なついろ 4

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 そして、翌週の月曜日。
 4時間目の体育の後、女子更衣室からそのまま放送室に向かった。男子は教室で着替えているので、行麿は私より少し遅くなりそうだ。

 一昨日きた弥生先輩からのメッセージを開く。

『ごめんね。行麿くんから聞いたかな? 来週の月曜日、行麿くんと2人で放送お願いします。名指しでリクエストがあったからやらざるを得なくて。詳しくは言えないけど、大丈夫です。以下台本です。……』

 詳しくは言えないけどって何?
 と、最初見たときからずっと思っている。
 スクロールして台本だけが表示されるようにする。

 放送の準備をしていると行麿もやってきた。

「ごめん。ちょっと遅くなった」
「ううん。大丈夫」

 爽やかなスマイルを浮かべる彼に、素っ気なく返す。

 ああ、いやだな。
 モヤモヤする。私と行麿が一緒にいることで、弥生先輩や拓磨先輩に微妙な感情を抱かせているということに。

 私はふるふると頭を振って雑念を追い払った。

「さあ、頑張ろうね、なっちゃん」

 行麿は台本をちゃんとプリントして持ってきていた。私たちの前に置いてくれる。私はスマホをしまった。


「こんにちは。放送部です。不定期開催のラジオ企画、本日は私、岩瀬奈津と、」
「小石川行麿でお送りいたします。よろしくお願いします」
「さて、行麿くん。今日は何の日か知っていますか」
「はい。今日はテレビ放送記念日ですね。1953年の今日、日本で初めてのテレビ放送が……」

 私たちの台本は女子組と男子組の間くらいのフランクさだった。きっと私の教室は先週の木曜日と同じく静まり返っているのだろう。なるべく没個性で話さなきゃ。行麿と嬉しそうに放送してた、なんてイチャモンをつけられないように。

 台本は私と行麿の好きなテレビ番組の話を経由し、〆に入っていた。なんで私がこの動物番組好きだって知ってるんだろうな、この台本。

「……皆さんもこのお昼休みは好きなテレビ番組についてお話してみてはいかがでしょうか」
「もちろん、テレビばかり見て勉強が疎かになってはダメですからね」
「手厳しいですね、行麿くん。さて、本日の放送は以上です。担当は岩瀬と、」
「小石川でした。ありがとうございました」

 マイクを切り、音楽の音量を上げる。
 ふう、と息をつく。

 ひとまず大きな粗相もなく、今日の最大のミッションは終わった。

「お疲れ、上手くいってよかったね」

 あとは、この鉄壁の笑顔を浮かべたクラスメイト兼部員に、真理佳と話したことをどう説明するか。

「……あのさ、行麿」
「何、改まって?」

 ニコニコと効果音が聞こえてきそうだ。この人、本当に楽しいときにはこんな笑い方をしないので、多分機嫌が悪いんだと思う。
 視線を泳がせながら次の言葉を考えていると、彼の右手にいつの間にかシャーペンが握られていることに気がついた。手元も見ず、台本の余白の上を走らせる。

『そのまま聞いて』

 紙を覗き込みたくなるのを抑えて、視線だけを動かす。
 サラサラと迷いもせずにペンは走った。

『撮られてるかも』
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