お嬢様とホグワーツ 〈賢者の石〉
□プロローグ
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…逃げて、逃げて、逃げて。
私たちは、何年もの間 追われていた。
きっと厄介なのである。
名前をよんではいけない例のあの人は、魔法貴族のことが。
魔法貴族…というのは、魔法界において有力な力、権力を持つ魔法族のこと。世界に名を轟かす魔法貴族の一つにアンテノーラ家が存在する。
魔法省に立ち入る権利や魔法界の政治や教育について唯一、口を出す権利を持つ。
それが魔法貴族だった。
アンテノーラ家はその中でも有名で、毎年晩餐やらパーティーやらを開くたびにざっと500人の優秀な魔法使いが集まる。
いわゆる、お嬢様なのだ。
でも、彼女はもうこんな生活にうんざりしていた。
名誉や称号は自らが手に入れるものである。
そう信じていた。
また、魔法貴族に産まれてしまったため自分がどのような存在なのかも知っていた。
そして、自分は普通じゃないことも…。
彼女はとても可愛らしい外見をしていた。
ブロンドと金髪の間のような綺麗な髪。
麗しく澄んでいる青みがかったつぶらな目。
白すぎない白さの艶やかな肌。
でも、そこには一つ傷跡が残っている。
顔右下のはじに縫ったようなあとが。
そう。これこそ彼女に秘められた力。
生まれた時からの傷。
魔法貴族に稀に見られる体内魔力爆発。
体内魔力爆発とはとてつもない力を持って生まれた子供が体内で魔力を制御できなくなり外部に爆発してしまうもの。
爆発と言っても、大きいものではなく傷をたまたまつけてしまったところに漬け込んで傷が大きくなり、さらには裂けてしまう。というものだ。
それを縫ったのがこの傷跡なのだ。
アリアはこの膨大な力を持って生まれた自分が少しだけ憎かった。
力さえなければ、いや、魔法貴族であることにより、「普通」の幸せは手に入らないのだから。
静かで、小鳥がさえずるすがすがしい朝。
彼女は普段一人ぼっちだった。
…あの人は一瞬にして大切なものを奪った。
まわりの親族やただ一人の兄さん。
いつも優しくだいてくれた母。
今は父と使用人たちと暮らす日々だ。
父は冷静を装っているが、本当は強く動揺し怯え、怖がっていることを私は知っている。
でも私の前では笑っていてくれる。
そんな父の優しさが身にしみる。
父や使用人は言わない。
決して言わない。
でも、私は知っている。
きっとあの夜あの人は強い魔力をもった私を殺しにきた。
それの巻き添えで母や兄は死んだ。
私は赤ん坊だったけれどそんな気がしてならない。
嘘だったらいいのにと何百回何千回思っただろう。
ただ、いつも鏡を見て本当のことだと思うのだ。
―私は絶対に倒して見せる。
今持つこの力はかつて親族をけがしてしまった力だけど、私の力はそのためにあるのだ。
アリアはそう思っていた。そして、そう願っていた。
…ふと机をみると一通の手紙があった。
それは、紛れもなくホグワーツからの手紙だった。