なついろ 1

□12
1ページ/1ページ

「ということで、みなさん、今まで私についてきてくれてありがとうございました! 明日は絶対に大成功させて、最優秀賞をゲットしましょう!」
「おー!」

 監督の挨拶に、クラス全員が拳を挙げた。
 最後の劇練習も終わり、あとは明日の本番だけだ。
 やれることは全てやったはずだ。
 楽しみやら緊張やらで、ドキドキしている。
 それでも、こんなふうに練習することはもうないのかと思うと、少し寂しくも感じた。

「じゃあ、明日は7時半集合だから、遅れないように。それから、今日はよく寝て、明日はみんな元気に来てね! それじゃあ、また明日!」

 すっかり頼もしくなった真理佳監督の挨拶が終わり、みんなゾロゾロと帰っていく。


「岩瀬、小石川。もう一回、俺が小石川に倒されるシーン確認していいか?」

 クラスのムードメーカーであり、今回は悪のボス役を担当する高橋くんの誘いに、私達はいいよ、と答えて、台本を取り出した。

「俺が岩瀬を連れて下手(シモテ)から出てくるんだよな。そこで岩瀬が悲鳴をあげたら、小石川が上手(カミテ)から登場して、戦闘シーンが……ってあれ、このとき岩瀬ってどうするんだっけ」
「私は、行麿が登場したらすぐに彼に上手(カミテ)側に連れて行かれるよ」
「ああ、そうだった。で、戦闘シーンなんだけど……」

 2人が相談を始める。戦闘シーンは、私はステージの端で祈るように見ているだけだから、関係ない。
 彼らの武器は、ダンボールに折り紙やらアルミホイルを貼った『剣』。若干一名本物の剣を扱い慣れている人がいるためか、リハーサルでは、まるで本当に戦っているかのような臨場感だった。

「……最後に、僕が高橋くんを切って、終わりだね」
「そうそう。そしてその後、王子は姫に誓いのキスを……」
「しないからな。そんなことしてみろ。次の日には、なっちゃんが変死体で見つかるから」
「なんだ、お前、わかってたのか。自分がこの役に担ぎ出された理由」

 話にいつの間にか私が出てきている。しかし、何か嫌な単語とともに出てきたな。

「なんで私が殺されなきゃいけないの」
「とぼけんなよー。岩瀬も入ってるんだろ?」
「え?」
「……いや、なっちゃんは入ってないはずだ」
「へー、珍しいな。学校の女子の3割、クラスの女子に至っては8割が加入しているという校内最大勢力『小石川行麿ファンクラブ』の話だよ」
「……やめてくれ」

 これ以上ないほど苦々しい顔をする行麿。
 知らなかった。そんなに大きな組織だったとは。

「へー。それの会長をしてるなんて、真理佳すごいな」
「おいおい。すごいのは、小石川じゃなく林かよ。でも、確かにすごいよな。小石川のために劇まで作っちゃうんだもんな。いいなー、俺もそのくらいモテたいよ」
「……あんまりいいことないよ」
「勝者の余裕ってやつか、この野郎」

 高橋くんが行麿を小突く。
 私はクスクスと笑った。

「そろそろ暗くなってきたし、帰ろうよ。今日は早く寝ろって監督にも言われたしさ」
「そうだな。それじゃあ、最後に、主役と準主役と準々主役で気合入れようぜ」
「ん? 主役は私で、準主役は行麿で、準々主役って……」
「俺に決まってんじゃん。『なんかかっこいいアクションシーン』ってしか台本に書かれていないのに、必死で何とかしたんだぜ」
「そうそう。大変だったね。真理佳ちゃんを納得させるのは」
「小石川は何か知らないけど上手かったけどな。多分、一番苦労したのは俺だよ」

 やれやれと高橋くんが肩をすくめる。
 それはそれは、ご苦労様でした。

「ってことで、主役の岩瀬、何か言ってくれよ。俺たち、それに続いておー!って言うからさ」
「え」

 いきなりの無茶ぶりに目を見張る。
 助けを求めるように行麿を見たが、ニコッとこちらに微笑んでくるだけ。
 私は仕方なしに心を決めた。一つ咳払いをする。

「えー、明日はとうとう本番ですね。
 私は心を込めて演技します。2人もアクションシーンやら頑張ってください」

 大きく息を吸い込む。

「それでは、頑張るぞー!」
「おー!」

 私たちの声が、広い校舎に響き渡った。

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ