なついろ 1
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「じゃあねー。ばいばい」
「うん。またね」
学校から出てしばらくしたT字路で真理佳と別れ、私は小石川くんと2人きりになった。
自慢じゃないが、私は人見知りだ。
今まで話したことのない人と2人きりになると、何を話していいかわからない。
「岩瀬さんって、こっち方面だったんだね」
沈黙を破ったのは、隣にいる小石川くん。
私は、ひとまず安心して会話を続けた。
「うん。そうだよ。小石川くんもこっち方面だったなんて知らなかったよ」
「ああ、僕、県外から進学してきたんだ。親の仕事の関係で」
「へえ。そうなんだ」
再び、沈黙。
ダメだ。知らない人と話すのって苦手だ。
ぐるぐると頭の中で質問を考える私に、彼が再び助け舟を出した。
「岩瀬さん、お姫様役には立候補したの?」
「いや、真理佳に勧められて」
「そっか。僕も本当はあんまり目立つことしたくなかったんだけど、真理佳ちゃんが強引に勧めるから、断れなかったんだよね」
……さぞかし血眼になって説得したことだろう。
「でも、岩瀬さんって目立たないタイプだから、こんなことするのって意外だな。断らなかったの?」
彼は小首を傾げて私を軽く覗き込んだ。
核心をついたような質問に、思わずどきっとする。
あなたに放送部に入ってほしいから、なんてここで言うのはおこがましすぎる。ましてや、拓磨先輩に喜んでもらいたいから、なんて言えない。
「……小石川くんと仲良くなりたかったから、かな?」
何も間違えていない。ベストアンサーだ。
しかし、彼は困ったように眉をしかめた。
「それって、どういう……」
真夏なのに、冷や汗が垂れてくるのがわかった。
まずい。何故か知らないけど、怪しまれている。このままでは放送部は……。
「あ、別になんでもないよ。ただ、私、好きな人がいるの。それで……」
「岩瀬さん」
彼が立ち止まった。私は一歩多く進んでしまったが、続いて立ち止まり、彼の方を向く。
「ごめん。岩瀬さん。僕は、君の気持ちには答えられない」
ざっと通り抜けた風が、近くの庭木の葉を揺らした。