ。危ないじゃん!」
ようやく出てきた威厳ある抗議の声を無視し、彼は立ち上がり放送室の扉を開けた。
そこには、一人の女子生徒がスマホを片手に立ちすくんでいた。
「何してるんですか?」
彼女は、知らない人だった。
ショートボブで目鼻立ちのくっきりとした人。
我が校では靴のラインの色が学年によって違っているのだが、その色は2年生のものだった。
行麿はその手からスマホを取り上げ、画面を確認した。
「現行犯逮捕ですよ」
チラリと見えた画面には、放送室で私の頭と行麿の顔が重なった、如何にもキスでもしているような写真が写っていた。
そんな風に見えていたのかと赤面してしまう。いや、さすがに恥ずかしい。
「あなたは何者ですか。一体どういうつもりなんですか」
淡々と畳み掛ける行麿に、その生徒は観念したように声を絞りだし、膝から崩れ落ちてしまう。
「だって……だって、『ゆきなつ』が尊いから!!」