なついろ 1
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その昔。日本の近くにはリゾラートと呼ばれる小さな島があった。日本とその国は互いに貿易や移住をしたりと、友好な関係を保っていた。
しかし、ある時、貿易に関する誤解が生じ、日本の政権担当者は腹を立てて呪術師にその国を封印させてしまった。
そうして、その国は確かにそこにあるはずなのに、誰からも見えなくなってしまったのだ……。
「……ということさ」
「まんま真理佳の話じゃない」
「そう。だからびっくりしたよ。彼女のおばあさんは、何者なんだろうね」
「……ただの噂好きだと思う。それより、じゃあ、なんであんたはここにいるの?」
「ああ、それはね……」
リゾラートの者たちは、急に島の外に出られなくなり困ったが、すぐに自給自足の生活を営み、外の世界のことは忘れてしまった。
しかし、稀に妙なことが起こった。海に出ると一定のところから先は進めなくなってしまったのだが、帰ってこない船があったのだ。
逆もあった。急に見知らぬ船がやって来て、日本の者だと名乗るのだ。
そう。ある一定の条件をクリアすると、呪術師によって設けられた見えない壁は通り抜けることができるのだ。
独自の発達もしていたリゾラートだったが、その日本からの漂流民の知識ももとに科学的に進化していった。
「科学的な検証によって、温度、高度、速度などの条件をクリアすることによって外の世界に出られることが最近わかったんだ。
外に出られる装置も造られたが、まだ動かすには大きなエネルギー、そして資金がかかる」
「……要するに?」
「要するに、呪術師の呪いを科学的に解き明かすために、僕は留学生としてここに来ている。
数年前から、年に1人留学生を選ぶ試験があって、今年、僕は初の王族出身としてそれに合格した」
結局、あのあと教室の床に座り込み、私は彼のお伽話のような話を聞いていた。お伽話ならいいものを、『科学的に』とか出てくるから私の頭は処理に追いついていない。
「あんたはその国の王子で、かつ留学しに来てるのね?」
「そう」
「なんで? いいじゃん。王子様ならいい暮らししてるんでしょ」
私のもっともな意見に、行麿は苦笑いを浮かべた。
「僕は王子と言っても次男だ。兄にはもう婚約者もいるし、王位はまわってこないだろう。余計な政争に巻き込まれるくらいなら、ここにいたほうがいい」
「ふーん」
なんだか釈然としない気もしたが、私は頷いておいた。それよりも気になることがある。
「さっきの男は何者なの?」
「さあ。年齢的に、間違ってこっちに迷いこんでしまった、何か王家に恨みのある人の子供なんじゃないかな。
大丈夫、人を呼んでおいたから、すぐ捕まるはずだ」
「その何とかいう国から呼んだの?」
「うん。リゾラートね」
「……すごく資金がかかるって言ってなかったっけ」
「僕を誰だと思っているの?」
非常に晴れやかな笑顔で彼は答えた。
明らかに職権濫用だろう。
私は、最後に、どうしても気になることを質問した。
「なんでそんな事細かに私に説明するの? 適当に誤魔化せばよかったじゃん」
彼は私から目をそらし、ちょっと遠くを見つめた。
「一人で秘密を抱え込むのはつらくなってきたんだよ。誰かに聞いてほしかった。
あんまり知らなすぎる人に言っても、言いふらされたら困る。かと言って仲の良い人と関係が壊れたら嫌だ。
ということで、君が一番いい距離感だったんだよ。言いふらしもしなそうだし、関係が壊れようがどうでもいい」
「あ?」
最後の一言が余計だ。せっかく珍しく可愛らしいことを言ってたのに。
彼は、調子よく付け加えた。
「そうそう、あと、絶対誰にも言っちゃダメだよ。国家機密だからね。言ったら、僕は君のことを消さなきゃいけないから」
「勝手に巻き込んでおいて何それ」
「もうちょっと行間読んでくれよ。それだけ信用してるってこと」
私はよほど鈍感なのだろう。全くその要素は読めなかった。