なついろ 3
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コンコン。
扉をノックしてみる。
返事はない。
この城内で知っている場所といえば、地下牢とこの部屋だけだ。もし、ここにいなかったら、私は彼を探すことはできないだろう。
「行麿?」
名前を呼んでみる。
それでも、返事はない。
肺の中の空気を吐き出す。
自然と肩が落ちて、猫背になってしまう。
いないのか、それとも、開けたくないのか。
祈るような気持ちで扉を見つめていると、不意に、音もなくそれが開いた。
今世紀最大に機嫌の悪そうな行麿の顔が覗く。
「……」
扉を開けたまま中に戻る彼。入れという意味だと解釈し、私は足を踏み入れた。
相変わらず統一感があってどこか無機質な部屋。
その中で所在なさげに立ち尽くしている小さな王子様も、マネキンのように見えた。
ノック聞こえなかった?
耳遠くなったんじゃない?
そんなことを冗談交じりに言ってみようか。
そうすれば、彼は魔法が解けて、マネキンから人間に戻れるんじゃないか。
「なっちゃんさ」
後ろを向いたまま、彼が低い声を発した。
聞き漏らすまいと全神経を耳に集中させる。
そうでもしないと、部屋の沈黙に一瞬で溶けていってしまいそうだったから。
行麿が振り返る。怒っているような、泣いているような、笑っているような、そんな見たこともない顔をしていた。
彼は、一瞬目を閉じると、すぐに開けた。
目を開いたその表情には、一転して何の感情も浮かんでいないように見えた。
「君は、誰に雇われてるの?」
彼の右手には、いつものナイフが握られていた。そして、その切っ先は、まっすぐ私を向いていた。